【Ep.? ゆめをみたあとで】

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いい目覚めだ。

体は軽いし、気分は爽やかだし、なんだか雄鶏に「おっはよう!」と話しかけたいくらいのいい朝だ。


「おっはよう!」


うちには雄鶏がいないので、代わりに母に言ってみた。


「あらあら、今日はどうしたの、そんなに元気出して」


母は苦笑して、私を見つめていた。


「おうおう、どこの鶏が鳴いているのかと思ったら、うちの娘じゃないか」


父も上機嫌で笑っている。


「いい夢見たの!!」


私はそう叫んで、家を飛び出した。




向かう先は決まっている。

昔っからの幼馴染で、いつも一緒だった、あいつのところへ。


「おれ、いつか勇者として認められたら、魔王を倒しに行く」

「だからその時は、お前の魔法で力を貸してくれよな」


いつもそう言っていた。

その言葉は現実となり、あいつは勇者として旅立つ日を待っていた。


だけど……




私の魔法は、まだまだだった。

威力が弱い。

自在に夢が見られない。

だから、まだ旅立てないでいた。


あいつは私を待ってくれている。


だから、私は、何度も何度も、旅立てる日を夢見ていた。

私の魔法が役に立てるようになる日を待ち焦がれていた。


「おっはよう!」


私の元気いっぱいの笑顔は、彼に届いただろうか。

その笑顔が、なにを意味するのかを、わかってくれるだろうか。




「来たか!!」


その笑顔は、私の思いを十分にわかってくれている証だった。


「見たよ!! 魔王を倒す、夢!!」


私も満面の笑みで、答えた。

ついに、この日が来た。


「よし、そうと決まったら、すぐに出発の報告に行こう」

「うん!」

「でも王様に会うのに、その格好はまずい」

「うん?」


私はまだ、寝巻のままだった。




旅立つ支度を済ませて、私たち二人はお城へと向かう。


「両親、心配していなかったか?」

「大丈夫よ、もう、子どもじゃないんだし」

「そっか」

「それに……お父さんもお母さんも、かつては冒険者だったんだから、その辺は寛容なのよ」

「……だな」


私も両親のように魔王を倒しに行きたいと願った時、二人とも強く止めることはしなかった。

私は母の血を濃く受け継いでいたから、母と同じように魔法が使えたのだ。

その威力をよく知る父も、私の魔法を褒めてくれた。

だからきっと、旅立つことを、許可してくれたんだと思う。




「夢の中でね、私、あんたのこと、『様』をつけて呼んでたわ」

「なんだそれ」

「私も現実よりだいぶおっちょこちょいだったし」

「現実も十分おっちょこちょいだろ」

「前日に見た夢しか、魔法で使えなかったし」

「そんなんでよく魔王を倒せたな」


母はそれで魔王を倒したそうだが、私には心細い夢だった。


「そこはまあ、ほら、色々うまくやったのよ」

「なんか急に不安になってきた……」

「ま、まあなんとかなるわよ、うん、きっと」


私は自分を励ますように言った。


かつて母が成し遂げた「世界平和」を、私もきっと実現して見せる。

何度魔王が立ち上がってきても、そのたびに滅ぼしてみせる。

この魔法は、そのためにあるのだ。


「まずは、北の大陸まで一日で行けるくらいじゃないとな」

「魔物たちは私の魔法で一掃してやるからね!!」

「おう、頼りにしてるぞ」


グッ、とこぶしを差し出してくる。

私もこぶしを返す。


その指にはめた、母からもらった指輪が、太陽の光を反射して、きらりと光った。



★おしまい★


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夢をみたあとで モルフェ @HAM_HAM_FeZ

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