【Ep.8 まのもり とまどい】③
私たちは歩きにくい草むらを、ずんずん進んだ。
背の高い植物が多い。
倒木も多い。
ツタや枝で視界も悪い。
さらに、妙な動物だか魔物だかがごそごそと足元を這っている。
「おい、ほんとにこれが正解なのか?」
勇者が剣で色んな邪魔なものを払いながら聞いてくる。
「わかりませんよ、でも、試してなかったでしょう?」
私も拾った長めの枝をぶんぶん振り回しながら進む。
道でないところには魔王の魔力が効いていない可能性がある。
とにかく試してみなくては。
……
しかし、そんな私たちの試みは、無残にも打ち砕かれた。
「嘘だろ……」
またも目の前に、私のウサギ人形が現れた。
もう、不思議を通り越して気持ち悪い。
何度も私たちの目の前に現れる人形は、もはや道標としての目的を果たさず、私たちを惑わす道具でしかなかった。
こうも私の人形が不気味に見えるとは思わなかった。
「もともと不気味な形状をしているぞ」
うるさいな!!
「とにかく、この方法は得策ではなかった、と」
次の策を考えないと。
私は勇者のために、この状況を打開できる頭脳を披露しないと。
そういえば……
「あ、そういえば、私、夢の中で誰かの声を聞いたんですよね」
「誰かって、誰だ?」
「それが、なんかもやがかかっているみたいで、よくわからないんですよね」
なにか、ヒントをくれた気がする。
どんなヒントだったっけ?
「その魔法ではだめだ、とか、正しい道に目を向けろ、とかなんとか」
そう、その魔法ではだめだと言われた気がする。
その魔法とは、【土砂崩れ~る】のことだろうか?
これがないと、今日の朝土壁から脱出できなかったはずなのだが、ほかの魔法が必要ということ?
「ほかの魔法って、つまり、もう一回寝直すってことか?」
「それにしても、正しい魔法がなんなのか見当がつかないのに寝ても仕方ないような……」
二人でうんうん考えた。
この状況を打開できそうな魔法。
もしかしたら、まだ使ったことがない魔法かもしれない。
もしかしたら、私がまだ使えない魔法かもしれない。
でも、今まで使った魔法のうち、この森を抜けるために使えそうなのは……
「あ!! 【よく燃え~る】はどうでしょうか!!」
「却下だ!!」
「ど、どうしてですか!!」
「おれたちまで焼け死ぬだろうが!! それにあの坊さんも燃やすつもりか!!」
森を焼いて脱出、いい案だと思ったけれど、だめか。
「あ、そういえばあれがあるじゃねえか、ほれ、あの」
「えーと、【風立ち~ぬ】だっけか」
自分で言ってから勇者は、露骨にいやそうな顔をした。
「空から、森を越える、っての、うん、どうかな」
もごもごとつぶやく。
あまり空の旅はお好きではないようだ。
でも、そのアイデアは行けそうな気がした。
「それ、いいかもしれません」
「あ、でも、ほかの案も……」
「では、その夢が見られるまで、寝ます!! おやすみなさい!!」
勇者の言葉も聞かず、私は指輪を額にかざした。
―――――――――
――――――
―――
「きた!! きましたよ!! 風の魔法!!」
何度目かのトライで、私は狙い通り【風立ち~ぬ】の魔法を夢に見ることができた。
荷物を背負い、出発の準備をする。
「う……やっぱりやるのか」
勇者はまだいやそうな顔をしている。
荷物を背負うスピードも、心なしか遅い気がする。
でも、これで魔の森の上を通って、先へ進めるかもしれない。
「何事も試してみないと!! ほら、行きますよ!!」
私は脳内詠唱を始める。
勇者と手をつなぎ、風を生む。
「風、立ち~ぬ!!」
……
「うわぁ! 上空はなんだか空気がきれいですね!!」
私は、森の中がいかに邪悪な魔力でいっぱいだったかを思い知った。
森の中ってのは、普通空気がきれいなものだが、ここに来るとそれが汚れていたことを知った。
「そうか? おれにはわからん、よくわからん、違いが」
早口で勇者が言う。
足元に気を取られて、焦っている。
足をびくびくさせながら怖がっている。
空の旅が慣れないのだろう。
私も、慣れてないけど。
「どっちですか? あっちですか?」
「バカ!! そっちは来た方向だろうが!! 山見てわかるだろ?」
「え、じゃあ、こっち?」
「森を越えるっつってんだろ!! そっち行ったら戻るだろ!!」
ぎゃあぎゃあ言いながら、ようやく地面に降り立った時は、心地よい疲労感で満たされていた。
勇者はへたり込んでいた。
「……」
「どうしました?」
「……」
「酔ったんですか?」
「……」
「吐きますか?」
「……」
「飲み込みますか?」
「うるさいよ」
空の旅ってのは早くて便利だけど、あまり得策ではない。
今回みたいに魔の森を抜けるのには役立ったし、湖を越えたこともあるけれど、まだまだコントロールが難しい。
自分たちにもダメージが少なからずあるし、魔力の消費も大きいし。
なにより、まだ私は自在に夢を見られない。
「さ、先へ進みましょ♪」
私たちは歩いて次の村を目指す。
「もうちょっと休んでから……」
「もう! 情けないですね!」
これくらいが、私たちにはちょうどいい。
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