第42話 第2試験

「第3試合、クーデリカ・コールバリ対バルト・コリント」


 最高位とはいえ、補助職に過ぎないオラフのクラスに就くクーデリカと、肉弾戦メインのクラスであるウォリアーに就くバルトの一戦。

 結果は火を見るよりも明らかなはずなのだが……。


「ちぇすとー! ちぇすとー! ちぇすとー!」


 クーデリカが自慢のデカいおっぱいをバユンバユンと揺らしながら、鋭い連続攻撃を繰り出している。


「ぐはあっ!」

「勝負あり! 勝者クーデリカ・コールバリ!」


 武術、魔法、どちらも隙が無いのが彼女の強さだ。

 総合力は、人間の中ではトップだろう。しかも、あのキャラに反して、学科試験もトップクラスで頭も良い。



「素晴らしい戦いでしたわ、クーデリカ」

「えへへー。楽勝だったねー」


 俺のすぐ前の席にクーデリカが座った。


 今回俺は、リリーのすぐそばに座っている。

 彼女は自分への愛を試させる為、デスグラシアに暴言を吐くよう、セレナーデに指示を出すはずなのだ。

 俺は、その行為を諫めるつもりでいる。



「第4試合、セラフィン・モンロイ対ドロシー・ムルトマー」


「ドロシー、出番ですわ」

「やった! チビのセラフィンだわ! あいつなら、私でもギッタンギッタンにできます!」

「セラフィンは見た目によらず、結構手強いぞー?」

「剣術だけなら、レオンティオス君と同等という噂も聞いたことがありますよ?」


 ドロシーは2人の助言もろくに聞かず、木槍を持って闘技場に上がる。



「――それでは始め!」

「血反吐を吐きなさい!」


 ドロシーの腰のまったく入っていない突きを難なく避けたセラフィンは、木剣で軽く彼女の頭を打った。


「勝負あり! 勝者、セラフィン・モンロイ!」

「いったあああああ! アンタ、殺すわよ!?」

「試合なんだから、恨みっこなしだぜー」


 ドロシーは武術がからっきしだ。ワースト3には入っているだろう。

 あまり運動神経が良くないのだ。



 ドロシーが不機嫌そうに戻って来る。


「ちょっと平民! アンタ今、私を見て笑ってたでしょ!」


 笑ってなどいないのだが……いや、彼女の元気な姿を見て、つい微笑んでしまったかもしれない。


 リリー達が一斉に俺の方を振り向く。


「……丁度良かった。貴方にうかがいたい事があったのです。貴方は先程<邪炎>を使い、魔王太子殿下と魔族語で会話をしましたね? 魔族と親しいのですか?」

「いえ、現時点では親しくありません。しかし、これから親交を深めていこうと考えています」

「ちょっと! 聞いてるの平民!」


 リリー達は驚きの表情を見せる。


「おおー、聖王女の前でそれ言っちゃう? 度胸あるなー! あははははー!」

「貴方はリスイ聖王国と魔王国とで、何度も大きな戦いがあり、多くの血が流れた事はご存知なのでしょうか?」

「あのー……」


 リリーのこんな険しい表情は初めて見た。だが、ここで引く訳にはいかない。


「はい、良く存じています。ですが、マグナノクテの戦い、ダール・ヘコムの戦い、バスコーの戦い、そのどれもが、互いの無知から引き起こされています」

「そうだねー。私もそう思うー」

「私を見て笑ってた件は……」


 セレナーデがドロシーの口を押さえた。


「……あのような戦いを2度と引き起こさない為にも、魔族の事について知るべきかと」

「貴方がおっしゃりたい事は分かります。しかし、感情の力は強いのです。嫌悪している存在に歩み寄る事などできませんわ」


 お前、めちゃくちゃ歩み寄ってたぞ?


「聖王女殿下……魔王太子が女化した姿を思い浮かべてみてください……あの艶のある黒髪はもっと長く、胸は第2公女殿下以上。尻はセレナーデ嬢よりプリプリしている。……いかがでしょう?」


 クーデリカは大笑いし、セレナーデは頬を赤らめる。

 リリーはふむふむとうなずきながら、妄想の世界に浸る。


「……考え直してもいいかもしれませんね」

「あはははー! よく、リリーがガチ百合だって分かったねー!」


 どうやら上手くいったようだ。俺はにっこりと微笑む。

 もしかしたらこれで、セレナーデに暴言を吐かせる事はなくなったかもしれない。



「――9試合目、レオンティオス・キャルタンソン対ニル・アドミラリ」


 リリー達と話している内に、いつの間にか順番が来ていたようだ。

 俺は木剣を取り、闘技場へと上がる。

 向こうから、ガチガチになっているレオンティオスが上がってきた。


「――それでは始め!」


「うおりゃああああ!」


 やっぱり前回と同じ上段切りだ。

 俺は奴の剣を弾き飛ばし、首に木剣を当てる。


「勝負あり! 勝者、ニル・アドミラリ」


 俺は木剣を戻し、リリー達のところではなく、デスグラシアの元へと向かう。

 多分大丈夫だとは思うが、念のため、伝えておいた方がいい。


『――何だ?』

『殿下の相手であるセレナーデ・アンダーウッドですが、もしかしたら魔王陛下の侮辱の言葉を口にするかもしれません。ですが、それはある人物に言わされているだけなので、お怒りにならないよう』


『事情はよく分からぬが、心にとどめておこう』



「――10試合目、デスグラシア対セレナーデ・アンダーウッド」


 デスグラシアとセレナーデが闘技場に上がる。

 俺はスキル兎の耳を使用した。


『貴様・母親・売春婦・淫売』

『……なるほどな』


 おいおい、言いやがったぞ。デスグラシアに伝えておいて正解だったな。


 セレナーデは不思議そうな顔をしている。デスグラシアが怒らなかったからだろう。

 という事は、自分が侮辱の言葉を吐いている事は分かっているんだな。


「それでは始め!」


 デスグラシアは強烈な横切りを放ち、セレナーデの木剣をへし折った。


「勝負あり! 勝者、デスグラシア!」


 少々予定が狂ってしまったが、平和に終わって良かった。


 デスグラシアが木剣を戻し、こちらへとやって来る。


『礼を言うぞ、ニル・アドミラリ。お前の言葉が無ければ、あの女を殺すところだった』

『殿下のお役に立てて光栄です』


『お前は何故、魔族の私にそこまで気を遣う?』


 言うべきか、言わないべきか。――いや、いきなり好きだからなんて言っても、絶対怪しまれるな。

 魔族と友好を深めたいからとでも言っておくか。



『お前が好きだからだ』

『――え?』


……間違えた。脳内の言葉と、口に出そうとした言葉を逆にしてしまった。こんな事あるんだな。


『申し訳ありません、今のは聞かなかったことに。えー……魔族との友好を深めたいから? です』


 しまった。動揺したせいで、言葉にまったく真実味がなくなっている。


『そ、そうか……それは嬉しい限りだ……うん……では、さらばだ』


 デスグラシアは髪をいじりながら、どこかへと立ち去って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る