幕間【死相が見えます】

魔物に襲われることはときどきある。


魔物に襲われている人を見かけることもときどきある。


だけどそれによって死人が出ることはまれだ。


そこまで踏み込もうとする人間はほとんどいないからだ。


縄張りを荒らすような真似を進んでする人間はほとんどいないからだ。


運悪く魔物を見たら逃げる、もしくはとにかく身を守る。

ほとんどの場合、誰も戦おうとなんてしない。




なのに昼間に見かけたあの人には、死相が見えた。

はっきりと死の匂いを感じた。


冒険者だろうか。


無謀にも魔物に挑むタイプの人だろうか。


連れのほわほわした魔道士は、多くの災難に見舞われそうな雰囲気を持っていたが、それでも死相は見えなかった。


あの男は危険だ。




なんて頭の片隅に留めていたら、その二人がわたしの店へやってきた。


「今後の旅の運勢を占っていただきたいのですが」


純真無垢な目で(おバカっぽい、と言いかえてもいい)わたしの手元の占い道具に興味を示している少女。


「はあ、なんでこう、女ってのは占いが好きかね」


後ろでため息を吐く冒険者風の男。


すでに未来は少し見えてしまっているが、それを正直に伝えるべきか。

当たり障りのないことを言って安心させるか。

わたしのプロ意識が混乱している。




「これからの旅で、なにか問題は起こるでしょうか」

「あ、もっと言えば、私たちは魔王を倒せるでしょうか」

「未来は、平和な世の中になっていますかね?」


重すぎる依頼だった。

そんなはっきりと未来予知をする店じゃないんだけど。

ていうかそんなことができる占い師だったら、もっとでかい店を構えてるわ!


「あ、そうなんですか……」

「じゃ、じゃあ、今後の運勢だけでも、ちらっと、さわりだけ」


一気に謙虚になった。

見た目どおりほんわかした少女だ。

こんな子が、魔王を倒すだって?

勇者の一行だってことよね?


二人で!? こんなゆるいノリで!?


……俄然応援してあげたくなってしまった。




カードをめくりながら、説明をしていく。


「……あなたは、多くの災難に見舞われるでしょうが、それを乗り越えていける前向きさがあります」

「……強く望み、誠実さを貫き、油断をしなければ、大願も成就されるでしょう」

「ラッキーカラーはパープル」

「夜間に暴飲暴食をしないことをお勧めします」


「後半うさん臭くなったな」


男が呟く。

わたしもそう思う。


「じゃあ、とにかく今日から、クリームの盗み食いは禁止だからな」

「えーっ!?」


そんなことしてたのか、この子。

占いなんてなくても禁止にしておいてほしい。




「……そしてあなた、あなたは」

「え? おれはいいよ」

「そう言わず、聞いてください」


別に料金を二倍取るつもりもない。


「死相が出ています」

「え?」

「近いうちに命の危険にさらされるでしょう」


あれ? しかし、これは……


「もちろん、未来は不確定です」

「あなたの強運が勝つかもしれません」

「しかし、ゆめゆめ気を抜かれないこと」

「ラッキーカラーはバーガンディ」

「寝る前には必ずトイレに行くことをお勧めします」


「子どもか!」




見えた死相が揺らいだ。

もしかしたら、回避するかもしれない。

しかし、半端なことは言えない。

わたしの占いなんて、その程度のものだ。


「ま、気をつけよう」

「ありがとうございましたあ!」


少女はきちんと二人分の料金を払って行った。

気持ちのいい人たちだ。




店を出ていこうとしながら、二人が話している声が聞こえてきた。


「ねえ勇者様、バーガンディってどんな色ですか?」

「なんだよお前、知らねえのか?」

「教えてください」

「えーと、ほら、葉っぱの、鮮やかじゃない感じの色だよ」

「へえー、そうなんですかあ」


違うよ!!

全然違うよ!!


「か、渇きかけた血の色ですよ!!」


二人に向かって叫んだあとで気づいた。

ちょっと不吉だったかもしれない。


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