幕間【ギャンブル勝負】

「あれ、勇者様、なんですかそれ」


旅の途中、休憩しているときに勇者が取り出したのは、見慣れないさいころだった。


「たまに雑貨屋で買い集めてたんだよ」

「そんなの、どうするんですか?」

「見つめる」

「それ正しい使い方じゃないのでは?」

「転がして遊ぶ」

「……正しい使い方ですけど意味あります?」




たいして場所を取るものでもない。

高いものでもない。


だけど、そんなものを集めていて、しかも結構な量になっていることを私は知らなかった。


「そんな趣味があること、今まで知りませんでした」


唇を尖らせて、少し抗議の意味を込めて言う。


「お前のいないときに買ってたから……」

「どうしてですか?」

「だって、ほら、無駄遣いだとか言うだろ?」


言うかも。

でも、別に内緒にしなくってもいいじゃないか。


「ね、それで遊びましょうよ、せっかくだから」




骨で作ったようなもの、ガラスのようなもの、装飾の見事なもの、いろいろあった。

だけど、使い道は同じだ。


「私が子どもの頃やってた遊びがあるんですけど」

「どんな?」

「倉庫番って遊びなんですけど」

「知らないな」


子どもの頃、なかなか勝てないままに母とよく勝負していた。

それを思い出しながら、勇者にルールを教える。


「さいころを6個振るんです」

「で、ダブらなかった目だけ取り除きます」

「それから、残りをまた振って、ダブらなかった目だけ同じように取り除きます」

「このとき、さっきすでに取り除いた目はダメです」

「で、3回振って、結局何種類取り除けたかで勝負します」

「たくさん取り除けた方が勝ちです」


たったこれだけのルールだ。

子どもでも簡単だ。




「3回のうちで6種類そろえたら必ず勝ち?」

「いや、そういう訳じゃないです。そろわなかったら、数が多い方。一番強いのは1回目に6種類そろうことです」

「そんな偶然あるか?」

「たまーに、ごくまれーに、ありますよ」


1回でそろえたら、大貴族という役。

2回でそろえたら、貴族。

3回目でそろえたら、大商人。

3回目でそろわなかったら、商人。


まあ、だいたい商人しか出せない。


「まあいいや、やってみるか」




まずは勇者がやってみることに。


「お、これだと……4と5と6が取れるってことだな?」

「そうですね、2が3個あるのはダメです」

「で、もう一回振ると……これは?」

「2,2,5なのでどれも取れません」

「ううむ、ダメか」

「もう一回振ってください」

「せいっ」


ころころ……


「4,4,6なのでこれもダメですね」

「難しくない? これ」


結局3個しかそろわなかった。

でも、だいたいこんなものだ。




「じゃあ次は私ですね」

「あ、そういえば勝負なんだよな?」

「あ、ええ、そうですね、一応」

「なにを賭けるか決めてなかった」


勇者の目がキラキラしている。

賭け事、意外と好きなのかしら。

ていうか、さいころを集めてる時点で結構ギャンブル好きなのかも。


「負けた方は、恥ずかしい秘密を話す」

「うわああああ、大丈夫ですかそんな危ないもの賭けちゃって」

「この旅でだいたいお互いのことわかってるんだから、大した罰じゃないだろ?」

「知りませんよー、私強いですよ? 一番最近のおねしょのエピソード用意しといてくださいよ」

「最近なんてしてねえよ!!」




罰も決めて、私が振る番だ。


「とうっ」


ころころ……


「だいぶダブってんな」

「1だけですね、取れるの」


幸先悪い。


「せいっ」


ころころ……


「お、4と5か」

「1と、2のダブりは取れませんね」

「これで今、同点か?」

「そうですね、さあ、鮮やかに逆転しますよー」


実は同じ個数だったら、目の合計が大きい方が勝ちなんだけど、それを言うと私が負ける可能性が高くなるので、引き分けということにしておこう。




「ていっ」


ころころ……


「……」

「……」

「6来たー!!」

「ぐっ……」

「私4個! 私の勝ちですね!」

「くそう」

「さあ、さあさあ、勇者様の恥ずかしい話、おひとついただきます!」


対して強い役でもなかったけど、勝てちゃった。

母が強すぎたんだわ、たぶん。


「…………毒ミミズを食って唇が倍に膨れ上がったことがある」

「そのエピソード知ってますー!!!!」




「ダメです、許可できません」

「ぐっ」

「自分から罰を決めておいてそれは……ねえ……?」

「……10歳までぬいぐるみと寝ていた」

「ん~~~~いいでしょう!」


恥ずかしいというより可愛い話だが、勇者の珍しい一面が知れたのでよし。


「次だ次! お前の恥ずかしい話も聞かなきゃわりに合わん!」


その発言自体がけっこう恥ずかしい気がしたけどつっこむのはやめておく。




……


「よし! 5個だぞ!」

「んぐぅ!」

「ほらほら、今度はお前の恥ずかしい話を聞かせろ!」

「えーと、えーと、両乳首のそばに泣きぼくろがそろってます」

「バカ野郎! 飛ばし過ぎだ!」




……


「やったー! 勇者様2個! 負け! 大負け!」

「むぐぐ……」

「じゃあまた勇者様の恥ずかし……」

「地面から這い出てきた魔物に股間を頭突きされて気絶したことがある!」

「よく生きてましたね!?」




……


「さっきのぬいぐるみの話、本当は12歳まで! ちょっと控えめに言ってた!」


「背中をなでられるとぞくぞくして力が抜けちゃいます!」


「裁縫ができない!」


「イカが食べられません!」


「同じ日に2回、鳥にフンを落とされた!」


「ローブに躓いてすっ転んで、全部脱げたことがあります!」


「はじめて酒を飲んだ日は、全裸で教会の前で目覚めた!」


「私も一緒です! はじめてお酒を飲んだ日は、全裸で川で目覚めました!」




……


お互い恥ずかしい話も出尽くしたようだ。


変な笑いが出て、どちらからともなく、お開きになった。


「さ、行くか」

「行きますか」


もう間もなく魔王城だ。

くだらない話を楽しむ余裕も、なくなるだろう。


「なにか言い残しておくことは?」

「それは死ぬことが決まっているときに言うやつです」


死ぬつもりはない。

もちろん勇者を死なせるつもりはもっとない。


「無事終わったら、またくだらない話をしたいですね」

「ああ、そうしよう」


ロマンティックな話もしたい。

身の上話もちゃんとしたい。


「行くか」

「行きましょう」


旅が、もうすぐ終わる。


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