【Ep.6 ふたたび くろいりゅうのしれん】③
龍の香草焼きを食べながら、二人で今後のことを相談した。
もしまだ何回も【巻き戻~す】が使えるのなら、ここらの龍を倒しまくるべきではないか。
この山道を通る人たちは、常に龍の恐怖に怯えているのだ。
龍は繁殖が遅いようだから、絶対数を今日のうちに減らしてしまえば。
そうすればしばらくは、龍に怯えることなくこの道を通ることができるんじゃないか、と。
この一帯の人たちの安全のためでもあるが、それは私のためでもあった。
私はどれくらい魔法を使い続けられるのか。
お腹が減っても疲労が溜まっても、使い続けられるのか。
【神鳴~る】を使ったときも、へとへとにはなったが、多分まだ威力は落ちていなかった。
「ただ今回の場合、試してみて使えなかったらやばいんだけどな」
「勇者様が肉片のまま明日を迎えるのは嫌です!」
「縁起でもないことを言うなよ」
「実際に起こったんですから!!」
いざというときに魔法が使えなくなっては困る。
でも、ギリギリを見極めることの大切さも、よくわかる。
「まあ、限界でなくても『ここまでなら大丈夫』という指標はほしいな」
「今後のために、ですね」
私たちはお腹いっぱいになった後、龍のうろこのうち特にいい感じのを剥いで、茂みに隠しておいた。
それから爪、牙、ひげも。龍の体は優れた素材に溢れている。
倒れている龍はそのままにして(ついでにお肉も一部もらっておいた)、さらに山道を進んだ。
チリンチリン!!
景気良く、鈴を鳴らして。
チリンチリン!!
今回は勇者も、「静かに歩け」とは文句を言わなかった。
……
結局、私の【巻き戻~す】は夕暮れまで使っても威力が落ちなかった。
私は疲弊しきっていたし、3回ほど使ったあたりから腹の虫が泣きわめいていたけれど。
あのあと、都合3回の大きな傷と、1回の死亡と、1回の私のケガと、2回の竜のパワーアップを巻き戻した。
時間が巻き戻せるのなら、と勇者はいつもより無茶な戦い方をしていたように思う。
「聞いてねえよ、翼を斬り落としたらキレてパワーアップするなんて」
「あれは単なるきっかけだったんじゃないでしょうか。どこ斬ってもキレてましたよ」
「1回目は覚えてないからいいけど、じっくり死ぬのは怖かった」
一度目にしたとはいえ、それでもやっぱり勇者の死はショックだった。
焦りもあった。
やはりこの魔法は、もっと早く使えるようになっておかないといけないな、と反省した。
「私がもっと早く巻き戻すべきでしたね……」
「血がどくどく流れてさ、目がかすむのって、怖いな」
「すみません……」
「でもそのおかげで、ほれ」
私たちの前に、累々と積み上がる、大小さまざまな龍たちの死骸。
この山道に、こんなにいたのかと思うほどの、龍たちの死骸。
「ちょっとやりすぎたか」
「ちょっとやりすぎましたかね」
木を組んで作った「いかだ」で、ずるずると龍の素材を引きずり、私たちは村へ戻った。
とても大きくて多くて、なかなか大変だったが、これで勇者の鎧ができると思えば苦ではなかった。
「あっ」
ずるっと足を滑らせ、私は転んでしまった。
「おいおい、疲れがたまってるのか?」
勇者は優しく手を差し伸べてくれた。
もともと口が悪いときはあったが、優しい人なのだ。
手を握って立ち上がったとき、私は少し意地悪なことを思いついた。
「ありがとうございます、勇者様。優しいんですね♪」
そう言って、顔を寄せた。
「ん?」
戸惑う勇者に、チュッと口づけをしてやった。
「……は?」
「えへへへ、お礼です」
「……は? え? なに?」
恥ずかしがっているような、困っているような、変な表情で固まる勇者。
面白い顔。
やっぱり悪いことをしたかしら、と思って、もちろん【巻き戻~す】で時を戻しておいた。
そのあとちらちらと勇者はこちらを見ながら、変な顔をしていた。
私は知らんぷりをして、よいしょよいしょ、といかだを引きずった。
「ああ、これはいい鎧が作れそうだ」
村の鎧職人さんは、飛び切りの笑顔で私たちを迎え入れてくれた。
「今行けば、まだまだたくさん転がってるんで、よかったら使ってください」
「本当かい!? それならさっそく何人か取りに行かせよう」
鎧職人さんは、弟子に指示をし、素材を取りに行かせていた。
やっぱり職人からしても、龍のうろこは便利なのだろう。
たくさん倒したのも、より意味があるってものだ。
「貴重というよりも、やっぱり簡単に倒せる魔物じゃないからね」
「特にこのあたりの龍は多彩な攻撃をしてくるし、怒りっぽいし」
「素材をほしがっても、倒せる旅人はそうそういなかったんだ」
鎧職人さんは上機嫌だった。
近くにあるけどなかなか手に入らなかった良素材が、一度にたくさん入ったのだから、当たり前か。
「当然お代はいらないよ!! むしろこっちが買取してもいいくらいだ」
「いえ、それには及びませんよ」
私も学習している。
勇者の一行たるもの、金に卑しくてはいけない。
勇者がこっちを見て、ちょっと驚いていた。
「ついでに盾は作れるかな」
「ええ、ええ、そちらのほうが簡単ですよ」
「おい、お前の分も」
「あ、いえ、私は結構です。重い装備は使いこなせないですよ」
「じゃあ、ローブの上にはおるマントなんかは?」
「……それは……いいかもしんない」
私は龍のマントをまとって魔法をバンバン使う大魔道士を頭に描いてみた。
いいかもしんない。
「しかし勇者ってのは、やっぱりほかの旅人とは一線を画す存在なんだなあ」
鎧職人さんはため息とともに、そう言った。
出発する前に見せた「どうせ無理だろう」的な諦めの表情は、今はまったくなかった。
「いや、最初はね、『今回も無理だろうな』と思ってたんだよ」
「今までいろんな奴が大口叩いて、結局無理だった例をいやというほど見てるからね」
「だからあっさり、それも複数倒したやつを初めて見て、びっくりしちまったよ」
私は少し得意げになって「いえ、それほどでも」と笑って見せた。
勇者の一行には余裕が必要だ。
すげー私、ひゃっほー、では格好がつかないものね、うん。
正直あの戦闘は「あっさり」とは程遠かったが、龍を複数倒したことには変わりはない。
褒められるたび、私は嬉しくなった。
鎧を作ってもらっている間、私たちは町で休むことにした。
確実に前進している。
それを思うと、少しここで足踏みするのも、悪くないと思えた。
一日ではとても作れないので、何日か滞在することになりそうだ。
とりあえず、ということで、酒場に向かった。
「酒場は情報収集の基本」
ごもっとも。
「うまい酒も飲めるしな」
ごもっとも!!
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