第3話 最短で強武器入手

 翌日の早朝、テントを畳んだ俺は、再び山を登り始めた。

 今まで登った山とは標高が桁違いで、雪が積もっている。


 空気が薄く、燕の盾を背負っていても、歩くのがやっとだ。


「ふう……いったん休憩しよ……」


 俺は大きな洞窟の中に入る。


「<死与>」


 ズドオオオオオオオオン……!

 何かとてつもなく大きいものが倒れた音と振動がした。もちろん何かは分かっている。


 俺は奥へと進み、大きな魔核を拾ってバックパックにしまう。


「<発火>」


 火を起こし、タマネギとジャガイモのスープを作り温まった。

 休憩を終えると、再び雪山を登り始める。しんどい。



「――はあ、はあ、そろそろだ……そろそろ彼女が来る……」


 その時、強烈な吹雪が吹き荒れ、長い銀色の髪の美しい女が姿を現す。

 彼女は氷の精霊だ。この先にあるマジックアイテムの守護者である。


「――帰りなさい。先へ進んではなりません」

「いや、行かせてもらいます。氷の剣が欲しいんで」


 氷の精霊は目を見開いた。


「何故それを知っているのです!? では、氷の剣を手に入れるには、試練を乗り越えなくてはいけない事もご存知ですね?」

「はい、氷の巨人を倒すんです」


「え? そ、そんな事まで? ……まあ、いいいでしょう。ここから少し下った所にある洞窟に――」

「また山を登るの辛いんで、倒してから来ました。――はい、これ」


 俺は洞窟で拾った魔核を手渡した。


「ええ!? なにこの手際の良さ!? こわっ……!」

「ふふっ」


 氷の精霊の地が出てしまった。何度見ても面白い。


「コホンッ……では、先に進む事を許しましょう。――しかし、あなたには、もう一つの選択肢があります。それは私の祝福です。祝福とはつまり、私のキス――」

「氷の剣で」


「な!? せめて話を最後まで聞きなさい! 私のキスは氷魔法の威力を――」

「氷の剣で」


 俺は再び彼女が言い終わる前に言いきり、先に進む。

 吹雪が激しくなった。


「ちょっと! 私のキスは、そんなに魅力がありませんか!? 自分で言うのもなんですが、相当な美人だと思いますよ!?」

「ええ、とってもお美しい。ただ俺には氷の剣が必要なんです。――あの、祝福はいらないんで、普通にキスだけしてもらえませんか?」


「あらあら、仕方ないですね」


 氷の精霊はニッコリと微笑み、俺にキスをしてくれた。


「やったー、こんな美人にキスしてもらって嬉しいなー」


 氷の精霊は満足気な表情で消え去った。吹雪が止む。


 これが、ここの最短突破方法だ。

 会話は極力早く終わらせ、さっさとキスしてもらう。

 ちなみにキスをせがまないと、女としてのプライドを傷つけてしまい、氷漬けにされて殺される。



「――よし、第3チェックポイント到達!」


 俺は山頂に突き刺さっている氷の剣を抜き、腰に差した。


 この剣は、所有者の最大魔力と魔力回復速度を上昇させてくれる。これがあれば、今の能力値でも使用できる魔法が増えるのだ。

 さらに炎・冷気の中程度の耐性も得る事ができるし、剣自体としての性能も高い。


 ちなみに氷の精霊の祝福は、氷魔法の威力2割増しと、冷気の完全耐性である。

 悪くない効果だが、俺に必要なのは基礎能力値の強化だ。

 この2つはどちらかしか選べないので、当然氷の剣となる。



(ステータス確認)


 体力 :21

 持久力:25↑

 筋力 :22

 技量 :224

 魔力 :28(38↑)


 スキル:鑑定LV9 料理LV9 農業LV1

 魔法 :発火 治癒 死与 火柱 耐水 呼吸 発光 強風


 耐性 :炎・冷(中)

 特殊 :死に戻り(呪) 成長速度上昇



「強化して38か……入学試験までに50には上げておきたいな」


 入学試験は大きく分けると、武術と魔法、そして総合力の3つになる。

 武術に関しては、筋力の低さを技量で補えるのだが、魔力に関してはそうもいかない。単純に能力を上げるしかないのだ。



「……さて、第4チェックポイントにいくぞ」


 ここは難所だ。何回やっても死ぬときは死ぬ。


「<氷結>」


 俺は氷のソリを作った。

 ゆっくり下山している暇などないのだ。これで一気に山を下りる。

 成功率は7割くらいだ。今の俺では、木に激突すると即死する。


「いっけええええ!」


 比較的木の少ないコースを選び、ソリを押して飛び乗る。


「うっひょおおおおお!」


 ソリはとんでもないスピードで山を下る。


「何回やっても、めちゃくちゃこええ!」


 ヒュンッ!

 ソリのすぐ脇を大木がすり抜ける。一歩間違えれば、死だ。


「やべえっ!」


 ソリの進路上に木が見える。

 ここでソリの進路を変えようなどと思ってはいけない。まったく曲がらないのだ。

 それで何度も死んでいる。


「とおっ!」


 俺はソリから飛び降り、ゴロゴロと斜面を転がる。

 ソリが木に激突し、粉々になったのが見えた。


「ふぅ、何とか間に合ったな……<氷結>」


 俺はすぐに2つ目のソリを作り、飛び乗った。

 普通の人間なら、こんな恐ろしい目に遭ったら、徒歩で山を下ろうとするだろう。


 だが俺は、そういった感覚がマヒしてしまっているのだ。

 なんというか命に無頓着なのである。あまりにも多くの死を見てきてしまったせいなのだろう。



「脱出!」


 ソリが岩に激突しそうになったので、飛び降りる。



「もう斜面が緩やかだ。ここからは走っていこう」


 俺は持久力を鍛える為、森の中を駆けて行った。


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ステータスの↑は回復力上昇を示しています。

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