第4話 超高効率金策

 すっかり日も落ちた頃、俺はようやく森の中にある小さな泉にたどり着いた。

 ここが今夜の野営地だ。


「さてさて……」


 俺はバックパックの中から、山賊から頂戴した鉄の斧3つを取り出す。


「せいっ!」


 俺は斧の1つを泉に投げ込んだ。

 泉の底からまばゆい光が放たれ、泉の女神が姿を現した。


「あなたが落とし――」

「鉄の斧です」


「あなたは正直者ですね。そんなあなたには――」


 ザポンッ!

 女神が言い終わる前に、鉄の斧を追加で投げ込む。


「あなたが――」

「鉄です」


「あなたは正直――」


 ザポンッ!

 女神が言い終わる前に、最後の鉄の斧を追加で投げ込む。


「金? 銀?」

「鉄」


「正直。両方あげる」

「あざっす!」


 この女神は柔軟性があるので、こちらのペースに合わせてくれる。

 だが、気を付けなくてはいけないのは、一度に全部の斧を投げ込んでは駄目だという事だ。

 3本同時に入れても、貰える金の斧と銀の斧は1つずつとなってしまう。

 2回目来た時に横着してそれをやり、女神と言い争いになって殺された。



「――よし、これで1,500万だ」


 俺はバックパックに金の斧と銀の斧を3本ずつ入れ、野営の準備を始めた。


 どうせここで寝るのだから、急かす必要なかったじゃないかと思うだろう。

 俺は、どれだけ短縮できるかを毎回試しているのだ。こういった地道な努力が、大往生への道に繋がると思っている。



「うっし、寝る準備も整えたし、行って来るか! <呼吸><発光>」


 俺は下着姿になると、泉に飛び込んだ。

 この泉は、大きさからは想像できない程深い。普通に潜っても絶対に底にはたどり着けないようになっている。


「あった、あった。――すみませーん!」


 泉の底にある、小さな家のドアをノックする。


 ガチャリとドアが開き、ネグリジェ姿の女神が姿を見せる。


「あら、さっきの人じゃない。――どうしたのかしら?」

「祝福が欲しいんで、キスさせてください」


「え……な、何を言ってるの? 駄目に決まってるでしょ……?」

「うるせえ、黙って目を瞑ってろ」


 俺は女神の両頬を押さえ、強引にキスをする。


「ん……もう……」


 女神は頬を赤らめている。


「――では!」

「え、ちょっ!? もう帰っちゃうの!?」


 俺は水面に向かってグングンと泳いでいく。


 これが泉の女神の祝福の貰い方だ。

 先程の斧の一件で分かっているとは思うが、彼女はこちらに合わせてくれる押しに弱いタイプだ。


「キスしてもらえませんか?」と聞いてもノーと言われてしまうのだが、強引にいけばOKしてもらえる。


 これで俺の体力が底上げされ、自動回復が付与された。

 つまり死ににくくなったという事だ。これは非常に大きい。

 さらに、聖属性・闇属性の中程度の耐性、即死魔法の完全耐性も得ている。


 ちなみに彼女と一夜を共にする事もできる。

 その場合、強力な体力上昇効果がもたらされるのだが、全身から光が放たれるようになってしまうので、隠密ができなくなってしまう。正直詰みだ。当然スルーである。


「<強風>」


 俺は濡れた下着を乾かし、寝袋に入った。



 翌日の朝、俺は最寄りの街に向かって森を駆け抜ける。


「さすがに重いな……だが、それでいい」


 何せバックパックには、金と銀の斧が3つずつ入っているのだ。

 これで筋力が、少し上がりやすくなっている。




「う、うわああああああ!」

「きゃあああああ! 助けてええええええ!」


 2人の男女の冒険者が、数十頭の魔狼の群れに取り囲まれている。

 女と目が合った。


「良かった! お願いで――」

「<死与><死与>」


 2人の冒険者が倒れる。

 取り囲んでいた魔狼達が驚き、後ろに飛び跳ねた。


 そして一番大きな魔狼が、俺の方を向く。この群れのボスである。


「……ナゼ、コノ者タチヲ殺シタ?」


 こいつは言葉を話すことができる。まあ、驚いたのは最初だけだ。


「その2人は、討伐依頼が出されていない魔獣まで狩っている密猟者だ。お前達は仲間の仇を討とうとしただけで、普段は人間を襲わない。悪いのはこいつ等だ」


 冒険者達を助けても、再び無害な魔獣を狩り始めてしまう。

 その結果、この森に住む魔獣たちが怒り狂って街を襲撃し、金と銀の斧を買い取ってくれる商人が殺されてしまうのだ。

