死に戻りのオールラウンダー 100回目の勇者パーティー追放で最強に至る
石製インコ
第一章 勇者学院入学ルート・入学までの道
第1話 98周目、魔王討伐タイムアタック開始
当作品では、人間の言葉は「カギ括弧」
魔族語は『二重カギ括弧』となります。
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『人間どもよ、これでお前達の歴史も終わりだ』
『そうはさせぬぞ! デスグラシア!』
はるか東方の国ヒノモトの
すでに齢85となる剣聖ニル・アドミラリと、この国を滅ぼさんとする魔王、デスグラシアである。
近衛兵達もほぼ全員討ち取られ、帝を護る者は、もはや剣聖ニル1人だけ。
ヒノモトの存亡は彼に託されていた。
――いや、それは正確な表現ではない。ヒノモト以外のすべての国が、すでに魔王によって滅ぼされているので、人類の命運が彼に託されていると言うべきだ。
しかし魔王デスグラシアは、立派な長いヒゲを生やした、いかついゴリマッチョ。
それに対し剣聖ニルは、もうヨボヨボで腰も曲がっている。勝敗はすでに目に見えていた。
「紫電流秘技――」
剣聖ニルは刀の柄に手をかける。
神速の抜刀術、秘技<一閃>の構えだ。
『我が憎しみと魔斧の威力、その身に受けるがいい……』
魔王デスグラシアは巨大な両手斧を脇に構える。
2人はジリジリと距離を詰めていく。
――そして、互いに相手の間合いに入った。
「っしゃああああああ!」
『ぬんっ!』
ニルの神速の居合切りと、魔王のフルスイングがぶつかる。
バタッ……。
――帝の間に、どちらかが倒れた音が響いた。
* * *
「――ニル・アドミラリ、今日限りで、お前をこの勇者パーティーから追放する!」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ワシはあまりの悔しさに、数十年振りの大声を出した。
静かな湖畔にワシの声が響き渡る。
この湖を見るのも、これで98回目じゃ! なんと
「ふはははははは! どうだ、悔しいだろう! いいねー、いいねー! 最高! その顔が見たかったんだよ!」
「もう少しで大往生できたのにいいいいいいい! 攻めて来るんだったら、もっと早く来いやああああああ! こっちは杖が必要になるくらい、能力値が落ちてんのじゃ!」
確か55歳くらいが、ピークだったはずじゃ。
70歳を超えたあたりから、ガンガン能力値が落ちていって、最後はピーク時の3割くらいになっていたと思う。勝てる訳ねえ。
「は? な、何を言ってるんだニル? ショックで頭がおかしくなったのか?」
「つうか55歳の時だったら、ワシ勝てたんじゃね!? ――もう1回、ヒノモトルートいってみるか? 最長記録だったしのお。でも、海を越えるの大変なんじゃよなあ……何回死んだか分からん」
ヒノモトルートは嵐に耐えられる船と、それを乗り越えられる人員を確保しなければならない。その為には、莫大な資金と強力な人脈が必要じゃ。
それをそろえるだけでも大変なんじゃが、あの荒れ狂った海を越えるのは、さらにきつい。10回以上チャレンジして、成功したのは1回だけじゃ。
「やっぱり予定通り、勇者学院入学ルートでいくとするかのう……」
「お、おい! ニル! 聞いてるのか!?」
「――おっ? すまぬのぉ、聞いてなかったわい」
ワシは、ようやく目の前にいる男に気が付いた。
実に懐かしい顔じゃ。70年振りになるかの。――で、こいつの名前なんだっけ?
マサオ? ……いや、ヤスオだったかの? 違う違う、確かヤスヒサじゃ。
「……えーっと、お主の名はヤスヒサじゃったよな?」
「何を言ってるんだ!? ルーチェだ! 勇者、ルーチェ! お前、本当に頭がおかしくなったのか!?」
ビックリするくらい違った。じゃあヤスヒサって誰じゃ? ……ああ、弟子の息子の名前じゃった。
「うーむ、最近ちとボケが進んでいての。女中に『お食事なら、先程したばかりですよ』と言われる事が増えた増えた! かっかっかっかっ!」
ルーチェは引きつった笑みを浮かべておる。笑えんかったか?
弟子たちは、ワシが朝飯2回食うと、爆笑するんじゃが……。
「……ニル君? どうしてぇ、そんなにお爺ちゃんみたいな喋り方なのぉ?」
ふんわりとした、可愛らしい少女に話しかけられた。
――誰じゃ、このブリッコ? この、自分が世界で一番可愛いと思っている感じ……ああ、聖女じゃ!
そうそう、ワシ15歳に戻ってるんじゃったな。
よし、ジジイ語から若者言葉に切り替えねば!
