【Ep.13 ほろびのじゅもん】①
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空に浮かぶ島。
鳥型の魔物にまたがる魔物の軍勢。
飛び交う小型の龍。
それらすべて斬り裂いて、島を一直線に目指す。
雑魚にかまっているヒマはない。
魔力を無駄遣いしているヒマもない。
―――ゴォッ
燃えさかれ。
―――ピキィン
凍てつけ。
私の両手は、すべてを薙ぎ払った。
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目の前に浮かぶ島は、目をこすっても消えなかった。
どうやら夢でも幻でもないらしい。
「……ほんとに浮いてるんですね」
「疑ってたのかよ」
「だって、島が、浮くなんて、うそっぽいじゃないですか」
「うそっぽい、ってお前」
実際に目にしてみると、今でもそれは冗談のように思えてくる。
ついに辿り着いた。
ここが、目指していた魔王城だ。
昨日一泊したのは、魔王城に最も近い、小さな村だった。
魔物に襲われていないのが嘘みたいな村だったが、なんのことはない。
村人みんな、魔物だったのだ。
ほいほい泊まりに来た旅人を、寝込みを襲って殺すのだ。
幸い私たちは不穏な魔力を嗅ぎ取ることができたので、返り討ちにしてやった。
「今まであれで、よく騙せてたよな」
「ね、ダダ漏れでしたよね、殺気」
「おれたちより先に泊まろうとしていた旅人がいるって話だったけど……」
「もう魔王城に着いてるんですかね?」
私たちの前に泊まったという旅人一行は、殺気に感づいて逃げ出したそうだ。
魔物たちの会話から、それが分かった。
「無事だといいけど」
「ここまで来るってことは、やっぱり魔王討伐の人たちですよね」
今まで出会ったことはなかったが、この世界にはたくさんの「勇者」がいる。
そして、魔王討伐の「勇者の一行」が存在している。
「でも、あの程度の村で逃げ出した連中だぞ」
「ちょっとそれ、弱そうですよね?」
昨日の夢は、なんだか魔法がたくさん登場した。
全部使っていい、ってことなのだろうか。
でも、魔王と戦う描写がなかったのが気になる。
「とりあえず、飛んで城を目指しましょうか」
「え、やっぱ飛ぶのか」
「そりゃあそうですよ? あの浮いてる島に、ほかにどうやって辿り着きます?」
「え、いや、そりゃワープとか」
「そんな便利な魔法はありませんっ!」
基本、魔法はおおざっぱででたらめだ。
世の中には魔道士の数だけ魔法のクセや得意不得意がある。
詠唱だって様々だ。
私の使っている夢魔法の詠唱なんて、母と私以外誰も使わない。
ただ、どんな便利な魔法を作り出したとしても、使える人と使えない人がいる。
どんな魔法も、結局は魔道士の腕次第なのだ。
「さ、掴まってくださいね」
「お手柔らかに頼むぜ?」
「そんな弱気でどうします! 勇者様には飛びながら魔物を斬り裂いてもらわなけりゃいけないんですからね!」
脳内で詠唱を行う。
目の前の島に向かって、羽ばたくイメージで。
「風、立ち~ぬ!!」
―――ビュオォォオオッ!!
一直線に、飛び立った。
「うおっ!! はええ!!」
「しっかり!! 剣を構えてくださいよ!!」
「わかってる!!」
侵入者の気配に、見回りの魔物たちが気づいた。
「来ます!!」
「返り討ちにしてやる!!」
私はただひたすら、魔王城めがけて飛び続ける。
魔物を斬るのに風を使ってもいいが、そうすると飛ぶコントロールを失ってしまう。
「だりゃっ!!」
―――ザシュッ
―――ザンッ
でも魔物は、勇者がことごとく打ち倒してくれた。
どれもこれも一撃で。
勇者の剣撃は、恐ろしく速くなっていた。
「なんだ、他愛ないな」
軽口を叩く。
確かに、拍子抜けなところもある。
警備の魔物が、あんな程度なのか?
「これなら、おれたちの前の『勇者様』も、突破できたんじゃねえか?」
「もしかしたら先に魔王を倒しているかも?」
「それは、ないな」
「あったら困ります」
一生懸命旅をしてきて、ほかの勇者にいいところをもっていかれたら堪らない。
いや、もしかしたら旅の始まりはあっちの方が早いのかもしれないけど、それでも……
「いや、困るってことはないさ」
「そうですか?」
「世界が平和になるのなら、英雄はおれじゃなくてもいい」
「カッコイイ……」
世界を救うのなら自分たちだ、とうぬぼれた自分を戒めたい。
スリルのある空の旅を終え、私たちは島の端に降り立った。
「今日は、ある程度たくさんの魔法が使える、と見ていいんだな?」
「はい、そうみたいです」
「じゃ、とりあえず、あれ頼む」
「はいっ」
私たちの意思疎通は、完璧だ。
勇者があれ、と言ったら……
「それ、強くな~る!!」
―――ムキムキィ!!
「違うぅぅうっ!!」
意思疎通は完璧ではなかった。
「あれ、これじゃなかったですか?」
「剣に!! 弱くなる方!!」
「あ、あー、そっちでしたか」
「上半身マッチョとか、久しぶりだから!! そんな頻繁に『あれ』って呼ぶほど使ってないから!!」
そういえば、硬い魔物がたくさん出るときには【弱くな~る】が重宝していた。
ここなら、硬い扉や罠も破壊できそうだ。
「物理的」に打ち破っていけそうだ。
剣に【弱くな~る】を、私たちの周囲に【身護~る】をかけて、魔王城へと歩き出した。
「入り口、どこだ?」
「馬鹿正直に正面玄関から入る必要もないのでは?」
「いや、まあ、礼儀として」
「礼儀、いります?」
「いらねえか」
―――ドカァァァアアアン!!
勇者の剣が猛威を振るう。
私の魔法で強化されているとはいえ、剣の一振りが城の壁を吹き飛ばすのはすごい光景だ。
「っしゃ!! 行くぞ!!」
「はいっ!!」
……
魔王の城は、様々な魔物で埋め尽くされていた。
どくろの兵士。死体の兵士。
蜘蛛とサソリの合体したような魔物。
動く石の魔人。
見えない霧のような魔物。
目はうつろで言葉も通じないが、どう見ても「人間」の兵士もいた。
どれもこれも強くて、私たちは疲弊していた。
「どこか、休めるところがほしいな……」
「一度、撤退して策を練り直す手もありますが……」
「でも、今日のお前の夢は、魔法がいっぱい出てきてるんだろ?」
「え、ええ、まあ」
「なら、今日が、魔王を倒すべき日なんだろ?」
「……そうですね、私も、別に撤退に前向きなわけではないですよ?」
「……なら、前進あるのみだ! 行くぞ!」
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