第40話 審判の時
俺はテンペストとピットを引き連れて、武術大会の開催される街に到着した。
ダッシュで受付へ向かい、参加登録を済ませる。
「さて、グリフォン退治の報酬200万ゴールド分をどうにかして、稼がなくてはいけないぞ」
何か良い案はないかと辺りを見回していると、様々な出店が目に入った。
投げナイフを的に当てたら景品。1回500ゴールド。
店の主人と腕相撲に勝ったら賞金1万ゴールド。チャレンジ1回1,000ゴールド。
「……おお、あれはいいな」
数十分後、俺は「俺との拳闘試合に勝ったら、賞金200万ゴールド。チャレンジ1回2万ゴールド」と書かれたのぼりを背負って、武術大会受付周辺を練り歩いた。
「おい、てめえ。お前をボコしたら200万ってのはマジなのか?」
よし、俺の狙い通りだ。早速、変態パンツおじさんが食いついて来たぞ。
金を稼ぎつつ、武術大会参加者を間引きしていく。これが俺の考えた、一石二鳥の金策術だ。
「はい、本当です。チャレンジしますか?」
俺は200万ゴールドが入った金貨袋を見せる。
「マジで持ってるのか……おう! やってやるぜ!」
変態パンツおじさんは、俺に2万ゴールドを手渡した。
俺達の周りに観客が群がり始める。
「じゃあ、いつでもいいいですよ」
「よっしゃ! うおおおおお!」
大男の大振りのパンチをしゃがんで避ける。
ここで反撃して、すぐには終わらせない。強さを見せつけすぎると、挑戦者がいなくなってしまうからだ。
俺は適度に良い戦いを演じてから、変態パンツおじさんのアゴに裏拳を叩き込み、ノックアウトさせる。
「よし! 次は俺だ!」
「毎度ー!」
こうして俺は、武術大会が始まる前に挑戦者約100人を間引き、200万ゴールド近くの金を稼ぐことができた。
普通は10人くらい倒された時点で、挑戦をあきらめるだろう。
だが、武術大会に参加する人達は「俺が世界最強だ!」と思っているので、最後まで客足が途絶える事は無かった。
「包茎! いぼ痔! 早漏!」
「てめえ、この野郎!」
残りの参加者達は、試合待ちの時間で挑発し、間引いていく。
これは相変わらず心が痛む。
武術大会は開始1時間で終了した。
『優勝はニル・アドミラリ選手です! 武術大会優勝の称号と、賞金200万ゴールドが送られます! それでは優勝したアドミラリ選手、一言お願いします!』
ラウンドガールから賞金をもぎ取り、ダッシュで古物商の元へと向かう。
くっせえブーツを売り、100万ゴールドゲット。わけあって、きったねえネックレスは売らない。
これで2,000万ゴールド達成だ。
「さて、次はリッチのいる地下墓地か……今回、早目にいってみるか?」
あの地下墓地が発掘されるのは今日である。
俺は毎回丸2日かけて、あそこまで移動するが、テンペストに乗れば1日で済むはずだ。
発掘から1日だけの経過であれば、犠牲となる冒険者の数を減らせるかもしれない。
「よし、テンペスト! お前に乗って行くぞ! ピットも乗れ!」
持久力が伸びなくなってしまうが、今回は龍の血の効果で成長力が上昇している。2日分くらいの経験値は、すぐに取り戻せるだろう。
俺の騎乗スキルで強化されたテンペストは、かなりの速度を出しながら長時間駆ける。
普通の馬なら、すぐに潰れてしまうペースだ。
途中途中でテンペストから降り、自分で走る。
それだけでテンペストのスタミナは、すぐに回復した。大した馬である。
「到着ー! お前達はここで待っていろ」
予想通り1日の短縮に成功し、7日目の昼間、俺は地下墓地に到着した。
俺はテンペストから降り、発掘隊長の元に向かう。
「お! 募集案内を見てきた冒険者かな?」
「はい、そうです」
俺はギルドカードを発掘隊長に差し出す。
「君で2番目だ。早い者勝ちだから、ジャンジャンお宝を見つけてくれ。3割が君の報酬になる」
この時間に来れば2番目なのか。という事は……。
「1番目の人は、シビーラというセクシーなお姉さんですかね?」
「ああ、そうだよ。知り合いかね?」
「はい、何度もキスをした仲です」
「そ、そうか。ならばすぐに行くといい。彼女は先程、地下に潜って行ったよ」
「分かりました。――あっ、ツルハシってあります? 貸してもらえませんか?」
「ああ、そこにあるから、自由に使ってくれ」
俺はツルハシを手に取り、念の為長時間効く解毒剤を飲んで、地下へと下りた。
さて、このタイミングで彼女と会うと、どうなるのやら?
