幕間【おそろいの人形】

「あ! これ! すっごく可愛くないですか?」


町の露店で、とても可愛らしい人形を見かけた。

魔道士をかたどった人形だった。

手のひらに収まる程度の大きさだが、細かいところまでよく刺繍されている。


「ねえ、ねえ、これ買ってもいいですか?」


勇者におねだりする。


基本的には「無駄な買い物をするな」と怒られるが、気前よく買ってくれるときもある。

だから私は、欲しいと思ったものがあったらできるだけ遠慮なく言うようにしている。


「……そんなもの買って、どうするんだ」


無駄と一刀両断されたわけではなかった。




「カバンにぶら下げたら可愛いと思いませんか?」


よく見ると、戦士のような人形や商人のような人形もある。

踊り子や、農民や、よくわからない派手なものや地味なものや……

勇者の姿によく似たやつもあるかもしれない。


「お前それ、どういうものかわかってて言ってんのか?」

「え? どういうものかって……?」

「それ、まじない人形だぞ」

「……なんですか、それ」


名前がちょっと怖い。




「お客様、お目が高い」


若い女店主が声をかけてきた。


「そいつにはアタシの魔法がかかってる」

「背中のポケットに『ヒトの一部』を入れておけば、そのヒトとリンクする」

「ヒトが傷つけば人形も傷がつき、元気になれば直る」

「ま、そんだけの子ども騙しだけどね」


「ひひ、人の一部を入れる!?」


グロくないですか、それ。


「馬鹿、髪の毛とか、血の一滴とか、そんなんでいいんだよ」


あ、そっか。

それなら……まあ……いいか。




ときどきこういうものを作る魔道士がいるらしい。

難しい魔法というより、それぞれの地域に伝わる民間魔法の一種で、個性が出るらしい。

魔法の個性という意味では、私の使う夢魔法もその一種だろう。

なにしろ母と私しか使ってない。


「もしかして、その人形が壊れたら私が同じように壊れるとか、そういう……」

「いや、それは大丈夫」


そういう魔法もあるが、それだと人形を後生大事にしなければいけなくなるので、だいたいは人間から人形への一方通行らしい。

それでなにか旅が快適になるかというとそんなことはなさそうだが、それだけのギミックが、なぜか私の心をつかんだ。


「ねえ、ねえ、勇者様、買いましょうこれ!」




……


可愛らしい魔道士のもの、勇者の装備になんとなく似ている気がするもの、二つを購入した。


「これ、おれに似てるか?」


勇者は少し不満そうだったが、あの中で一番似ていると思ったものを選んだ。


「リンクさせると、少しずつ本人に似ていったりもするんで、お楽しみに」


店主さんはそんなふうに言って笑った。


二人でそれぞれ髪の毛を一本入れて、準備完了。


「じゃあ、勇者様、こちらを」

「あ? これはお前の方じゃねえのか」

「いえいえ、こちらを勇者様に持ってもらって、私はこちらを」




カバンにくくりつけるためのひもも、鮮やかな糸を織り合わせてあっておしゃれだ。

私はすっかり気に入ってしまった。

この、勇者っぽい方の人形が。


「……」


勇者は魔道士っぽい可愛い人形を持って少し固まっていたが、ため息をつきながらカバンに仕舞った。


「大事にしてくださいね、ふふふ」

「お前こそな」


勇者とおそろい。

というか交換。

ちょっと嬉しい。


「すぐ汚したり腕もげたり、させないでくれよ」

「そんなことしませんよ!」


大事にしよう。

私はそっと人形をなでた。

なんだか少し、温かい気がした。


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