【Ep.3 みえないてきと ほうしゅう】③

……


町の武器屋には、なかなかの剣が揃っていた。

軽そうなのも、重そうなのも、とげとげの物もある。

趣味の悪そうなのもある。


「はいはい、王様から伺っております。どうぞお好きなものをお持ちください」


武器屋の主人は気さくにそう返事してくれた。


「私も可愛い杖とかほしいですね」

「魔力のコントロールに杖はいらないとか言ってたじゃないか」

「気分ですよ、気分」


カランカラン


店のベルが鳴り、見覚えのある大男が入ってきた。




「いよお、まだ居てくれたか」

「なにか御用ですか?」

「礼をしてなかったからな」


そう言って、彼はずしりと重い小袋を勇者に渡した。


「クリスタルのかけらだ、それ、礼にやる」

「!?」

「!?」


私も勇者も、目が真ん丸になっていただろう。

命がけで王様の為に取ってきたものじゃないの?




「かけらを練り上げる技術は、この国にはまだねえんだ」

「だがあんたたちの旅の先、これを使って剣なり鎧なりを作ることができる職人がいるかもしれないだろう?」

「だったらこれは、この国ではなくあんたたちの方が有効活用できると思ってよ」


「ありがたく頂こう」

「売ったら、いくらくらいになりますかねー」


ベシッ


今日はよく頭を叩かれる日だ。




「嬢ちゃん、魔法使いなのに知らねえのかい」

「なにをです?」

「クリスタルは、魔法ととても相性がいいんだぜ」

「え?」


そもそもクリスタル自体がとても希少だから、目にしたこと自体がないんだけど。

でも、魔法と相性がいいなら、ぜひ武具にして役立てたいところだ。


「嬢ちゃんがしてるその指輪にも、使われてるみたいだし」

「え!? これクリスタルだったんですか!?」

「知らなかったのかよ」




「これは、母の形見で、もらったものなので……」

「いい物をもらったじゃねえか。そりゃあ嬢ちゃんの魔力を増幅する力もあるようだ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、それで納得した。お前が体に似合わない大きな魔力を放出するわけ」

「ちょっと、体に似合わないってどういうことです!?」


私は勇者に怒りながら、あらためて母にもらったこの指輪をひと撫でした。

これは緑色をしているけど、大男さんにもらったクリスタルは違う。

もらった方は、白色というか、青色というか、銀色というか、そんな感じの色だ。




「さてと、じゃあ、いい旅をな」

「ああ、クリスタルありがとう。きっと魔王討伐に役立てよう」


大男さんと勇者は、がっちりと熱い握手を交わした。

私には入り込めない「男の世界」のようで、ちょっと羨ましかったり妬ましかったりした。


「嬢ちゃんも、達者でな」


そう言って、大男さんは私にも手を差し出してくれた。

私はちょっと嬉しくなってしまった。


「ええ、立派な大魔道士になって、魔王を倒して、凱旋しますので」

「楽しみにしているぜ」


そして大男さんは、がはは、と笑いながら去っていった。

大男さんとの握手は、それはそれは痛かった。




勇者の新しい鎧は、兜とは揃いに見えないが、軽量で動きやすそうだった。

店の前でくるくると動く勇者は、新しい服を買ってもらった踊り子の女の子みたいで、なんだかおかしかった。


私は、杖はやめて新しいローブをもらうことにした。

金の糸の刺繍が入った紺色のローブで、厚みがちょうどいいと思った。

それよりも、着ていたローブがとても汚れていて弱っていることに気づいたからだった。

魔法を繰り返し使ううち、私の体の周りにもダメージが来ているとは知らなかった。

これまで、そう何度も魔法を繰り出すことはなかったものだから。


「ま、服は消耗品だし、仕方ないな」


勇者もそう言って、私のローブを見てにっこり笑った。




「この旅の中で、きっとクリスタルを扱える職人と出会えるはずだ」

「で、どうするんです?」

「武器なりなんなり、加工して使えるようにしてほしいな」

「あ、そういえば、武器」


勇者がさっき買っていた剣を、私はまだ見ていなかった。

買ったといっても、代金は王様持ちだけど。


「ああ、これ、いいぜ」


勇者はシャキン、と音を鳴らして背中から剣を抜いた。

つばの部分に装飾を施してある、細身の剣だ。




「いつかはでっかい剣を振り回したいがな、今のおれにはこの細さがちょうどいい」

「そういうもんですか」

「ああ」

「細い剣、格好いいと思いますけどねえ」

「格好よさでは魔王は倒せねえよ」

「まあ、そうですけど」


勇者は、剣も消耗品と考えているようだ。

まあ、私の魔法を纏って剣をふるえば強いのは分かったが、あまり持たないことも分かった。


「あ」


いいことを思いついてしまったかもしれない。




「どうした?」

「クリスタル、魔法と相性がいいって話でしたよね?」

「ああ、言ってたな」

「じゃあ、クリスタルを剣に打ち込んでもらえれば、魔法剣にとても相性のいい剣が……」

「ああ、それはおれも考えたが……」


考えてたんだ。

さすが、勇者。


「それほどの量はない」

「それほど?」

「剣になるほどには、ってこと」


まあ、あまりのかけらをくれたくらいだから、量は確かに少ない。

でも、私の指輪だって全部がクリスタルでできているわけではない。




「私の指輪にみたいに、一部に埋め込むのでは、いけませんか?」

「うーん、クリスタルの入った剣ってのを、見たことがないからなあ」

「……私もないですけど……」

「だろ?」


まあ、クリスタルのことは置いておいて、私たちは今後の身の振り方を考えた。

装備は整えたし、この大陸は意外と大きいし、鍛錬しながら魔王城に着くにはどうしたらいいだろう。


とりあえずはこの町で情報を集めることにして、私たちは宿に向かった。


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