第64話 アリ

 翌日俺達は、氷の船で孤島に向かった。

 結局今回は、他の班と合流せずに地下へと入る。


「な、なんと薄気味悪い場所だ……私は地上で待っている。平民よ、お前1人で腕輪を探索するのだ! お二人も私と共におりましょうぞ」

「――御意」


 今回はフォンゼルの言葉がありがたい。

 この地下は俺1人で探索したかったからだ。

 特にクーデリカは連れて行けない。


『ニル、私も手伝うぞ?』

「私も探索したーい!」


「――いや、俺1人で行かせてくれ」


 俺の真剣な眼差しで察してくれたのか、2人は黙ってうなずき、地上へと上がって行った。


「さてと……」


 俺はまず食堂から調べる。

 ここはやはり何もないようだ。


 奥のドアを開け、飛んで来た吸血コウモリを退治し、前回も入った右の部屋に入る。


「腕輪は……あった……!」


 前回セレナーデが見つけた辺りを探してみると、奥の方に置いてあった。


「結構奥の方にあったな。よくあんなに早く見つけられたもんだ」


 俺は他の棚も見て回ったが、特に目ぼしいものは見つからなかった。


 続いて、リリーとデスグラシアが探索した、左の部屋へと入る。

 ここは書斎だ。かなり古い本が、何百冊とある。


 俺は書棚によじ登り、前回リリーが手に入れた手枷を探してみる。


「あった……それも4つもだ……何だこれは……?」


 俺は4つの手枷を取り、床に並べる。

 どれもサイズが違う。一番小さい物は、乳幼児用なのかと思うくらい小さい。


「幼児に手枷など必要無いだろうに……悪趣味だな……」


 俺は一応全部をバックパックにしまう。

 前の周では、これがデスグラシアを救ったので、一応持っておきたいのだ。


「さてさて、どんな本がありますかな……」


 一番多いのは歴史書だ。

 この書斎の持ち主は、かなりの歴史マニアなのだろう。

 信じられないくらい昔の時代の物から、最近の物まで幅広く取り揃えている。


「スキルや魔法関係の本も多いな……」


 これも、あらゆるスキルと魔法の書物が揃っている。

 もしかして、俺と同じオールラウンダーなのだろうか?


「これだけあれば、数百年は読書だけで暮らせそうだ」


 他にも言語や、伝説、神話などの本も取り揃えている。

 その中には、魔族語を学習する為の教科書や、邪神について記された本もあった。


「さすがにキリがない。次に行くとしよう」


 重要なものはなさそうなので、俺はいよいよ奥の部屋へと入る。


「ここは寝室か……ベッドは1つ。1人暮らしだったのか?」


 部屋が質素すぎて、男の部屋なのか、女の部屋なのか、さっぱり分からない。


「別段何もないように見えるが……」


 俺は感知を使う。

 部屋の奥の壁の向こうに一部屋、そしてそのすぐそばに、罠が仕掛けられているのを発見した。


 俺は罠を調べる。


「――なるほど。隠し扉を探そうとして、手あたり次第に壁を触ると、発動する感じだな」


 俺は安全を確かめてから、あえて罠を発動させる。

 小さな針が壁から飛び出てきた。


「クーデリカは、これに刺さったのか? ――針に何か塗ってあるな……毒か?」


 鑑定を使うと、それは毒ではなく、固まった血液である事が分かった。


「罠に引っ掛かった者の血液だろうか? ……まあともかく、これで化け物に変身する事はないな」


 俺は隠し扉を開け、奥に入る。


「――なんだこりゃ?」


 小さな部屋には、大きなテーブルとイスが一つ。

 テーブルの上には、いくつもの大きめのビンが並んでいる。


 俺はビンの一つを手に取り、中をのぞいた。

 なんて事はなく、土が入っているだけだ。



「――ん? 蟻でも飼っていたのか?」


 蟻の姿は見えないが、アリの巣が残っている。


 他のビンも全て同じだった。

 ここの家主は歴史とアリが好きらしい。


「うーん、結局大したものはなかったな」


 俺はがっかりしながら、地上へと戻る。



 クーデリカが笑顔で俺を迎えたのを見て、ほっとする。

 今回は、彼女を死なせずに済んだようだ。


 俺はフォンゼルに腕輪を見せると、すぐに氷の船を作り始めた。


     *     *     *


 無事脱出地点にたどり着いた俺達は、帰りの船の上で今回のピクニックについて語っていた。


 あそこを登るのはきつかったとか、泥に足がはまって最悪だったとか、ヒルに血を吸われたとか、それはもう楽しく話す。


 前回は絶望的な雰囲気に包まれての帰路だったから、今回は余計に楽しく感じる。


「――ねえねえ、ニルー。あの地下に隠し部屋とか無かったのー?」

「ああ、あったよ。でもアリの巣が入ったビンしかなかった」


「アリー!? あんなの飼う人が、他にもいるんだねー!」

「ん? 誰かいるのか?」


「うん、あの子ー!」


 クーデリカは、俺達から離れた場所に座っていた1人の人物を指差した。


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 ニルの死にざま(一部抜粋)


 1周目 追放と寝取られたショックで物乞いになる。餓死。


 2周目 死に戻りの呪いが本当に発動した事にショックを受け、アル中に。

     大雪の降る日に外で寝て凍死。


 3周目 絶望を味わっている最中、3回目の追放を言い渡されブチギレる。

     ルーチェ達に襲い掛かるも返り討ちにあい死亡。


 4周目 普通に生きて行こうと決意するも、山賊の罠にかかり死亡。


 37周目 湖底の神殿の守護獣にバクリ。


 38周目 守護獣と雷撃魔法で戦うもバクリ。


 44周目 地下墓地で棘付き天井の押し潰されて死亡。


 59周目 勇者学院のシェフとなり、デスグラシアに毒入りを食わせようとするも 失敗。処刑される。


 97周目 ヒノモトで剣聖となり、寿命まであと一歩というところで、デスグラシアとの一騎打ちに敗れる。

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