第49話 楽しいお祭り

 隣町に着いた俺達は、ピットにセレナーデとバルトの捜索をさせながら、出店を楽しんでいた。


『見ろ、ニル! あれは面白そうだぞ!』


 デスグラシアが指差した方を見ると、かなり大きいハンマーゲームがあった。

 チェイサーの跳ね上がった位置を競うアレだ。


『俺の筋力じゃ、とてもじゃないか頂上は狙えないな……お前ならいけるかもしれないぜ?』


 この手のゲームは、男の力強さを見せる為にある。本来なら俺がやるべきだ。

 だが、そんなプライドは、とうの昔に捨てている。

 デスグラシアにパワーで勝つことなど不可能だ。


『任せるが良い! 私が景品を取って来てやる!』


 デスグラシアは力自慢の男達の列に並び、順番を待つ。

 誰も頂上まで届く者がいない中、ついに彼女の番がやってきた。


「次の挑戦者は、可愛らしい猫耳フードを被ったお嬢さんです! ――得意武器は何ですか?」

『得意武器は何かと聞いているぞ』

「――バトルアクチュ」


 周りの観客が沸く。

 華奢な女の子の得意武器がバトルアクスとは、燃えてしまうのも仕方ない。


 デスグラシアはハンマーを大きく振りかぶった。


『むんっ!』


 カーンッ!!

 チェイサーが頂上部まで跳ね上がる。景品ゲットだ。


「おめでとうございまーす! お嬢さんには、ハンマーリザードの特大サイズのぬいぐるみをプレゼントです!」


 店主は、大木槌を持った巨大なトカゲのぬいぐるみを、デスグラシアに渡した。――いらねええええ!


『おおっ! やったぞ、ニル!』

『うん、まあ、良かったな……』


 彼女は嬉しそうにはしゃぎ、ぬいぐるみを紐で背負った。



 その後も、俺達は食い物をつまんだり、ゲームをやったりして楽しむ。


「お嬢さん弁償ね。輪はぶつけるんじゃなくて、投げ入れるんだよ?」

「ゴミンナサイ……」


 デスグラシアは、壊してしまったブリキの人形代を支払った。

 彼女の強靭な腕力から放たれた輪が、人形を粉砕してしまったのだ。

 俺も周りの客も大笑いである。


『むー! 私はこの手のものは苦手なのだ!』


 技量は100以上あるのだが。性格の問題なのだろうか。


『俺が技量227の力を見せてやるよ。――どれが欲しい?』

『あれがいいな!』


『……あれか。いいだろう、やってやる』


 この店一番の目玉だ。

 奥の方に輪とほぼ同じ太さの棒が一本立っており、それに入ったら豪華な景品がもらえる。


 俺はチャクラムで鍛えた投擲技術で、輪を放る。


 ストッ。

 見事、輪は太い棒に入った。


『やったぞ、ニル!』

「おめでとうございまあああああす! こちらのお兄さんには豪華景品、ペアリングをプレゼントしちゃいます!」


 観客達からの歓声を受けながら、俺は豪華景品とやらを受け取る。

 それぞれ、赤と青の宝石が付いたペアリングだ。


(鑑定)


 指輪:

 価値1,000ゴールド ガラス、及び真鍮製。



 どうやら宝石はガラス、リングは真鍮に金メッキのようだ。率直に言ってゴミである。


『ほら、やるよ』


 俺はデスグラシアに2つのリングを手渡す。


『こっちはお前にやろう』


 彼女は、青い宝石の指輪を俺に返すと、嬉しそうに右手の薬指に赤い宝石の指輪を嵌めた。


『……それ、安物だぞ?』

『知っている。鑑定で見た。でも、私にとっては価値あるものだ。お前にとっては、そうではないのか……?』


 デスグラシアは不安げな顔で俺を見る。

 おっと、俺が愚かだった。


『もちろん大切な物だよ』


 俺み右手の薬指に青い宝石の指輪を嵌める。

 デスグラシアが優しく微笑む。


『私は今、とても幸せだ……この時が永遠に続いてほしい……』

『未来が嫌なのか?』


 彼女は何も言わず、儚げな笑みを浮かべる。


 フォンゼルとの結婚の事だろうか。

 今回、奴はデスグラシアを気に入っている。彼女がクーデリカに勝てば、結婚は確実だろう。



「――クンクンクン」


 ピットが反応を示した。

 セレナーデかバルトが近くにいる。急いで向かわねば。


『デスグラシア、ついてきてくれ』

『どうしたんだ?』


 彼女の問いに適当に返事しながら、ピットの後を追う。



「おやおやー! ニルと、デスグラちゃんじゃないかー! ほほーん、そういう事でしたかー!」

「そういうわざと臭い反応はやめてやれよなー。前から君は気付いていただろうよー」


 リリー達とセラフィン達の男女グループが集まっていた。セレナーデとバルトも一緒にいる。


(あの2人を見張っておくか……)


『デスグラシア、しばらくリリー達と合流しても良いか?』

『うむ、構わんぞ。その方が楽しかろう』


 俺達はリリー達に挨拶して、しばらく行動を共にする。


 セレナーデに何か言われるかと思ったが、特に何も言ってこない。

 俺達の事を、それほど気にしていないようだ。



 誰が先導する訳でもなく、集団は邪神の洞窟へと次第に近づいていく。

 そしてついに洞窟の前へとたどりついた。


「ここが、邪神が祀られている洞窟だぜー」

「邪神? 何故そんなものを祀っているのですか?」


 リリーが嫌悪感丸出しで、セラフィンに尋ねる。

――が、クーデリカが割って入って来た。


「昔封印した邪神を鎮める為だよー。このお祭りも封印の力を高める為にやってるらしいよー。でもね、この時に邪神像の前で処女がおせっせすると、封印解けちゃうんだってー! あはははー!」

「あらあら、まあまあ。邪神はドスケベなのですね。わたくしと一緒ですわ。うふふふふ……」


 これでリリーは初めて邪神の事を知り、セレナーデに無理強いさせる訳か。


「嘘臭いわねー! 本当かどうか試してみたらどうですか?」


 なるほど。ここでドロシーが余計な口を出すと。


「聖王女たるもの、たとえ嘘であろうと、邪悪な存在に手を貸すような真似はできません。――ドロシー、今の発言はお仕置きです。今晩は寝かせませんよ?」

「いやーん! 許してくださーい!」


 あれ? リリーの反応が予想と違うな。いつもこうなのだろうか?

 セレナーデとバルトの様子を見るが、2人とも関心がまったく無いように見える。



「――では皆さん、そろそろ学院に戻りましょうか。私はドロシーに教育的指導をおこなわなくてはいけませんので。クーデリカ、セレナーデ、貴方達も手伝いなさい」

「了解! あははははー! こりゃ寝不足になりそうだー!」

「かしこまりました」

「いやー! 3点攻めは狂っちゃうー!」


 あらあら、いいですねー! ……いや、そんな事を言っている場合ではない!

 セレナーデが退場したら、邪神復活は阻止できた事になる。今回は何も起こらないパターンなのか?


「僕達はまだ祭りを楽しむから、ここでお別れだなー」

「では、ごきげんよう――」



 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!


 洞窟がある小山が吹き飛び、巨大な大蛇が出現した。

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