第19話 結果発表!!
デスグラシアとの関係は上手く修復できたが、ドロシーの方は良い手が見つからず、そのまま学習発表会の日となってしまう。
フォンゼル班、リリー班、セラフィン班、レオンティオス班の順番で発表していく。
フォンゼル達の発表内容は、アトラギア王国の歴史だ。要は自分達王家の自慢話である。
やれ、どの戦いに勝利したおかげだとか、やれ、どの政策を施行したからだとか、本を読めばすぐに分かる事をクドクドと話すのだ。
俺の隣に座っていたクーデリカは、グーグー寝ていた。
セラフィン達の内容は中々に興味深かった。
内容はズバリ『最強のクラスは何だ!』である。テーマは非常に良かったのだが、検証と考察がガバガバで、ガンガン反論を食らってしまっていた。
きちんと詰めれば、1位を取れたのではないかと思う。
レオンティオスの班は酷かった。学科試験下位の者達が集まってしまったせいだろう。
内容は「アサガオの成長記録」である。
発芽から花が咲くまでの経過を絵に描こうとしたみたいだが、アサガオは2週間では花を咲かせない。
本葉が少し大きくなったところで終わりとなり、生徒たちを爆笑の渦に巻き込んでいた。哀れなものである。
各グループの発表が終わり、順位が貼りだされた。
俺はリリー達と共に、掲示板の前へと向かう。
1位 フォンゼル王太子殿下班
2位 リリー聖王女殿下班
3位 セラフィン卿班
4位 レオンティオス卿班
「2位……ですか……仕方ありませんね」
「うーん……今回は1位を取れるかと思ったんだがなー」
デスグラシアの案である、各国の料理のコーナーが、そこそこ好評だったのだ。
「やっぱ、実際に料理を提供してみるべきだったか? でも、どうせ出来レースだからなー」
「あははー! それは言っちゃダメだよー!」
フォンゼル達の内容は、明らかに俺達よりショボイ内容だった。
初めから1位になる事は、決まっていたのだろう。
「ニル、アンタ、悔しそうね!」
「ああ、ちょっとな……」
今までは、負けても「ふーん」といった感じだったが、今回は何だか悔しい。
せっかくリリー達とデスグラシアが上手くいっていたのだから、勝たせてあげたかった。
「皆さま、お疲れ様でした。この後慰労会をやりませんか?」
「いいねー! やろーやろー!」
「アンタも来なさいよね!」
「あ、ああ」
ドロシーが俺を拒絶していない。時間が解決してくれたようだ。良かった良かった。
「じゃあニル様、魔王太子殿下も呼んできていただけますか?」
「かしこまりました!」
何と嬉しい事か! 俺から提案しようとしていた事を、リリーの方から言ってくれるとは!
俺は急いでデスグラシアを呼びに行く。
彼女は俺の話に驚いたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
* * *
「ニルー! 今日はセレナーデがいないから、浮気したい放題だよー!」
「いや、別に付き合ってる訳じゃないんだが……」
酒が入ったクーデリカは、いつも以上に
「この後のお相手は誰にするー? リリー? ドロシー? 私? ……それともデスグラシア?」
『ニルよ、第2公女は何と言っているのだ? 私の名が呼ばれたようだが?』
デスグラシアは通訳を連れて来ていないので、一々俺が訳さなくてはいけない。
『私の今夜の相手を、4人から選べと言っています』
『なっ!?』
正直に伝えるような話ではない。
だが、デスグラシアの反応が見てみたくなった。
『彼女は、私を女として見ているのか……』
『私・女の勘・鋭い』
デスグラシアはビクっとして、ニヤリと笑うクーデリカを見た。
さすがはクーデリカ。3か月足らずで、簡単な魔族語が使えるようになっている。
それも、たまにしか教えていないのに。
『私が彼女達に魔族語を教えています』
『そうだったのか……驚いたぞ』
『あなた・好きな人・バレバレ』
リリーは口を押さえて「うふふ」と笑う。
やはり彼女も話せるようになっていたか。
『な……! そんな者はいない!』
リリー達3人が全員笑う。ドロシーも理解できているのか……。
デスグラシアは頬を紅く染め、うつむいてしまった。――可愛い。
「魔王太子殿下をからかうのは、ここまでにしとくかー! それで、誰にするのー? セレナーデには秘密にしておくから、大丈夫だよー!」
「いや、だから……」
「じゃあ、ドロシーを選んであげなよー!」
「ちょっと、やめてくださいよー!」
ドロシーは顔を真っ赤にして、クーデリカを押さえつけようとする。
「最後の記念にしてあげなよー! 明日でお別れなんだからー!」
「え……?」
ドロシーは2週間前に、急に輿入れが決まり、学習発表会を最後に退学する事となっていた。
俺は聞かされていなかったが、リリー達は知っていたようだ。
別に珍しい事ではない。勇者学院で最もよくある退学理由なのだ。
だが、こんな展開は初めてだった。
(いつものパターンでは、ドロシーは護衛官に選ばれ会食で命を落とす。これは良い方に向かったという事なのか?)
だが何故、ドロシーは結婚する事になった?
俺の行動の影響である事は間違いないだろう。
(……まさか俺とのキスが両親に伝わったとか?)
平民の俺に傷物にされる前に、嫁がせようとでも思ったのだろうか?
「ドロシー嬢……もしかして、あの罰ゲームが原因ですか?」
「ち、違うわよ! お父様の容体が悪いの! だから、元気なうちに結婚式を挙げる事にしたのよ!」
そうなのか……。
だが、今までドロシーの父親が病気になる事なんてあっただろうか?
――いや、あったのかもな。
ドロシーとまともに会話するのは99周目が初めてだから、今まで知らなかっただけなのだろう。
「――という訳で、本日の慰労会は、ドロシーの送別会も兼ねているのです」
「あはははー! どっちかって言うと、そっちがメインだねー!」
「そうそう! 私が主役なの! ほらニル! さっさとワインを注ぎなさい!」
こうしてドロシーの送別会は、彼女が盛大にゲロをぶちまけるまで続いた。
* * *
翌日の朝、俺達はドロシーの見送りに校門前に集合していた。
「お手紙送りますよ。ドロシー」
「ドロシー! 元気でねー!」
「お体にお気を付けて」
『其方の幸せを願っているぞ』
「ドロシー嬢、お幸せに!」
馬車が出発し、その前後に護衛の騎士たちがつく。
「みんなバイバーイ!」
ドロシーは窓から笑顔で手を振る。
俺達も彼女に手を振り返す。
これがドロシーにとっても、世界にとっても良い結果となれば良いのだが……。
だが残念ながら、そうはならなかった事を、だいぶ後になってから俺は知る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます