幕間【ヘンな魔法名】

「いい加減言わせてもらうが、あの魔法名はなんとかならないのか」


いつになく勇者の目がマジだった。


「あ、えっと、魔法名は母が考えてくれたものなので、私にはなんとも……」


魔導書にもしっかり載っている。


「どこかから怒られたりしそうだが」

「どこかって、どこですか?」

「……」


なにかマズいのだろうか。

どんな効果なのかわかりやすくていいと思うんだけど。




「なんにせよ、【風立ち~ぬ】はどうもマズいと思うんだが」

「そうですか? 【風と共に去り~ぬ】という案もあったそうですが」

「それもダメだろ」


母のネーミングセンスに文句を言われても、私にはなんともできない。


「他の魔法も、全部同じような雰囲気の魔法名か?」

「そうですね、だいたいは」


おっとりした母らしいネーミングセンスで、私は気に入っているのだけれど。




「まだ私は夢に見たことはないんですけど、美味しいお菓子を出す魔法もあるんですよ」

「へえ?」

「【まどれ~ぬ】っていうんですけど」

「バカじゃないの?」

「バカにしないでください! 母の出したマドレーヌはめちゃくちゃおいしいんですよ!?」

「それでどうやって魔物と戦うんだよ!」

「おやつにいただくんですよ!!」


母のお菓子は絶品だった。

もう食べられないことが、急に悲しくなった。


「【しろのわ~る】というのもおいしかったなあ」

「おやつに食うには重いんだよ!!」




「あ、虫を寄せつけなくなる魔法っていうのもありましたね」

「もう嫌な予感しかしない」

「たしか【かとり~ぬ】って言うんですけど」

「もうただの駄洒落じゃねえか!」

「蚊が寄ってこないんですよ?」

「だからどうした!!」

「暑い季節にはすごく便利なんですよ!?」

「お前その夢見た日はもう一回すぐ寝ろよ!!」


どうも勇者は私の夢魔法を軽んじている気がする。


「【こりとれ~る】はどうですか? 疲れた肩や腰を癒しますよ?」

「医薬品か!!」

「【はらくだ~す】なら! 便秘に困ったとき役立ちます!」

「タチの悪い医薬品か!!」


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