第24話 性欲モンスターの襲撃

 対校試合から1か月後。


 ステイフが錬金スキルを持たず、部屋にも錬金素材がなかった事。

 周辺一帯の錬金店で、ステイフを見た者が1人もいなかった事などから、彼は無罪放免となった。


 しかし、学院には戻る事はできず、彼は小さな領地を与えられ、そこで暮らす事となった。実質的な追放である。


 10月はミス・ケテル・ケロス魔法学院コンテストが開催される予定だったが、中止となった。いつもであれば、リリーが優勝するのだが。



 それからさらに1か月が経ち、11月となったが、クラスにはまだ暗い雰囲気が漂っていた。

 そんな雰囲気に呑まれず、ピンクのオーラを放ち続けているのがこの女。性王女リリーである。



「お風呂でクラスメイトの方々と親交を深めるのは、一番の楽しみなのですが、この時間帯は誰もいらっしゃらないでしょうね。残念ですわ……」

「左様ですか……」


 俺とリリーは、人気ひとけの全くない廊下を2人で歩き、大浴場へと向かう。

 明日のピクニックについて色々と話をしていたせいで、すっかり遅い時間となってしまったのだ。


 獲物がいない風呂に1人で入るなど、この性欲モンスターにはガッカリこの上ないのだろう。


「では性王女殿下」

「ええ、ごきげんよう」


 俺は男湯の入口に入ろうとする。


「――あっ、魔王太子殿下ですわ!」


 見るとデスグラシアがお風呂セットを持って、こちらへとやって来た。


 あれから、彼女とは風呂で会っていないが、今はどちらに入っているのだろうか?

 気になった俺は、リリーと一緒にデスグラシアの姿を追う。


『む、何だ2人して私をジロジロと』

『殿下がどちらに入られるのかと気になりまして……』


『お前に言われたから、今は女湯に入っている』


 そう言って、デスグラシアは女湯に入って行った。


「女湯に……!? あらあら……! まあまあ……!」


 リリーの目つきが変わる。獲物を追う狼の眼だ。


「うふっ、ちょっと味見といきましょう……! うふふふふふふふ……!」


 リリーは舌なめずりをしながら、女湯に飛び込む。



「うーむ、大丈夫だろうか……まあ、いいか! 尊いし!」


 仮に過ちがあっても、仲良くなるのだから問題無い。

 愛とエロスの力で正解平和。最高じゃないか!




 入浴を終え、入口前のベンチで冷たい水を飲んでいると、頬を赤く染めたデスグラシアと、妙につやっつやしているリリーが一緒に出てきた。


 あらあら、いいですねー! 一体何をしたのか聞いてみたい。


「うふふ、魔王太子殿下を女湯へと導いていただき、ニル様には心より感謝申し上げますわ」

「はっ! もったいなきお言葉!」


 リリーは深く頭を下げ、満足そうな表情で自室へと戻って行った。

 後には、恥ずかしそうにしているデスグラシアだけが残る。


『……ニルよ、人間の女風呂のマナーについて聞きたいことがあるのだが』

『御意!』


 俺はデスグラシアから、聞いたこともない女風呂のマナーを聞かされる。

 簡単に言えば、青少年の育成に絶対良くないやつだ。


『ほおほお……ほおお……! おお、そんな事まで……! あらあら、いいですねー!』


 その淫靡で官能的な、百合の花が咲く世界を堪能した後、それが全て嘘である事を彼女に告げる。


『な!? では聖王女は、何故そのような行為をおこなったのだ!?』

『ガチ百合だからです』


『そ、そうだったのか……今後、あの女とは絶対に風呂に入らぬ……!』


 デスグラシアは顔を真っ赤にしながら帰って行った。



「今日は久しぶりに楽しい気分になったな。さあ、部屋に戻るか!」


 後ろを振り向くと、お風呂セットを持ったセレナーデが、やって来るのが見えた。


「……ニル君、魔王太子殿下とお風呂に入っていたのですか?」

「いや、デスグラシアはリリーと一緒に女湯に入っていたんだよ」


「まあ! それは良かったです!」


 セレナーデは嬉しそうに笑う。


「何がそんなにいいんだ?」

「リリー様とくっ付いていただければ、ライバルが減りますもの。うふっ」


 彼女はやはり、デスグラシアに対抗心を持っているようだ。


「ニル君。明日のピクニック、同じ班になれるといいですね」

「そうだな。――それじゃ、おやすみ」



 俺はセレナーデと別れ、自室へと戻る。


 ピクニックは、毎回セレナーデと同じ班になっていた。

 だが今回は3人抜けてしまっている。その影響があるはずだ。



 対校試合のように、悲惨な事故が起きなければいいのだが……。


------------------------------------------------------------------------------------------------


 ケテル・ケロス勇者学院、生徒たちの武器。


 ニル        :氷の剣

 デスグラシア魔王太子:魔斧

 リリー第1性王女  :大杖

 クーデリカ第2公女 :カタナ

 ドロシー侯爵令嬢  :杖

 セレナーデ侯爵令嬢 :弓


 フォンゼル王太子:長剣

 レオンティオス卿:大剣

 セラフィン卿  :小剣

 バルト卿    :槍

 ステイフ卿   :鞭

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る