第15章 判断が出来ない

第65話 フラムレインの街並み

 本屋では新聞を2人あわせて5紙ほど購入した。

 和樹さんは全国紙のラムザックとポトシントン、あとはヒラリア流通新報とヘラスの全年齢向け総合情報紙のヘラス週報。

 私は本日発売のエルミナレル。


「あとで和樹さんが買ったのも読ませて貰っていいですか?」


「勿論。今週分はリビングに置いておくからさ」


「なら私の買ったのもそうしておきます」


「ありがとう」


 そんな会話をしながら書店脇の道を南へ。


「美愛はこの辺のお店、友達と来たりするのか?」


「ええ。でも学校の裏側あたりまでです。それより南側はまだ行った事がありません」


「なら今日はもう少し先前行ってみるか」


 ハーベリアのある通りより南側は私が行った事がない場所だ。

 リアさん達が住んでいる場所だし、治安は悪くはないだろう。

 でも一応和樹さんに聞いてみよう。


「この先はどんな場所なんですか?」


「この辺と同じさ。共同住宅や店舗兼住宅が続いている。静かで治安がいい、高級住宅地だな。集団住宅も多いから高級居住地というべきなのかもしれないけれどさ」


市場街バザールとか商店街アーケードは無いんですか?」


「この辺りには無いと思う。お店はあるけれどそれぞれ点在している形だ。大きい店もほとんど無いな」


 確かに和樹さんの言う通り、静かで落ち着いた街だ。

 石造りの作りのいい、古いけれどそれなりに整備も掃除もされた建物が並んでいる。

 玄関部分を見ると確かに集合住宅も多い。

 しかし何処も安っぽさや小汚さは感じない。


 リアさん達やグラハムさん達はこんな感じの場所に住んでいるのだろう。

 ふと気になって知識魔法で家賃相場を調べてみる。


『単身者や少人数世帯向けの2Kで賃料は月額小銀貨45枚4万5千円相当。同じく単身者や少人数世帯向け物件が多いミッドアイランド地区と比べ、平均正銀貨1枚1万円程度高い』


 2kmも離れていないのに随分と家賃が違う。

 ミッドアイランド地区は民間市場があるミッドタウン地区の隣でそこそこ便利。


 それでもこれだけ家賃が違い、それが成り立っているという事にはそれなりの理由があるのだろう。


『ヒラリアにもやはり差別問題があります。これは人種問題や社会階層の固定化とも絡んでくるから解決が難しい』

 

 グラハムさんがそんな事を言っていたなと思い出す。

 きっと私は普段、この国の上澄みに近い部分しか見えていないのだろう。

 グラハムさんは勿論、リアさん達も間違いなくその上澄みの住人だし。


 だからと言って、上澄み以外の部分と積極的に交わるべきだとは私には思えない。

 前に絡んできた戸籍詐欺の男なんてのを思い出す。

 ああいうのは好きになれないし同情しようとも思わないから。


「どうした、美愛?」


「いえ、何でもないです」


 とりあえず今はそういった難しい事を考えるのはやめておこう。

 折角和樹さんと2人で散歩しているのだ。

 今はこの状況を楽しもう。


「ところでさっき言っていた道具屋ってどの辺りですか?」


「もう少し先だな。ここから2つ目の角を右に曲がった辺り」


 同じような石造りの建物が続く。

 建物としてはいい造りなのだろうし、雰囲気が揃っているので街並みとしては悪くない。

 ただ退屈という感じがしないでもない。


 それに他の地区に多い焼土の建物はここでは見かけない。

 理由はきっと知識魔法で調べればすぐにわかる。

 ただここはあえて和樹さんに聞いてみよう。


「この地区は石造りの建物ばかりなんですね」


「それだけこの地区が古いって事らしい。素材を運び込めない場合、石造りの建物が造りやすいから。魔力は使うけれど材料はその辺の土だけでいいから。


 その後周囲の開発が進み、柱になる木材が容易に手に入るようになると、土から全て魔法で作る石造りの建物より木の柱や板でで構造を組んで作る焼土塗りの建物の方が造りやすくなる。


 家としての機能も焼土塗りの方がいい部分が多いしね。軽くてその割に揺れに強く、修理もしやすく調湿性もあるから。


 ただ石造りの建物の方が見た目が重厚で長持ちするとされているからね。作るのに多大な魔力を必要とする点を含め、高級というイメージがあるらしい。


 新しい建物で石造りの場合は、多分にそういった高級イメージの為なんじゃないかな」


 なるほど、時代背景の他にステイタス性という面もある訳か。

 建物の造りの面でもここは高級居住地のようだ。

 やはり階層社会的な部分を感じてしまう。


 私が意識し過ぎなのかもしれない。

 それに人は皆平等だというお題目を信じている訳でもない。

 ただかつての自分は日本の中では、おそらく底辺に近い部類の生活をしていた。

 日本に階層社会というものがあるのならば、だけれども。


 だからこそ気にしてしまうのかもしれない。

 慣れないというか似合わない場所にいるから。


「そこの角を右に曲がるとすぐわかるよ、道具屋。この辺ではそこそこ大きなお店だから」


 どれどれ。

 思考を切り替えて周囲を観察しつつ、道を曲がる。


 確かにわかりやすい。

 この辺りの普通の建物と比べ、間口が2倍あるから。

 それでもまあ、私達の家と同じくらいだけれども。


「何か欲しいもの、あるか?」


「特に無いです。でも見て回るだけでも楽しそうです」


「だな」


 そう話ながら入口へ向かう。

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