第4話 現実
頭が割れる……。
ズキズキと頭痛が、心臓の鼓動に合わせるようにして痛む。
その痛みのせいで、僕は呼吸すらおぼつかない。
けれど、痛みを和らげるために、僕は両手で頭を抱えるようにする。
「ワイト!」
すぐそばでクロエの声が聞こえる。
耳のそばだから、頭が更に痛む。
でも、なぜか、その声を聴くだけで少しだけ安心してしまう。
「僕は……一体……?」
なんとか身体を起こすと、クロエが僕の胸に飛び込んできた。
「ごめん……ごめん……」
泣きじゃくる彼女を受け止めた。
だが、瀕死の僕は危うく意識を失いそうになってしまう。
だが、ここで意識を失うと、更に彼女を悲しませることになる。
僕はなんとか堪えて、彼女の髪を撫でつけるようにして慰める。
いかに【勇者】といえど、まだ八歳。
その華奢な体は、女性特有の柔らかさを帯びていないが、触れるだけで壊れそうな繊細さを感じさせた。
そして、僕の鼻は、彼女の匂いを敏感に感じ取り、すこし嗅ぐだけで不思議と心が穏やかになってしまう。
「僕は、一体どうなった?」
僕がそう尋ねると、彼女は顔を上げた。
真っ赤に充血した瞼に、頬に流れる涙、そして顔にかかった返り血。
気になって周囲を見渡すと、おびただしい量の出血で、赤く染まっていた。
「そっか……」
そういえば、さっき女神様と会ったときに、僕が死んだことを女神様から教えてもらっていたのだ。
「ワイトの木刀が折れて……そして、ボクの一撃がキミの頭に……ううっうううっ……」
クロエは懸命に話そうとするが、嗚咽に阻まれてしまい話を進めることができなかった。
言葉がつかえてしまい、途中で説明ができなくなった彼女は、ただ僕の胸のなかで泣き続けるだけだった。
そんな彼女の悲痛な嘆きを受け止めながら、僕は……
ああ~さっきのアレはやっぱり夢じゃなかったんだな~
とどこか他人事のように思ってしまっていた。
死んで、女神様に会って、異世界人の魂で補って復活するとか……。
非現実的すぎて、僕の理解のキャパシティを超えた事態ということなのだろうか?
周囲のスプラッターな現場を見る限りでは、実際に、僕が死ぬということは起こったのだろうけど……。
現実で起こったことのように受け止めることができない。
けれども……周囲の赤く染まった世界。
それだけの血を流出したにもかかわらず……。
僕の頭には傷一つないのだ。
これは、もはや神の御業と言うしかない。
はぁぁ。
頭部に傷一つないという現実が……。
自分の魂に"異世界人の魂"を足すことで命をつないだという現実を裏付けている。
こんな"現実"を受け止めるだけのキャパシティは、僕にはない。
僕は、ただただ、心のなかで溜息をついた。
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その後、クロエを落ち着かせて、彼女の家に送り届けた。
自宅に帰宅すると、僕の衣服が血に染まっているのを見た母が卒倒してしまったり……。
大変だった。
現状分析する余裕ができたのは、その日の深夜になってからだった。
深夜、自室の机に向かいながら、僕は状況を整理する。
今日、僕はたしかに死んで、女神様の奇跡により復活をした。
……事故は、女神様の不注意により起きたことのようだけど、そこは置いておく……。
そして、復活にあたり、僕は"異世界人"の魂を吸収したわけだが……その結果、異世界人"タナカ"の記憶をさかのぼることができるようになった。
その異世界人の記憶と、クロエや僕の容姿、僕の目の前に置かれている歴史書や世界地図……。
それらの情報から導かれる結論。
それは……。
この世界が"ゲームの世界”ということだった。
しかも……エロゲー。
最悪だ……。
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