俺は床から槍が飛び出てくる通路や、間違えると矢が飛んでくる仕掛けを解いて、先に進む。
棘付き天井の間をあっさりと抜け、落し穴を避けていく。
「これを1人で突破できるという事は、シビーラはかなりの盗賊スキルの持ち主って事なんだよな」
最奥の間の、扉の前にたどり着いた。
「という事は、彼女はすでにこの中にいるのか。凄い早さで突破したな」
俺は扉の仕掛けを解き、中へと入る。
「どうもー!」
石の棺の前に立っていたシビーラが、驚き俺の方を見る。
「ほう……もう1人来たか……男よ……大きな力を欲しくはないか……? 我の復活を手伝えば……それをくれてやろう……」
どこからともなくリッチの声が聞こえてくる。
「……ねえ君? 私と組んで、その力いただくとしない?」
「リッチにアンデッドにされるだけですよ。それでもいいんですか?」
「え、そうなの? ……じゃあ、究極魔法を授けるってのは嘘?」
シビーラは棺に向かって話し掛けるが、リッチからの返答はない。
「こいつは復活した後、この一帯の生物を全てアンデッドに変えます。そんな奴の味方をするんですか?」
「違う! 我は再び、魔術の研究に
「死霊術のだろ?」
リッチは再び押し黙った。なんて分かりやすい奴だ。
「……図星なのね。私は善人ではないけれど、さすがにそこまでの事はやるつもりはないわ」
良かった。シビーラが降りてくれた。
……だが、彼女を生かしておいてよいのだろうか? 今後、罪もない人達を傷つける恐れがある。
それをジャッジしないといけないのか。
「とりあえず、このリッチをぶち殺しませんか?」
「そうね。私をだまそうとしたなんて許せないわ」
「ふん……この石の棺は、人間の生き血がなければ絶対に開かぬ……我に手出しするなど、絶対に不可能だ。この愚かどもめ……!」
俺は石に棺をベタベタと触った後、ツルハシを棺に振り下ろした。
ザクッ!
「お、やっぱいける!」
採掘LV9ならば、この程度の石などザクザク掘れるのだ。
「な、なにぃ!? ……ふふふ、いいぞ人間よ! そのまま棺を破壊するのだ!」
「おっけー!」
俺は何度もツルハシを振るい、ついに棺の蓋を破壊した。
「ふはははは! でかしたぞ! 褒美にお前達を我が
「<聖罠>発動」
「ぎゃああああああああああああ!!」
リッチは一瞬で消滅した。
こいつって普通に戦うと強いんだろうか? 1回試してみたかった。
「あら? もう死んじゃったの? 切り刻んでやりたかったのに」
「それは申し訳ないです」
俺は棺の中から冥帝のローブを取り出す。
彼女は欲しがるだろうか?
「……それ、とってもいいローブね……まあ、いいわ。あなたにあげる。それと、これはお礼よ」
シビーラは俺にキスしてきた。
舌を入れない、軽いキスだ。麻痺毒も含まれていない。
「わおっ……」
「うふふ、キスは初めて? 私はシビーラ。冒険者もとい殺し屋といったところかしら。私の力が必要になったら、王都にある『白ヘビ古書店』を訪ねなさい。力になるわ」
そう言って、シビーラは風のように消え去った。
「格好良く去って行ったな。でも……」
俺は入り口とは別の扉を開けた。
この扉は、向こう側からだと非常に重いが、こちら側からだと簡単に開ける事ができる。
階段を何段も登り、小さな小部屋にたどり着く。
そこにある鎖のレバーを引いた。
ゴゴゴゴゴ……! 隠し扉が沈み込む。
矢の罠が仕掛けられている部屋に入ると、前から颯爽とシビーラが駆けて来るのが見えた。
「シビーラさん、また会いましたね」
「えっ!? 隠し通路!?」
せっかく格好良く去ったのに、これでは台無しである。
シビーラの顔が紅くなっていく。――可愛い。
「シビーラさん、約束してください。罪もない人達を殺す事はしないと」
「……殺気がにじみ出ているわよ? いいわ、約束しましょう」
どこまで信用できるか?
俺は今まで、彼女を生存させた事がない。1度試してみる価値はあるか……。
「さようなら、お元気で」
「あなたもね……えっと……」
「ニル・アドミラリです」
「じゃあね、ニル君」
シビーラは、再び風のように去って行った。
俺は発掘隊長にリッチの事を報告し、ここには罠しかない事を伝える。
そのお礼として、冥帝のローブを無事いただき、それを羽織った。
「ステータス展開」
体力 :51
持久力:40↑
筋力 :46
技量 :227
魔力 :41(51↑)
スキル:鑑定LV9 料理LV9 農業LV1 隠密LV9 調教LV9 錬金LV9
騎乗LV9 探知LV9
迅雷剣9段 手刀9段 清流拳9段
魔法 :発火 治癒 死与 耐水 呼吸 発光 強風 氷結 飛翔 炎罠 聖罠
耐性 :炎・冷(極) 聖・闇(高) 水・風・雷・地(中) 即死(極)
特殊 :死に戻り(呪) 成長速度上昇(中) 寿命延長 能力値限界突破
泉の女神の祝福(体力10) 婆のマッサージ・真(体力5 筋力5)
暗黒魔法制限解除
称号 :ドラゴンスレイヤー(不敵) 武術大会優勝(体力3 筋力3 技量3)
「――あ! 婆のマッサージが“真”になって効果が上がってる!」
ドラゴンステーキや、龍の血の効果もあって、今回はフィジカルがかなり強化されている。いい塩梅だ。
「さて、じゃあ王都へ向かおうか」
俺は迷宮には向かわず、直接王都に向けて走り出した。
今回は、あらかじめ虹色の魔石を手に入れておく必要は無い。何故なら……。
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