第19話 号外

「ありえないだろッ! こんなダサいものをゲームクリアまで身に着けるとかッ! 人を馬鹿にするにもほどがあるだろッ!」

 僕は深夜にも関わらず雄叫びをあげた。


「いい加減にしろ! 近所迷惑だろうが!」

「ごめんよー! 父さん!」


 僕の怒りの雄叫びは、深夜帯には厳しいものがあり、父さんからお叱りをいただいた。



 しばらく静かにして父さんが寝静まったのを確認すると、再び僕は自室でゴソゴソと動き出した。


 まさか……!

 ”きんのネックレス"がこんなにもダサいなんて……!

 ペンダントトップに、マッチョのボディビルダーとか。

 しかも金。ありえない。


「今日はもう寝よう……」


 意気消沈した僕は、布団を頭からかぶって眠りにつくことにした。





「寝れない……」


 寝付けない理由は"きんのネックレス"にあった。


 どうしても、そのネックレスのことを考えてしまうのだ。


 僕は布団から這い出ると、"きんのネックレス"を手に取る。



 ごくりっ。

 僕の生唾を飲む音が響いた。



 僕は、"きんのネックレス"を首にかけて、姿見の前に立つ。


 ブーメランパンツを佩いて、黒い光を放つ筋肉を身につけた僕の姿が姿見にうつる。


「やはり……」


 いくつかのポージングをとると、僕の胸の上で金色のペンダントトップがなめらかに動く。


 黒光りする筋肉をひきたてるかのように輝くゴールド。

 そのあまりの美しさに、僕のこころも奪われてしまう。


「このデザインが僕の筋肉をひきたててくれているのかッ……!」


 これで【全状態異常無効】まで可能にするなんて……!

 もはや身体の一部であるかのように、僕の身体になじんでいる。

 このネックレスを手放すことなど、想像だにできない。



 そうして、僕はその日枕を高くして、”きんのネックレスを”身に着けたまま就寝したのだった。

 


-------------------


 "きんのネックレス"を装備してからというもの、ソウボ山の魔蜂狩りは順調に進んだ。

 数か月ほどを魔蜂狩りに費やす日々を送っていた。


 すると。


 その日、僕の前に現れたクロエはいつもと違って、一枚モノの紙を手に持って口に干し肉を加えていた。



「今日は珍しいね」

 木刀以外を手にする彼女を見るのは、初めてかもしれない。

 そう思いながら、僕は声をかけた。


「号外だってさ。村の入口で新聞を配っていたよ。干し肉は屋台で安く売ってたから買ったんだ」

 

「ちょっと見せてもらっていい?」

「いいよ」


 昼はインドア派、夜はアウトドア派。

 そんな修業の日々を送る僕は、久しく新聞を読んでいなかった。

 新聞を読むだけなのにどこか新鮮な経験をしているように思いながら、見出しに目を走らせる。



—― 草原鼠と一角兎の大量供給により食料事情が改善 ――

―― ワンジョー平原のモンスター激減をうけ開拓計画立案。将来は一大穀倉地帯へと発展か ――

―― 王都ギルドに新進気鋭の冒険者現る ――

―― 身元不明死体の重要参考人見つからず。身元割り出し難航 ――



「世の中いろいろなことが起こってるんだねぇ」

 僕は感想を述べた。

 盛りだくさんな印象すらある。

 激動の時代を迎えようとしているのだろうか。


「この新進気鋭の冒険者の記事とか凄く面白いよ! 石等級で登録したばかりの新人が王都冒険者ギルドの納品記録を塗り替えたんだってさ! しかも、納品後に行方をくらますとかカッコいいよね!」

 クロエは、まるで我が事のように大はしゃぎしている。

 そんな彼女の様子に、僕は思わず目を細めてしまう。


「すごい話もあったもんだ。謙虚な人がいるものだね」

 僕は素直に驚く。


「でも、僕は身元不明死体の記事が気になったかな。死体を置いていくとか……。置いていかれた方にとってはたまったもんじゃないよ」

 そんな心ない行動をする人がいるなんて。

「死体を置き逃げするような人間にだけはなりなくないね」

 僕がそう述べると、クロエが続けた。


「なんでも王都の憲兵団が捜索しているけど、重要参考人が見つからないんだってさ」

「きっと置き逃げした人が犯人に違いないよ。絶対捕まるべきだ」

「そうかなぁ。死体をわざわざ置いていく理由が分からないよね。犯人だったらむしろ隠すと思うし……」

「いやいや……」


 そんな感じで、僕はクロエと新聞記事について話をして盛り上がったのだった。





■■あとがき■■

2021.04.27

すみません。

体調崩してしまい、更新遅れました。


魔蜂狩りに数か月勤しんだ結果……

置き逃げしたこと自体、ワイト君は忘れてしまっていますwwwwww

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