第22話 出番なし

 今度は守備側となった俺達だが、守備側は定員が10名の為、俺は外されてしまった。これ以上活躍させない為の措置だろう。


 当然デスグラシアも外され、待機場所で黙って座っている。

 俺はクーデリカとセラフィンと共に、2回戦が始まるのを見ていた。


「セレナーデは、城壁に配置されたか。リリーの姿が見えないな。フォンゼルのそばか……」

「あははははー! そうだろうねー! しっかし、まだ気付かないのかなー!」

「王太子は鈍いよなー。気付いていないの、あの人だけだと思うよ?」


 2人の言った事が凄く引っ掛かる。

 俺は先程のリリーの様子を思い出し、恐る恐る2人に尋ねた。


「もしかしてリリーって……」

「うん、ガチ百合だよー! しかも寝取らせて興奮するタイプのド変態! あはははは!」


 百合なのは覚悟できていた。 ……え? 寝取らせ?


「言ってやるなよー。君の彼女だろー?」


 え? クーデリカがそうなの? やべっ、これはとんでもない魔境に踏み込みそうな感じがするぞ。


「クーデリカ……お前もそうなのか?」

「私はストレートだよー! リリーに手籠めにされただけー! だから、彼女って訳じゃないのー! ちなみにドロシーとセレナーデもそうだよー! あははははー!」

「月・木がクーデリカ、火・金がドロシー、水・土がセレナーデの日らしいぜー」


 おいおい、あのグループって、そういう事なのかよ……。

 と言うか、セラフィンもよくそんな事知ってるな!


「そうそう、ドロシーがいなくなっちゃったからねー。火・金が寂しいんだってー! だから魔王太子を狙ってるみたい! あはははは!」

「ああ……だからデスグラシアへの態度が軟化してたのか……」


 学習発表会の時、デスグラシアは大分女っぽくなっていた。それがリリーの琴線に触れたのだろう。

 打ち上げに呼んだのも、別の意味で仲良くなりたかっただけなのか。


 じゃあ謝罪した事や、ババアの通訳をクビにした事が直接関係している訳じゃないのか……?

 うーむ、まあ悪い事ではないからいいか!



 だが、もう一つの要素は気になる。


「……なあ、寝取らせってなんだ?」

「名前の通り、他の男に抱かせるんだよー! とっても興奮するんだってー!」


 最悪だ……。だがこれで、ようやく邪神復活の真相が分かった。

 リリーは、セレナーデを寝取らせようとしていたのか。

 という事は、あの変態女の歪んだ愛情のせいで隣町は滅んだのかよ。半端じゃねえな。


「おいおい、それは色々とまずいだろ……」

「寝取らせって言っても、その子の好きな人とだから別にいいんじゃない? 滅多にやらないしねー」


 その滅多にないやつで街が滅んだが……。


「ほとんどは、ドロシーの罰ゲームみたいなやつだよなー」

「そうそう、無理難題を与えるってのが一番多いよー! 本当にやるかどうかで、自分への愛を確かめてるのー!」


 なるほど。入学試験で、セレナーデがデスグラシアに汚い言葉を吐いたのは、そのせいか。まったくとんでもない王女様だ。

 確かにそんな事情じゃ、セレナーデも言えないわ。


 しっかし、リリーも性女だったとはな。

 性王女リリーか。99周目にして、こんな事実を知るとは思わなかった。

 人生って面白い。


「あ、でも、セレナーデとドロシーがニルを好きなのは本当だよー」

「おー、ドロシーもそうなんだ。やるなぁ」


 そうなのか……じゃあ、セレナーデって俺に浮気するなって言っておきながら、リリーと関係を持っているって事になるな……。


 ま、いいか! ――いや、むしろその方がいいですね!

 俺はニッコリと笑う。



「お、そろそろ戦が始まるみたいだよー!」

「ステイフの奴、ペットのダイアウルフを使うのかー」


 防衛側は人数が少ない。少しでも戦力を増やそうという事だろう。

 だったら俺達をメンバーに入れろ、と思うが。



 俺達は、攻め手側の方を見る。


「おお! 木を切り倒してるねー!」

「破城槌にするんだろうな」


 地方勇者学院の生徒たちの方が、戦い方はよく分かっている。

 今回はルーチェ達がいないが、いつもと作戦は変わっていないようだ。

 あいつ等はアホなので、戦術には一切関与していなかったのだろう。


 攻め手側は10人ほどで丸太を担ぐと、城門めがけて突進してきた。

 その周囲を盾を持った者達が囲み、セレナーデ達の矢から守っている。


 バキャッ!


「あちゃー、一発で破られちゃったなー」

「あはははー! こりゃ負けたなー!」


 砦内に侵入した攻め手側は、城壁に駆け上がり、セレナーデ射手達の制圧を開始した。


 バルトとステイフがセレナーデを守るように立ちはだかる。


「おー! いいぞー、バルトー! セレナーデに良いとこ見せてやれー!」

「――あ、もうやられてんじゃんかよー! 弱いなー」


 バルトがすぐに木槍で突かれ、退場となった。


「ステイフの狼、頑張ってんじゃん!」

「うんうん、上手く攻撃を避けてるねー」


 ステイフのダイアウルフは細かくステップを刻み、突きを避けながら、敵に噛み付いて退場させている。

 守備側で一番活躍しているように見える。


「――あ、ステイフが矢で撃たれた。あーあ、退場だ」

「あははは! 奥に引っ込んでればいいのにねー!」


 主であるステイフが討たれた事で、ダイアウルフも退場となる。残念。


「あーあ……セレナーデが囲まれちゃってる」


 俺が参加していれば、助けてやれるのだが。

 模擬戦と言えど、彼女がジリジリと追い詰められていくのを見るのは、何だか心苦しい。


「あ! ダイアウルフが噛み付いた! ステイフ何やってんだよー」

「ありゃー! ルール違反だー! 反則負けだねー! あはははは!」


 ダイアウルフが地方学院生の手首に噛み付いている。

 ちょっと強く噛み過ぎじゃないか?


「――あ」


 地方学院の生徒の手首から血が吹き出した。腕を噛み千切られている。

 ダイアウルフは次の生徒の足に噛み付く。


「ステイフ!!!! 何をやっている!!!! 早く止めろ!!!!」


 セラフィンが鬼のような形相で怒声を放つ。

 普段の彼からは想像もできない気迫だ。


 生徒の足から再び鮮血がほとばしり、ステイフは慌てふためいている。


「――何かおかしい! いくぞ!」

「ああ!」

「ええ!」

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