【Ep.9 けんそうに ふる たいよう】④
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真っ黒な石垣。
どこもかしこも、石、石、石。
空から魔物が舞い降りてくる。
大きな口を開けて。
私はすっと手をかざす。
―――ゴォォッ
燃え盛る火炎が、魔物を包み込む。
しかし、火が収まると魔物は傷一つなくそこに佇んでいた。
大きな口を開けて。
勇者の姿はない。
斬り裂いてもらえたら心強いのに。
―――ゴォォッ
やはり、魔物は口を開けて平気そうな顔をしている。
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―――
ガタガタッ
「ひゃっ! 何事ですか!?」
強い揺れに身を起こした。
勇者が揺らしたのかと思ったけど、勇者は隣のベッドの中にちゃんといた。
じゃあ今の揺れは?
「魔物の襲撃らしい。 急いで出るぞ!」
勇者はいつにもなくすっきり目が覚めているようで、ちゃっちゃと鎧を身に着けると剣を背負った。
私も急いでローブとマントを着込み、勇者とともに宿を飛び出した。
空は赤く染まっていた。
そこかしこで火が上がっている。
しかし、石ばかりで燃えることはないはずなのに?
「これはきっと、防衛軍の起こした火だ」
「どうしてわかります?」
「この城を攻めようとするやつが、火を使うとは思えない」
「あー、なるほどお」
町の人は誰もいなかった。
民家に閉じこもっているのだろう。
女戦士さんたちが戸締りをチェックしながら走り回っている。
「さすが防衛に特化した町だな」
「誘導がとても速かったんでしょうね」
「しかし、魔物はどこから入ったんだ?」
「空じゃないでしょうか」
「空か……それは確かに防ぎにくい」
「だけど、中に入られても町を守れるような作りになっていますね」
「想定済み、というわけだな」
私たちは走りながら、この町の作りに感心していた。
石ばかりというのもそうだが、道に無駄なものがほとんどない。
これはとても戦いやすい。
また、建物の屋根も平坦なところが多い。
きっと走り回りやすく作ってあるのだろう。
さらには広場が多い。
普段は催しごとがあったり、商店が立ち並んだりするのだろう。
魔物が入り込んでも囲んで捕らえたり倒したりしやすい作りになっている。
「こりゃあ、防御力が高そうないい町だ」
「同感です」
女戦士さんたちは火を掲げ、盾や剣を持ち、魔物の残党を探し回っている。
鎧人形たちも、等間隔に配置され、次々と魔物たちを狩るべく動いている。
「せっかくお招きいただいたんだ、町の防衛に一役買おうぜ」
「了解です!」
私たちは一番近くの広場に飛び込んだ。
広場の中心には、見た覚えのある魔物がいた。
ぬめり気のある体、小さな羽、大きな口。
「あ! あいつら、魔の森にいたやつらじゃないか?」
「ほんとですね、リベンジですね?」
「おれたち負けてないだろ!」
「魔物目線で言ってみたんですよ!」
「じゃあおれたちやられるじゃねえか!!」
「やられませんよ!!」
ぎゃあぎゃあ言いながら、私たちは魔物たちの前に躍り出た。
今日の夢は火だった。
【よく燃え~る】の出番だ。
だけど、ちょっと夢の内容が気になっている。
「さっき夢見たか? なんの夢だった!?」
「火です!」
「じゃあ個人戦だな! 死ぬなよ!!」
「お互い様です!!」
千年の眠り。
ひとかけらの紅玉。
天秤にかけるは火薬、壁に隠すはガマ油。
空駆ける龍尾と舌の上の血溜まり。
時満ち足りて黒炭の棺。
【夢魔法 よく燃え~る】
―――ゴォォッ
まず右手、それから左手。
二つの火球を作って、間合いを取る。
魔物は、戦士たちからこちらに目線を移した。
「ガァァァアアア……」
涎をびちゃびちゃと垂らしながら、口を大きく開いている。
「はっ!!」
私はその口めがけて、火球を思いっきり放り込んだ。
―――ボシュッ!!
「!?」
火球が掻き消えた。
魔物は平気な顔をしている。
「ガァアア……」
もっと来い、と言っているようだ。
もしかしたら、火が効かないのかもしれない。
これはまずい。
今私は、【よく燃え~る】しか使えない。
―――ザシュッ
後ろでは勇者が軽快に魔物を斬り裂いている音がする。
―――ザシュッ!!
魔物の断末魔らしきものも聞こえる。
「ゆ……」
勇者様、こっちのも斬っちゃってください。
そう言おうとして躊躇った。
だめだ、こんなところで勇者に全部片付けてもらっては、だめだ。
私だって勇者の一行なんだ。
隊長さんにも魔法を褒めてもらったじゃないか。
なんとか私の魔法で打開できるように、考えなければ。
「ええい、一個効かなかったからって、諦めるんじゃないわよ、私!」
まず炎が効かないのか、魔法が効かないのか、それを確かめなければ。
私は女戦士さんが持ってきていたらしき松明を一つ拾い上げ、魔物の方に投げてみた。
「ガッ」
魔物は嫌がって避けた。
火は怖いらしい。
ということは……
「円、円、円のイメージ……」
私は魔力を火球にするのではなく、大きな輪を作るようにイメージしてみた。
「はっ!!」
―――ゴォォォォォォオオオオオオッ
魔物を取り巻くように火の円で包み込む。
「ガァァアアッ!!」
うふふ、嫌がってる。
成功ね!
しかし、それでもだめだった。
がぱっと開けた大きな口で、火を食べ始めたのだ。
火を、というか私の魔力を食べているようだ。
「ガッガッガッ……」
魔物は笑っているようだ。
私の魔法が通用しない。
悔しい。
「じゃあ次の手よっ!!」
でも諦めない。
柔軟に考え、上手にコントロールし、勇者の一行らしく立派に戦ってやるんだから!!
「……よく……燃え~……るっ!!」
魔力を練る。
丁寧に座標を決め、はじめは小さく、徐々に大きく。
そして、弾けさせる。
「だぁっ!!」
―――ゴォッ!!
―――バチィン!!
魔物は体内から燃え上がり、砕け散った。
「やた! うまくいった!」
ぴくぴく、と動いている部分もあるが、大半を吹き飛ばすことができた。
これでは生きていられまい。
私は少しほっとして、胸をなでおろした。
「い、今のは?」
近くにいた女戦士さんが怯えながら聞く。
「魔法が効かないっぽかったので、直接魔力を体内に送り込んだんです」
「魔力を消化する器官があったとしても、そうじゃない部分がきっとあるはずですから」
あの魔物は口から魔力を取り込んでいた。
だから、人間の消化器官みたいな感じで、魔力を消化する器官があると思ったのだ。
つまり、人間と同じように「消化器官じゃない内臓部分」も、きっとあるはず。
そこを狙ってみたのだ。
「そんなことが……」
女戦士さんは心底驚いたような顔をしていた。
普段魔法を使わない人たちからしたら、想像がつかないのかもしれない。
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