【Ep.11 つきないくらい あふれてる】①
「硬い!! なんで今日は弱体化の魔法じゃねえんだ!!」
「そんなこと言われましても! 言われましてもぉ!」
―――ガキッ
―――ゴキンッ
このあたりには、やたらと鎧が落ちていた。
そして、その鎧が意思を持って襲ってくる。
「刃こぼれしちまう!」
「がんばってください勇者様!! 私はサポートしかできませんので!!」
ただの鎧にしても、硬すぎる。
そんなに数はいないが、一体一体が高い防御力を持っているせいで、かなり苦戦していた。
―――ゴキンッ!!
―――ドシャッ
ようやく動かなくなった。
勇者が肩で息をしている。
「ちょっと……休憩……」
へたり込む。
私は、今日はバリアの魔法しか使えない。
防御に事欠かない代わりに、攻撃ができない。
今日というタイミングで言うと、相性が悪い。
「いねえなあ、クリスタル職人……」
一息ついた後、勇者がつぶやいた。
「いませんね……このあたりだって聞いてるんですけどね……」
私たちは、いくつかの集落を回って得られた情報をもとに、クリスタル職人を探していた。
城跡近辺で出会える、といううわさをもとに探すが、一向に見つかる気配がない。
「……ほんとにいるのか?」
「……実際、クリスタルを加工してもらった人には出会えませんでしたもんね……」
そうなのだ。
あいまいな情報はすべて、うわさでしかなかった。
自分は出会った、自分も加工してもらった、という情報は一つもない。
「まあ、この先へ進むためには、ぜひともクリスタルを打ち込んだ剣がほしいからな」
「立ち止まっていられませんね!」
私たちは、職人探しを再開しようと立ち上がった。
こんなところで立ち止まっていられない。
幸い私のバリア魔法のおかげで、けがはない。
疲労にさえ気を付けていれば、敵に後れを取ることはない。
「お前の魔法が剣に纏わりつけば、結構楽になると思うんだが……」
「難しいですね……申し訳ないです……」
【神鳴~る】や【弱くな~る】と同じように、勇者の剣に魔法を纏わせられたら、と思ったが、なぜかあまりうまくいかなかった。
バリア魔法がうまく纏わせられたら、剣がこぼれることもないはずなのに。
硬い敵でも楽に斬り裂けそうなのに。
「できないことは仕方がない。とにかく今はしらみつぶしにここらを探すしかないな」
「はい! できるだけ戦闘を避けつつ、ですね!」
「そうだ」
私たちはそれからもしばらく城跡を歩き回った。
もともと大きな城だったようで、なかなか範囲が広い。
しかし、泣き言は言っていられない。
―――ガキッ!!
「おら! 倒れろ!」
―――ゴキンッ!!
「きりがないな! 畜生!」
勇者が鎧を相手に立ち回る。
一体倒したと思ったら、また次が現れる。
……現れる?
……あの鎧は、どこから湧いて出てきているのだろう?
「おい! 魔法が解けかけてる! バリア頼む!」
「あ! は、はい!」
千年の眠り。
ひとかけらの反骨心。
格子の中の貴族と人質。
迫る業、五行の方舟、仏の座。
時満ち足りて胎児の息吹。
【夢魔法 身護~る】
―――ブゥン―――
薄い魔法の膜が私たちを包む。
敵からの攻撃を跳ね返してくれる。
剣単体に魔法を纏わせるのは難しいが、体全体を覆うのは簡単だ。
だから、けがもない。
回復の魔法は、今日は必要ない。
そのとき、私の視界の隅に、鎧が現れる瞬間が映った。
―――ガチャン!!
それは、その瞬間は、ふいに訪れた。
「あ! 勇者様、新手で……す……」
言いながら、私は目に映ったものをもう一度ゆっくり思い出してみる。
今、どこから出てきた?
どうやって現れた?
「えっと……井戸から……鎧が出てきました……」
言いながら、私はやっぱり信じられなかった。
「はあ? 井戸から新手の鎧? そういうのは井戸の守り神だろ?」
勇者も私の言葉をあまり信じられないようだ。
「ほんとなんです! 井戸から、新しい鎧が出てきたんです!」
でも、私だって信じられない。
ここは城跡の、元中庭だろうか。
井戸が、あまり壊れずに残っていた。
口径も大きい。
―――ゴキン!!
―――ドシャァッ
勇者がまた鎧を倒した。
「ほんとかよ……」
「み、見守りましょう」
勇者は慣れてきたのか、鎧を倒すスピードが速くなってきた。
同時に二体、三体と相手にすることはなくなっていた。
もう、残っている鎧はいない。
私たちは固唾を飲んで井戸を見守る。
見守っている時間は、思いのほか短かった。
―――ガチャン!!
「で、出たー!!」
「飛び出てきたー!!」
「バネでもついてんのかこの井戸!!」
「そもそも複数体の鎧が井戸に格納されていることもおかしいですよ!!」
実際に目にしてみても、どうもおかしいことだらけだ。
「なんだかわからんが、しかけがあるぞ、この井戸」
「普通じゃないですね」
「お前、飛び込んでみろ」
「いいい、いやですよ! 勇者様お先にどうぞ!!」
鎧に集中するのはやめ、警戒しながら私たちは井戸に近づく。
「とりあえず、覗き込め!! おれが相手してる間に!!」
「いや、ちょっと、怖いです」
「次が出てくる前に! 今なら大丈夫だから!」
「大丈夫の保証はあるんですか!?」
勇者が鎧と格闘している間に、私は恐る恐る井戸を覗き込んでみた。
「ん……わりと普通……ですね」
変なしかけや濃い魔力は感じられない。
いや、魔力の残滓は感じられる。
「結構深い? ……ん?」
奥が明るい。
奥というか底というか。
「横穴がありそうです! もしかしたら奥に続いているのかも!」
私が報告をするのと、勇者が鎧を倒すのが同時だった。
「じゃあ次、鎧が出てきたらすぐに中に入るぞ」
「勇者様が先ですからね!」
「わかったわかった」
「私を受け止めてくださいよ!? 【身護~る】で落下の衝撃を全部跳ね返せる保証はないんですからね!」
「お前なんかどんどん図々しくなってないか?」
私たちは押し合いながら井戸に近づく。
次の鎧の登場を待つ。
いきなり二体とか出てきたら危険だけど、ここまでは結構タイミングよく出てきているから、それを信じるしかない。
―――ガチャン!!
「また来た!」
「そら! 飛び込むぞ!」
私たちは鎧を無視して、井戸に飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます