幕間【龍とお茶会】
泉の守り神である龍さんに、お詫びのしるしとしてお菓子とお酒をお供えした。
先ほど村でいただいてきた逸品だ。
米を甘く調理したものをもとにした菓子だそうで、龍さんはたいそうこれがお好きなんだそうだ。
『ありがたく頂戴しよう』
「ははーっ」
『これまでも花を燃やして回った冒険者や魔物はいたから、そんなに気にするな』
「ははーっ」
『かしこまらなくていい』
「……では、そのお菓子、私もちょっといただいてもいいですか」
『そこまでくだけるのも違うと思う』
小さな村と泉ではあるが、回復効果のある水だということで、訪れる者は多いらしい。
「わ、私の他の不届き者は、どうなったんですか?」
『聞きたいか』
「こ、後学のためにも」
『塵にした』
「ひっ」
『腕試しではなく、ワタシを狩りに来た者だったがな』
「そ、そんな馬鹿もいるんですね……」
わ、私の声は不自然に震えていなかっただろうか。
だい、だい、大丈夫だと、おおお思う。うん、平常心平常心。
あれ、このお菓子美味しいわね。自分用にも買っていこう。
「あ、あの、龍さんはどれくらいの間この泉を守っているんですか?」
『さあ、忘れたな』
「長すぎて、ということですか?」
『ああ、ワタシの寿命と、お前たち人間の寿命は違いすぎるから』
「そうですか……長生きなんですね……」
例えば私がよく滞在する町に毎年毎年ミンミンと泣くセミがいたとして、去年と今年のセミは全員違う個体だとして、「人間さんは長生きですね」と言われたとしても、どういう感情を抱いたらいいのかよくわからない。
そういう感じだろうか。
『お前たちの使う一年という単位は、ワタシには短すぎてあまり実感がわかないのだ』
そっか。
確かに時間という単位は人間が勝手に作ったものかもしれない。
それで測られても、確かにわからないだろう。
セミに「ええ!? 二週間もこの町にいるんですか!? わたしの寿命二周分じゃないですか!? 長いですね!」なんて言われても「はあ、そうですか」ってなもんだ。
『お前はちょくちょくセミで例えるのが趣味なのか?』
思考が漏れ散らかしていたようだった。
恥ずかしい。
『それにしても、お前の魔力はなかなかのものだった、今後の旅の無事を祈っているぞ』
ありがたいお言葉を頂戴した。
私なんかにはもったいない。
『あの勇者も、若いのにいい剣筋だった。期待できそうだ』
勇者にもありがたいお言葉を頂戴した。
聞いた私が嬉しくなってしまう。
「もし無事に魔王を討伐することができたら、また寄らせてもらいますね」
『ああ、楽しみにしている』
「たぶん、龍さんの寿命からしたらあっという間だと思いますよ」
『……だろうな。気楽に待っているぞ』
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