【Ep.11 つきないくらい あふれてる】⑤
「……おはようございます」
「おう、おはよう」
やはり指輪がないと、シャキッと起きられない。
ていうか体中が痛い。
でも、お婆さんに指輪を調整してもらっているのだから、文句は言えない。
「さ、飯の準備をしようぜ」
「はあい」
工房からは、すでに作業の音が響いていた。
「なあ婆さん、おれたちになにかできること、ないかな」
朝食をとりながら、勇者はお婆さんに聞いていた。
「遊んどったらええよ?」
「いや、そういうわけには……」
「鎧ももうほとんど運んでもらったしの、じゃあ、ヒマなら食える魔物でも狩ってきてもらおうか」
「あ、それならやれるぞ」
私たちのやることが決まった。
うまく塩漬けとかにして、お婆さんの食糧を貯めることもできるかもしれない。
いい感じの木の実とかを見つけてきて、ジャムを作ってもいいかもしれない。
……
「いませんね、魔物」
「鎧兵のせいで、近寄らねえんじゃねえか?」
城跡を見回しても、鎧兵以外の魔物がとんと見つからなかった。
ちなみにお婆さんが指示を出してくれたのか、鎧兵はもう襲ってくることはなかった。
そのあたりをうろうろしている。
「木の実も、ありませんね」
「そもそも茂っている木が少ないからな」
このあたりには、食糧になるものが全然なかった。
どうしよう。
「もうちょい遠出するか」
「そうですね」
城跡を出て山の方へ向かうと、様子が変わってきた。
「お、あのあたりの樹々には木の実がありそうじゃないか?」
「あ、ほんとですね」
「お、あのあたりの土にはいい感じの毒ミミズが住んでそうだぞ」
「だから、毒っつってんのになんで食糧だと認識してるんですか!?」
木の根、木の実。
オオコウモリの腹の肉。
川の魚。
食糧探しは、昼まで粘って、なかなかの収穫を見せた。
しかしもっと大きな収穫があった。
「ゆ、勇者様! 魔法が! 魔法が使えます!」
なんと、木の実を取ろうとして試してみた【風立ち~ぬ】が、ちゃんと使えたのだ。
「風立ち~ぬ!!」
―――ビュンッ
―――ぶぉぉぉおおおおお!!
「おいおい、ちゃんと威力があるじゃないか!」
「で、ですよね!?」
「夢は見なかったんだろ?」
「だって、指輪はお婆さんに預けてましたもん!!」
指輪なしで寝たにもかかわらず、過去の魔法が使えた。
威力は絶好調とは言いがたいが、十分だと思える。
それなら、もしかしたら……
「ほ、ほかの魔法も使えるかもしれません!! すぐ試さないと!!」
いろいろと試してみた結果、これまでに使ったことのある魔法はすべて使えた。
威力も十分だった。
「ど、どうしてでしょう?」
私は抑えきれない興奮をなんとか静めながら、自分に起こったこの現象を解明しようとしていた。
指輪で寝なかったことが関係あるのだろうか?
でも、前にも指輪なしで眠ったときは、なにひとつ魔法が使えなかった。
「お前の成長かな、つまり」
「成長してるんですかね? 私」
「それが一番説明がつきやすい、ってだけだけどな」
「やー、嬉しいですね、成長って、ね!」
私のテンションは、いつになく高かった。
勇者も落ち着いて話しているけれど、この現象を喜んでいるのが伝わってきた。
「だけど、問題もあるぞ」
「問題?」
「昨日の婆さんの話だと、お前が一種類しか魔法が使えないのは、お前自身のストッパーだってことだ」
「はあ」
「つまりだ、そのストッパーが外れるってことは、魔力切れを起こす体になったのかもしれないぞ」
「あ、そっか」
それだと意味がない。
強力な魔法がたくさん使えても、すぐに使えなくなるのでは。
「土砂崩れ~る!!」
―――ズズゥウウン!!
「よく燃え~る!!」
―――ゴォォォオオッ!!
「よく冷え~る!!」
―――ピキィンッ!!
「絶好調です!!」
「お、おお、すげえな」
私は嬉しさのあまり無駄に魔法をいっぱい使ってしまったが、魔力が尽きる感じはしなかった。
だけど、そんなにいっぱいの種類、魔法は必要なかった。
【風立ち~ぬ】と【土砂崩れ~る】があれば事足りてしまった。
「そういえば、水を操る魔法はないのか」
「水、ですかあ」
あるにはある。
でも、この旅を始めてからそれを夢に見たことはなかった。
「試してみましょうか」
千年の眠り。
ひとかけらの水飛沫。
青と白のコントラスト。
なびく潮風、怒れる荒神。
時満ち足りて清瀧の刃。
【夢魔法 波立ち~ぬ】
―――ザァッ
波が高くうねる。
水を作り出すことはできないけれど、水を操る魔法だ。
「おお、龍神みたいだな」
「そんな御大層なものではありませんけど……」
―――ザァッ!
「えへへ、魚を捕まえるには便利かもしれませんね」
―――ザァッ!
―――ぴちぴち
―――ザァッ!
―――ぴちぴち
面白いように魚が獲れた。
「おっし、こんだけ獲れればしばらく困らないだろう」
「まだまだ獲れますよー!!」
「バカ、これ以上どうやって保管すんだよ!!」
―――ザァッ!
―――ぴちぴち
「もういいから!!」
なかなかの量の食料と、たくさんの魚が積み上がった。
「これなら、お婆さんも満足してくれますかね」
「ああ、ちゃんと保管できたら、だが……」
「大丈夫です、塩とか油があったはずですから、保存食ができるはずです」
「んー」
保存食の知識はあまりないけれど、まあ、なんとかなるだろう。
こんなことなら、料理をもっと誰かに習っておけばよかった。
「作れるのは、ジャムと、魚の保存食と、あー、あと木の根っこはどうする?」
「茹でて、塩で練ってみましょうかね」
「オオコウモリは……干し肉にするか」
「ええ、それがベストですよね」
「毒ミミズは……」
「捨ててください、それ」
なんでこの人はしつこく毒ミミズを食べたがるのか、不思議だ。
もしかして変な中毒性とかがあるんだろうか。心配だ。
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