【Ep.13 ほろびのじゅもん】②
何度目かの階段を上るとき、妙な音が聞こえてきた。
誰かが戦っている音だ。
「あれ、もしかしてほかの『勇者の一行』では?」
「ああ、そうらしいな」
階段を登り切ると、そこには、魔物と戦っている真っ最中の人たちがいた。
男の人が二人と、女の人が二人。
傷だらけだが、魔物たちとまともにやりあっている。
「助けるか!?」
「いえ、大丈夫そうです」
―――ドシャァッ!!
勝負はついた。
「あれ? 君たちは?」
一人がこちらに気づき、笑顔で話しかけてくる。
どうやらこの人が「勇者」らしい。
「君たちも、魔王に挑みに来たのかい?」
爽やかだ。
「君」だなんて、久しぶりに呼ばれた気がする。
「ええ、先を越されたみたいですけど、ね」
私も笑いかける。
敵同士ではない。
でも、味方同士でもない。
微妙な関係だから、当たり障りなく接するに限る。
「え、あんたら、二人でここまで来たの!?」
大柄な男の人が驚いている。
見るからに格闘系だ。
武器も大きい。
「はあー、それだけ強いってことかな? ん?」
「えへへ、まあ」
愛想笑いを返す。
そういえば、勇者がしゃべらない。
どうしたのだろう?
そっちを見ると、ふてくされたような顔で、そっぽを向いている。
「勇者様? 国は違えど同じ『勇者』として認められた人なんでしょうから、あいさつくらい……」
「いいよ、別に」
「おやおや、そちらの『勇者』さんは、人見知りらしいね」
「僕たちも無理に交流するつもりはないよ、まあ、せいぜい頑張っておくれ」
あちらの勇者さんはどこまでも爽やかだ。
爽やかすぎて、鼻につくくらいだけど。
「勇者様、早く先へ進みましょう?」
「進みましょう?」
どうやら双子らしい、魔道士二人組が急かしている。
よく似ている。顔も、服や持ち物まで。
美人だ。私よりずっと。
それに……ぐぬぬ、ローブの上からでもわかるくらい胸も大きい。
「では、お先に、ね」
勇者さんたち一行は、さっさと先へ進んでしまった。
あの村を逃げ出した、って話だったけれど、別に弱そうでもなかった。
無駄な戦いを避けただけだったのかしら?
「どうしましょう? 後を追いますか?」
「……いいや、ちょっと休憩していこうぜ」
珍しい。
まあ、異論はないけれど。
「魔物が出ないといいですけど」
そう言いながら、私は座れそうな木箱を探す。
「ランプ貸せ」
「あ、はい」
夜明けのランプは、魔王城でも効果を発揮した。
ここはとても薄暗いので、普段の生活が不便ではないかと、私は魔王を心配してしまった。
勇者は、受け取ったランプと、指輪とを使って、魔力を行き来させている。
「闇」を倒したとき以来、彼は魔力のコントロールの練習を怠らない。
自分に足りないものだと感じているのだろう。
魔法は私に任せてくれてもいいのに。
でも、そんなストイックさも、新鮮で素敵だった。
「水、飲みますか?」
「ああ、もらう」
荷物から水筒を取り出す。
本当はゆっくり栄養補給とかもしたいんだけど、魔王城のど真ん中でそれは危険だ。
手早く水分補給だけ済ませ、いつでも出発できるようにしてから、私は気になっていたことを聞いた。
「どうしてさっき、不機嫌だったんですか?」
「っ」
やっぱり不自然だったもの。
いつもなら、私の代わりに率先して相手に話しかけたりしてくれるのに。
無駄にへらへらすることはないが、無駄につっけんどんになることもなかったはず。
「お前が先に話しかけてたから、おれは別にいいかなって」
「そんな! 私が社交的じゃないのは、勇者様知ってるじゃないですか!」
「お前、自分で言うほど人見知りじゃないと思うぞ?」
「そ、それは頑張ってるんですっ! 勇者様への対応は、別ですけど」
「別ってなんだよ」
「人見知りな私もですね、打ち解けた人とは無理なく普通に接することができるんです」
長い旅の中で、勇者のことはたくさん知れた。
私も、彼と話したり一緒にいたりすることが居心地いいと思えるようになった。
それは彼も同じように感じてくれていると、思う、多分。
だけどやっぱり、初めての人と話すのは勇気がいる。
無理をしている。
相手がにこやかに話しかけてきてくれると助かるけど、いつもそうとは限らない。
私はやっぱり、勇者の後をついて歩く従者でいい。
「……」
勇者はまた、むすっとしている。
なにか言いたくないことでもあるのかな?
「まあ、無理に聞きませんけどね」
「……こう……が……やか……だから……」
「え?」
「……向こうの勇者が爽やかでいけ好かない野郎だったから、だよっ!」
ぶ、ぶふーっ!!
も、もしかして、あれですか?
嫉妬しちゃったんですか?
美人二人も連れてましたしね!
鎧もなんかスマートでしたし? 背も高かったし? 肌もすべすべしてそうだったし?
なんてことを言いたくなったけど、ちょっと不躾な気がするので一言だけ言うことにした。
「嫉妬ですか?」
「うるっせえバーカ!!」
「普段人見知りだとか言ってるお前が、ほいほいと話しかけてるのが気に食わなかったんだよ」
「男前にはへらへらすんのか、こいつも、って思って」
「……しょうもないだろ? 笑えよ」
顔が赤い。
いつかの私を見ているようだ。
私も顔が熱くなってきてしまった。
「私、ああいう爽やかすぎる人、苦手なんですよね」
「へらへらしているように見えたのなら、それは勇者様の勘違いですよ」
「あっちがニコニコしてたので、合わせただけです」
それが正直な気持ちだった。
別に前向きな感情で話しかけたわけではなかったし。
「あ、そう」
「ていうか勇者様も、あっちの魔道士さん見てなんか思うところあるんじゃないですか?」
「な、なんかって、なんだよ」
「ローブ着ててもわかるくらい、盛り上がってた胸のあたりとか見て」
「み、見てねえよ」
「本当ですか? あやしー」
「重そうなもんぶら下げてても、戦闘に邪魔なだけだ」
「ほらやっぱ見てるじゃないですかっ!!」
「っ」
お互いけらけらと笑った。
私はやっぱり、あの爽やかすぎるスマートな勇者よりも、こちらの勇者の方が好きだし。
勇者があの一行を引き連れているのを想像してみても、うまくいかない。
「いいんですよ、私たちは私たちで、ね」
「二人だって、立派にここまで来れたんですから」
「胸張りましょう」
私はうまい感じでまとめた。
そろそろ彼らも先へ進んだだろうから、私たちも行こうか、と思い立ち上がる。
「張るほどの胸はないだろ」
「もうっ! なんてこと言うんですか!」
いつも一言多いんだから。
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