第30話 強襲

 私の感知に何か引っ掛かったが、正確な居場所は分からない。

 かなり高い隠密スキルを持っているようだ。


 受験生たちが、急ぎ槍と盾を装備する。

 さすがに鎧を身に着ける暇はないので、防具は盾と兜のみだ。

 これは私もほぼ同様で、魔法弓とミスリルヘルムのみの武装となる。……最悪だ。


「<閃光><閃光><閃光>」


 私は周囲に閃光をいくつも放ち、索敵をおこなう。


「紋章官殿! 敵影ありません!」


 私の目にも敵の姿は映っていない。


「いや、そんなはずはない。私の探知範囲内に――」


 そこまで言った時に気付く。

 一つ見逃しているところがあった。


 だが、そこから攻撃を仕掛けられる奴は並大抵のものではないぞ?


「水辺から離れろ! 水中から来るぞ!」

「はっ、はい!」


 受験生が湖に向き直った瞬間、2つの水柱があがった。


『<死与><死与>』

『<死与><死与>』


 受験生の一人がバタリと倒れる。

 彼は低い即死耐性しか持っていなかった。


『一人・始末』

『空中・攻撃・続行』


 この言葉は……!


 毛が逆立ち、血が沸騰する!


「魔族だ! 己の影に気を付けろ! 槍が飛び出してくるぞ!」

「イエス、マム!」


<飛翔>で空を飛び回る奴らを魔法弓で狙う。


『<影槍>』

『<影槍>』


 自分の影から放たれた槍をくるりと躱し、紫の矢を放った。


「命中です! 紋章官殿!」


 しかし魔族どもは何事もなかったかのように空を飛び続けている。


『ハハハ! 弱小!』

『我ら・無効!』

「くそったれ魔族め……!」


 魔族は元々魔法抵抗が高いうえ、さらに神聖属性以外のすべての属性抵抗を持つローブを纏っている。

 今の私の魔力では、奴らに効果的なダメージを与えることはできないようだ。


「――散開!」


 魔族が手のひらをくるりと上に向けたのが見えた。


 受験生2人が後ろに飛び下がると同時、彼らがいた場所に黒い炎の龍が立ちのぼる。


 ――この二匹、最高位の暗黒魔法である<邪炎>まで使えるのか……。

 もはや受験生では相手にならぬ。


「お前たちは逃げろ! まともにやりあえる相手ではない!」

「何をおっしゃりますか紋章官殿! デーモンハントが魔族を前にして逃げるなど、ありえんことであります!」


「馬鹿者! お前らは受験生だろうが!」

『<吹雪>』

『<吹雪>』


 魔族の両手から凍てつく冷気が放たれると、受験生二人は私の前に立ち肉壁となる。


「ぐ……! おおっ……!」


 受験生たちがガチガチと歯をならす。

 あと数秒で二人は凍死するだろう。


「<炎壁><範癒>」


 炎の壁が受験生の前に現れ、冷気を遮断する。

 それと同時に失った体力を回復だ。


「助かりました!」

「ありがとうございます紋章官殿!」

「礼などいい!」


 戦況は非常に悪い。防戦一方である。

 受験生たちには、空を舞う魔族どもを攻撃する術がない。

 ここは私がどうにかしないと。


『魔力・消耗・飛翔・続行・不可』

『地上・降りる・接近戦』


 愚かな魔族どもめ、私が魔族語を理解出来るとは知らず、次の一手を明かしおったわ!


「<後光>」


 私の背後に、5つの光の球が浮かび上がった。

 この玉は、術者が敵と認識した者に対し、光の矢を自動で放つ。


 神聖魔法を扱う神官たちは接近戦を不得意とするので、敵を近寄らせないために、この迎撃魔法を開発した。

 なお、術者の魔力によって玉の数は増加し、最大で12個となる。


 ピシュウッ!

 ピシュウッ!

 ピシュウッ!

 ピシュウッ!

 ピシュウッ!


 5本の光の矢が発射されたが、魔族どもは難なくこれを躱す。

<後光の>命中率はそれほど高くない。


「だが回避に集中せねばならぬから、反撃はできまい」


 この隙に私はマジックポーションを飲み干し、魔力を全回復させる。


『<後光>・消滅・間近』

『瞬間・急降下』


 こいつらの<飛翔>の上手さを見れば、歴戦の猛者であることは明らか。

<後光>の発動時間を間違いなく知っている。



 ――だからこそ狙えるのだ。


「戦士たちよ、私の合図で真上に槍を構えろ」

「頭上に!? 了解です!」


<後光>が切れるまであろ2……1……。


「構えぇ!」

「おうっ!」

 

 戦士達が真上に槍を突きあげる。


『何!?』


 真上からの急降下攻撃を仕掛けようとしていた魔族が、串刺しになるのを避けるため空中で急停止した。


「<聖雷>」


 ズドォォォォォォン!

 聖なる極太の雷が魔族を撃ちぬいた。


 ――が。


『不覚……!』

『大丈夫!?』


 心臓を狙ったつもりだったが、左肩から先を消し飛ばしただけだった。

 おそらく咄嗟に身を捻ったのだろう。


「それくらい想定済みだ。とどめを刺してやる。<飛翔>!」


 私は死んだ受験生の槍を掴み、重症の魔族に突っ込んだ。

 対空槍術、ライジングチャージである。


 ガキンッ!


 片腕しかないのにあっさりと受けられてしまう。

 私の力が貧弱かつ、奴の力が化け物じみているからだ。



 だが、私の勝ちだ。


「<後光>」

『グッ……!』


 本来<後光>は、接近戦を不得手とする術者を守るための防御魔法である。

 だが術者が、接近戦のスペシャリストであれば?


 使い方は180度変わる。


「これが真の<後光>だ! 死ね!」


 ピシュピシュピシュピシュピシュウッ!

 ゼロ距離からの一斉射撃。魔族は穴だらけになって死んだ。


「まず一匹!」


 私は意気揚々ともう一匹の魔族に振り返る。



『2匹目』



 受験生1人が<影槍>に貫かれていた。


「クソ魔族め……!」

『人間・皆殺し……!』

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