 その商人を失った場合、勇者学院に入学できる確率はグッと落ちる。生かす理由はない。


「ナゼ、ソコマデシッテイル……マアイイ。トモカク礼ヲイウゾ、ニンゲンヨ」

「気にするな。――ああ、金目の物だけ盗らせてくれ」


 俺は彼等の荷物から、金だけ抜き取る。

 武器や防具は、大した値打ちが無いので持っていかない。


「マルデ、ドコニナニガアルノカ、ワカッテイルカノヨウダナ……」

「まあな。――これはどうする?」


 俺は魔狼の毛皮を取り出した。彼等の仲間のものだ。


「コチラデヒキトリタイ」

「分かった」


 いつものやり取りだ。――だが俺は、毎回ここに引っ掛かりを感じる。

 この魔狼たちとは、これ以降会う事はないのだが、何か縁みたいなものを感じるのだ。


 何か、別の選択肢があるのだろうか……?


 結局俺は何も思いつかず、魔狼のボスに毛皮を渡し、街に向かって駆けだした。


     *     *     *


「じゃあ全部で1,500万ゴールドになります」


 俺は街の商人に、斧と3人から頂いた金目の物を売り払い、目標額まであと500万となった。第5チェックポイント到達だ!


「――さて、宿屋に行きますか」


 もう日も暮れ始めているが、<発光>を使えば、まだまだ先には進める。

 つまり、宿屋に泊まる意味があるという訳だ。



「ういーっす!」


 両開きのスイングドアを開け、俺は宿屋に入る。

 と言っても、1階は酒場だ。


「あらー、いらっしゃいませー」

「うふふ、かっこいいお兄さんね」


 いかにもエロそうなお姉さんたちが、俺を出迎えてくれる。

 この人達は娼婦だ。この宿屋は女も買える。


――そして俺は、1人の女をここで買わなくてはいけないのだ。


「このルートの最大の楽しみがやって来たぜ……!」


 俺は宿屋の受付カウンターに行く。


「ご休憩ですか? ご宿泊ですか?」

「宿泊でお願いします。あと、ゴールデンシルバーさんを指名で……!」


「おお! ゴールデンシルバーさんをご指名とはお目が高い。では、部屋でお待ちください」

「はい!」


 俺は鼻息を荒くしながら金を支払い、部屋の鍵を受け取る。


 そしてベッドの上でうつ伏せになり、待つ事30分、ドアがノックされた。


「開いてますよー」


 ガチャリとドアが開いた。


「今日はごひめいくらはり、まほほにありがほうございましゅ」


 小さな皺くちゃなババアが部屋の中に入って来た。

 彼女がゴールデンシルバー婆さん、御年100歳。この道84年の大ベテランで、この店で最高のテクニシャンだ。

 もっとも今はマッサージしかやっていない。それ以上の事をすれば、命にかかわるからだ。


「じぇは、しゃっしょく初めていきましゅので……」

「お願いします!」


「じゅいぶんと、こっていましゅのお」

「――おふ、おふ、おおふ……!」



 2時間後、ゴールデンシルバー婆さんのスペシャルマッサージが終わった。


「しょれでは、失礼しましゅ」

「最高のマッサージでした。また次も頼みます」


 そうは言ったが、このマッサージを受けるのも今回で最後になるだろう。

 その為の準備はしっかりとしてきたのだから。


 ちなみに今から3時間後、ゴールデンシルバー婆さんは寿命で亡くなるので、絶対に遅れないよう注意が必要だ。


(お世話になりました! あの世で俺を待っていて下さい!)


「よし! 第6チェックポイント到達! ステータス展開!」


 体力 :34↑

 持久力:30↑

 筋力 :27

 技量 :224

 魔力 :33(43↑)


 スキル:鑑定LV9 料理LV9 農業LV1

 魔法 :発火 治癒 死与 火柱 耐水 呼吸 発光 強風 氷結 


 耐性 :炎・冷・聖・闇(中) 即死(極)

 特殊 :死に戻り(呪) 成長速度上昇 泉の女神の祝福(体力10)

     婆のマッサージ(体力2 筋力2)


「よし、女神と婆さんのおかげで、大分体力を上げる事ができた」


 魔力が結構上がっているのは、道中の敵を片っ端から<死与>で始末しているからだ。


「ういー、マッサージを受けたら、どっと眠くなってきた。おやすみー」


 俺は深い闇の中に沈んでいった。

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