第51話 乗馬会セカンド
その後の調査で、今回邪神を復活させた男女は、非常に貧しい村人である事が分かった。
やはり、何者かに金で雇われたのかもしれない。
邪神を打ち倒した俺達9人は、アトラギア王国王宮・玉座の間にてトバイアス国王から直々に勲章を授与された。
前回邪神を倒した時と同じ展開ではあるのだが、あの時は俺1人だった。
今回は9人いるので、それがどんな影響を与えるのか?
もしかしたら、護衛官の選抜に大きく関わってくるかもしれない。
それから1か月後。前回もあったあのイベントがやって来た。
そう、男女合同乗馬会である。
「――どうです? デスグラシア殿下、素晴らしい景色でしょう?」
『景色・素晴らしい?』
『うむ』
「とても素晴らしいです。感動しましたとおっしゃっています」
「そうかそうか! それは良かった!」
フォンゼルの白馬にはデスグラシアが乗っており、その隣には、奴が雇った通訳が並走している。
前の周で、ババアの代わりに来た通訳の男だ。
魔族語を話せる者はそういないので、再度あの男が雇われるのは不思議ではない。
「――あらあら、デスグラシア様にすっかり夢中の御様子ですわね。うふふ」
俺の目の前にいるリリーがクスクスと笑う。今回俺が乗っているのはロバではなく、テンペストなのだ。フォンゼルは完全に鞍替えしたようである。
「嬉しそうですね、性王女殿下」
「はい。正直ウザかったですから」
そんな相手でも、国の為に結婚しようという気概があるのだ。
やはりリリーは立派な王女である。
俺は隣を見た。
バルトがセレナーデに話しかけている。今回はフラれていないという事なのだろう。
だが、彼女の対応は、どことなく素っ気ない。
「――セレナーデはあれが普通ですわ。内向的な子ですから」
「そうなんですね」
確かに俺に対しても、99周目以前は、あんな感じだったかもしれない。
「愛情表現が下手なのです」
「そう……なのでしょうか?」
来る時は、真正面からガンガン来るように感じたのだが。
「そうなのです。だから、わたくしへの愛情を確かめる為に、彼女には色々と無理な事をさせてしまいましたわ」
「はいはい、デスグラシアに魔族語で暴言を吐いた件ですね?」
「……はい?」
リリーは不思議そうな顔を見せた。
え? まさか、彼女の指示じゃないのか……?
「ニルー! デスグラちゃんがため息ついてるから、何か手を考えてー!」
「公女殿下、あまり大きな声でそのような事を……!」
前回と同じ展開だな。
俺は花摘みを提案し、リリーとクーデリカの力で、それを通した。
全員が馬から降り、女性陣が花摘みを始める。
(この後はレースになったが、さすがに今回はないだろう。テンペストに勝負を挑もうとは、さすがのあの馬鹿でも思わないはず)
「ニルー、よくテンペストを手懐けられたなー。僕も挑戦したけど、振り落とされたぜー?」
「ああ。馬の扱いには、ちょっと自信があるんだ」
今回は俺からセラフィンに話しかけているので、前回よりも打ち解けるのが早い。
信頼できる人物とは、早目に友好関係を築いておいた方が良いのだ。
俺は花摘みはせずにドロシーを見た。
この場所には、すでに何回も訪れており、錬金素材は十分に確保してある。
(レースがなければ、ドロシーからキスされる事もない。ドロシーの死と関係があるとは思えないが、避けた方が無難だ)
99周目での彼女の死因は、未だ謎に包まれたままだ。
事故、自殺、他殺、全ての可能性がある。
彼女の死に少しでも関与しそうな要因は、徹底的に排除するべきだろう。
「では、また乗馬を再開しようではないか」
フォンゼルの一声で、各々が馬に集まり始める。
デスグラシアがチラリと俺の方を見た。――すっごい嫌そうな顔をしている。
「普通に乗ってもつまんないから、レースしようよー!」
「お、いいなそれー。フォンゼル殿下どうですか?」
「む……レースだと? ううむ……」
フォンゼルは横目でテンペストを見る。
「……いや、やめておこう」
ナイス判断! ボートレースの時の蛮勇さがでなくて良かったよ。
「じゃあ、男性諸君はそこで見ててー!」
何だと? 女達だけでレースをするというのか。
「ただレースするだけじゃ面白くないですよ! 何か賭けましょう!」
「じゃあビリになった人は、優勝者の言う事を、一つだけ何でも聞くってのはどうかなー?」
「あらあら、それはわたくしの嗜虐心が刺激されますね。賛成ですわ」
ドロシーとリリーが乗ってきた。
デスグラシアに通訳が入り、彼女までうなずく。
セレナーデも仕方なく了承したようだ。
「ま、まあ……ケガしないようにやってくれたまえ」
フォンゼルも女性陣の妙な熱気に気圧されて、認めざるを得なかったようだ。
クーデリカ杯開催である。
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