第70話 ラストバトル

 あの後、フォンゼルとルーチェ達は本当に追放となった。


 彼等は遠い別の国で、冒険者として生きていく事になったらしい。

 なかなかお似合いの4人なので、上手くやっていけるだろう。



 後継ぎを失ったトバイアス国王は、俺に王を継がないかと持ちかけてきた。


 破滅の魔女から世界を救った英雄、千年近く生きて得た知識、王となるには資質十分と評価されたようだが、俺はあっさりと断った。


 俺には他にやりたい事があるのだ。


 トバイアス国王も、そう言われるのは分かっていたのだろう。

 微笑みながらうなずき、「よし! では、夜の務めに励む事としよう!」と息巻いていた。頑張って欲しいものである。




 ここはガルギア魔王国の円形闘技場。

 数千の観客から歓声を受けながら、俺は闘技場に上がる。


 そこには魔斧を担いだデスグラシアと、ラピス・デ・ラピオスが立っていた。



『ニル・アドミラリよ。お前がデスを娶るに相応しいかを試させてもらう。ルールは簡単だ。デスに勝て。――以上だ』


 俺はデスグラシアを見る。


 その表情、その構え、俺に負けるつもりはまったくないようだ。さすがである。


「本気のようだな。デスグラシア」

「無論だ。――真剣勝負を穢す事は許されぬ」


 デスグラシアはもう、俺達の言葉がペラペラだ。



 俺はクーデリカのカタナの柄に手を掛ける。


 デスグラシアは魔斧を横に構えた。


 お互い死んでもおかしくない、まさに真剣勝負である。

 だからこそ、この戦いには価値がある。



(お前と対峙するのは97周目の帝の間以来だな……)


 俺達は構えたまま、ジリジリと距離を詰めていく。




――そして、互いに相手の間合いに入った。


「っしゃああああああ!」

「ぬんっ!」


 俺の神速の居合切りと、デスグラシアのフルスイングがぶつかる。



 ドコッ!


 重たい物が地面に落ちる音が響き渡った。




 それはデスグラシアの斬られた魔斧だった。



『勝者! ニル・アドミラリ! デスとの結婚を認めよう!』


「デスグラシア!」

「ニル!」


 観客の大歓声の中、俺とデスグラシアは抱き合った。



     *     *     *



『新郎ニル、あなたはデスグラシアを妻とし、病める時も健やかなる時も、愛をもって互いに支えあう事を誓いますか?』

『はい、誓います』


『新婦デスグラシア、あなたはニルを夫とし、病める時も健やかなる時も、愛をもって互いに支えあう事を誓いますか?』

『はい、誓います』


 俺達は指輪を交換した。

 その隣の指には、邪神祭の景品である、チープな指輪も嵌められている。


 誓いのキスが終わり、俺達は大勢の人から祝福を受ける。


 リリー、クーデリカ、セレナーデを抱いているドロシー。

 クーデリカとドロシーは泣いている。その意味は問うまい。


 セラフィン、バルト、ステイフの3人が手を振った。


 その前には各国の王たちも集っており、俺達を見て微笑んでいる。



 俺とデスグラシアは、みんなからお祝いの言葉を受け、式場を去った。



「きゃっ!」


 俺はデスグラシアをお姫様抱っこし、彼女の寝室へと運ぶ。

 彼女をベッドに寝かせ、唇を重ねる。


「ニル……私……」

「大丈夫……俺に任せろ」


 デスグラシアは俺を受け入れた。



     *     *     *



 ガルギア魔王国の軍港に、超大型船舶が停泊した。


 俺とデスグラシアは、ラピス・デ・ラピオスと多くの重鎮に見守られながら船に乗り込む。



「お久しぶりですわね。お二人共」

「リリー性王女殿下もお元気そうで何よりです」



「どう!? 立派なもんでしょー!」

「ああ。こんなに凄い船は他にないぞ。クーデリカ」



「くっさ! こんな時にウンコ漏らすんじゃないわよ!」


 ドロシーがセレナーデのおでこをひっぱたく。


「ははは! すっかりお前が世話係になったみたいだな」




 クーデリカの船が出航する。


 目指すはヒノモト。


 破滅の魔女の書斎で、ドロシーは1冊の神話を読んだ。

 それには、ヒノモトの地に、どんな呪いも打ち破る「破呪の剣」があると記されていたのだ。



「どんな場所か楽しみですわ」

「腐った豆と、黒い紙を食べさせられますので、驚くと思いますよ」


「スシ食べたいなー! あと、テンプッラもー!」

「そうだな。ヒノモトと言ったら、それだ」


「女子会で冒険って超いいわねー! こいつが悪者じゃなきゃ、なお良かったんだけど!」


 ドロシーはパンパンとセレナーデの尻を叩く。


「……セレナーデ。海は怖いか? 沈んだら最悪だろう?」

「あぶっあぶっ」


 多分肯定を示したのだろう。


「ニル……再度念を押しておくが、浮気は絶対にするなよ……?」


 デスグラシアはクーデリカとドロシーを見る。


「安心してくれ。――ふふっ、お前がそこまで嫉妬深いとは思わなかったな」

「なっ!? 女はみんなこういうものだ!」


 デスグラシアは黒髪をクリクリといじる。



「……もしかしたら、ヒノモトで子ができるかもしれないな。大変かもしれないが、頑張って行こう」

「うん……あなたとなら、どんな困難も乗り越えられるよ……」



 俺達は爽やかな潮風が吹く甲板の上で、キスを交わした。



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 これにて完結です。

 いかがでしたでしょうか?

 ぜひレビューの方、よろしくお願いいたします。

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