「――ああ、ジジイごっこをして遊んでいただけだ。気にしにないでくれ」
「遊んでたって何よ!? アンタ、今の自分の立場分かってんの!?」
ケバくて気の強そうな女だ。――こいつは確か大魔導士だったと思う。
3人とも俺の幼馴染なのだが、正直当時の事は、ほとんど記憶に残っていない。
千年近くも前の事なので、仕方ないだろう。
「ああ、追放を言い渡されたんだよな? オッケー! じゃあ元気でな、みんな!」
俺は笑顔で手を挙げ、立ち去ろうとした。
なにせ時間が無いのだ。勇者学院入学ルートは、8ルートの中で最も時間制限が厳しい。一刻も早く次の目的地に向かわなくてはいけない。
「おい、待てよニル! なに、そんな簡単に受け入れてんだよ! 『頼むから、このパーティーにいさせてください!』って、俺にひざまずけよ!?」
そういや1周目の時は、涙と鼻水垂らしながら地面に這いつくばっていたなあ。
そんな俺を見て、こいつ等は大笑いしていやがったんだ。
――でもまあ、千年近くも前の事だし、別にいいか。
「いや、1人の方が都合いいから。時間ないんで、それじゃ!」
あと10日で王都までたどり着き、それまでに入学金2,000万ゴールドを貯めなくてはいけない。こいつ等に構っている暇など無いのだ。
「ま、待て! せめて何故、追放されるのか理由を聞け!」
「俺の成長が遅いからだろ? 実に納得できる理由だ。お前達を恨む気持ちはない。それじゃ!」
俺は脳内にステータス画面を展開する。
名前 :ニル・アドミラリ
クラス:オールラウンダー
体力 :21
持久力:23
筋力 :21
技量 :224
魔力 :27
スキル:鑑定LV1 料理LV1 農業LV1
魔法 :発火 治癒
特殊 :死に戻り(呪)
……相変わらずよっわ! この時点でルーチェ達の基本能力値は、得意分野であれば50を超えている。それに対して俺は20台。追放されるのも仕方ない。
何故俺だけこんなに弱いのかと言うと、オールラウンダーというクラスのせいだ。
このクラスは、全能力が限界値255まで伸び、すべてのスキルと魔法を習得できるのだが、成長速度が著しく遅いという特性がある。
村を出た時には4人とも同レベルだったのに、旅を続けるうちに、みるみる差が付いていったという訳だ。
(――ルーチェの剣を鑑定)
鋼の剣:
鋼鉄製 価値20万ゴールド
斬21 打5 突15 特殊効果なし
俺はもう一度、自分のステータスを見た。
――よし。鑑定がLV9まで上がっている。
何故1回使用しただけで、最高LVになったのか?
俺が追放されるのは、今回で98回目だ。
酔っ払って女神像に立ちションしてしまった時に受けた、死に戻りの呪いのせいで、寿命以外の死を迎えると、この時点に強制的に戻される。
死に戻ると、当然15歳の時の基本能力値に戻ってしまう。
ただし例外があって、技量、スキル、魔法は知識やコツといったものなので、持ち越すことができるのだ。
逆上がりや、二重跳びみたいなものと言えば、分かってもらえるだろうか?
つまり、ステータス画面では、所持スキルと魔法は、鑑定、料理、発火、治癒だけになっているが、実際はもっと多くのものを使える。
一度使用すれば、鑑定のように、その都度ステータスが更新される訳だ。
(ふふふ、もう千年近くも修行しているからな)
成長の遅いオールラウンダーでも、これだけの時間をかければ、ほとんどのスキルと魔法は習得できる。
俺は周回ごとに一つの分野を極めていたのだ。前回はお察しの通り、剣術スキルである。
これで俺は、ほぼ全てのスキルと魔法を極めた。
あとはこの力をもってして、ゴリマッチョモードに覚醒する前に、魔王デスグラシアを最短で討つのみだ。
勇者学院入学ルートは、それに最も適したルートである。
――さあ、魔王討伐タイムアタック開始だ!
「――その通りだニル! お前を無能だから追放する! だが待て! まだ、お前に伝えていない事がある!」
まだ何かあるんだっけ? 70年振りだから忘れてるわ。――ったく、こっちは急いでるっつーのに……。
「なに? 手短に頼むわ」
「ふふっ、聞いて驚け! 実は僕達付き合っているのさ! 実は昨晩も、テントの中で愛し合ってしまってね! ふふふ!」
ルーチェは聖女を抱き寄せる。
「ごめんねえ、ニル君。そういう事だからぁ、約束はなしで、ね? んー……」
ルーチェと聖女が熱いキスを交わす。
約束? 約束って何だっけ? まあ、いいか。
「おう! お幸せにな! じゃっ!」
俺は笑顔で手を挙げて、走り去ろうとすると、また呼び止められた。――もう、なんなの?
「ちょっと待ってよぉ、ニルくぅん! どうしてそんなに軽いのぉ!? 私達ぃ、婚約してたんだよぉ!?」
「そうだぞニル! お前、先週アーテルに婚約指輪をプレゼントしたばかりだろう!?」
ああ、思い出した! 俺と聖女って、子供の頃から結婚の約束してたんだ!
で、ルーチェに寝取られた訳か!
そう言えば1周目の時は、追放された事よりも、そっちの方がショックだったような気がする。
「……そうだったな。色々と思い出したよ。――ルーチェ、良い事を教えてやる。そのアーテルとかいうブリッコは、聖女というよりは、性女といった方がいい女だぞ。将来性がありそうな男には、すぐに股を開くんだわ」
「え!? マジ!?」
「ちょ、ちょっとぉ!? いい加減な事言わないでぇ!」
「……確かに、昨晩も『え!? 初めてなのに、そこまでいっちゃう!?』みたいな感じだったな……」
「そ、そんな事ないよぉ! ルーチェ君の為に頑張ったんだよぉ!」
「頑張りでどうにかなるなら、童貞は苦労しねえっつの! はははは!」
顔を真っ赤にして怒る聖女に、大笑いしながら俺は走り去る。
「もう、許さないからぁ!」
ズドォォォォォン!
俺の胸を白い稲妻が突き抜けた。
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