幕間【トカゲの解体】

「魔法で一撃だったやつらは、うろこが綺麗に残っているから解体しやすくて助かる」


ザクザクとトカゲの血抜きを進める勇者を、私は指の隙間から見つめていた。


「内臓は薬師が欲しがっていることが多いし、うろこは素材屋に卸せるし」


魔物だけど血は赤色をしている。

あまり長くは見ていられない。


「睾丸は滋養強壮にいいって話だぞ。食べてみる?」


笑顔で勇者が謎の球体をこちらに差し出す。

うぇっ。


「……いりません」

「そう?」




初日から勇者の目の前で吐くわけにはいかない。

乙女は口から美辞麗句しか吐かない。


「て、手伝いましょうか?」

「……無理でしょ、その様子じゃ」


勇者の手さばきはとてもスムーズで、とても私が手を挟む余地はなかった。


しかしそれでも、なにかしなければ、と思ってしまった。


「じゃあ、味つけて焼いて」

「あ、味!?」

「食事にしよう」

「え、これ食べるんですか!?」

「まだ腹減ってないの?」

「……減ってますけど」




町で慎ましく暮らしていた身としては、こんな大きなトカゲを解体して食べるなんて初体験だった。


「トカゲの身くらい食べたことあっただろう?」

「……たぶん、食べてたと思うんですけど」


町の食堂で色んな肉や野菜を炒めた料理はよく食べていた。

その中に入っていたかもしれない。


「あんまりクセがなくて食べやすいから、ちょっと休憩がてら飯にしよう」


そこまで言うなら。




「煮込み料理でもいいぞ」

「鍋とかあります?」

「調理器具も調味料も、いろいろあるぞ」

「準備いいですね」

「燻製料理でもいいし、発酵料理でもいいぞ」

「無理言わないでください」


少し打ち解けた気がする。

勇者はトカゲをさばきながら、私は肉に適当な味つけを施しながら、話をした。




「まだもう少し魔物を狩りながら、進んでみよう」

「あ、柔らかいですね、この部位」

「君の魔力がどれくらい持つのかも気になるところだけど」

「この香辛料もピリッと辛くてクセになりますね」

「もう少し魔物の素材でも集めて、資金にしたいな」

「そっちのお肉も美味しそうですね、勇者様ちょっとそれもください」

「お前肉の話しかしてねーな!!」




私の冒険の一日目は順調に始まったようだ。


「食いしん坊キャラみたいになってるぞ! 大丈夫かこの先!?」


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