幕間【俗っぽい魔道士】

「お前は食いしん坊だし金に目がないし、なんだか俗っぽい魔道士だな」

「えへへへ、そうですかあ、それほどでもないですよう」

「褒めてねえんだよ」


クリスタルを欲しがったり宝物庫の鍵を開けてもらおうとしたりしたことを叱られた。

勇者の一行として恥ずかしくない振る舞いをすること、と約束をさせられた。


「旅に必要なものは、なんでも有効活用すべきでは?」

「それは自然物の場合だ」


冒険を安全に効率よく進めるには、なんでも利用すべきという考え方自体は間違っていない。

時には困っている人を助け、恩を売ることも大切だろう。

しかし冒険をうまく進めるためにという欲で動くのは本意ではない。そんな心意気は勇者として持つべきではない。

困っている人を助けた結果、自分たちの旅によいことが起こったり、その人が好意的に接してくれるようになったりすることはいいことだが、見返りを求めて人助けをするのは本末転倒であり、おれはそういう人間ではありたくない。


勇者の言い分は、だいたいそういうことだった。




立派だ。

まっすぐだ。

勇者かくあるべし、を地で行く勇者だ。


だけど私は私で、そういう生き方は息苦しくないのだろうかと心配になってしまったりもするのだ。


「勇者様がまっすぐ誠実すぎるので、私はこれくらいでちょうどいいんですよ」

「お前は悩みがなさそうでいいな」

「いえいえ、私にも人並みに悩みだってありますよ」


まっすぐで眩しい勇者の横で、私が「勇者の一行だ」と胸を張っていられるようにするためには、強い精神力が必要なんだと知った。

「夢で見た魔法をぶっ放す」というたったそれだけの命綱を、太く強いものにしなければいけない。




「勇者のまっすぐさ」「誠実さ」が、いつか人の悪意に飲まれることもあるかもしれない。

そのときは、きっと私が盾になってやろうと決めた。


私は誠実でなくてもいい。勇者以外に対しては。


「勇者様はそのまま、誠実でまっすぐでいてください」

「あん?」


お前はほんとに悩みなんてあんのか? という顔だ。

でもいいんだ。

私はこのままで、この関係で、別に。




「クリスタルを持った困っている人がいたら、どんどん助けましょうね」

「助ける相手の選り好みをするな」

「冗談ですって」

「冗談に聞こえないんだよなあ」

「囚われのお姫様がいたらすぐ助けましょうね」

「それは当然だろ」

「いっそ私がこっそりさらって、勇者様が助けるというプランは……」

「却下だバカ!!」


けらけらと笑い声が宿屋に響く。


「お前はほんとに俗っぽいな。本当に魔道士か?」

「だって、僧侶じゃありませんからね、私」


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