第20話 女王 "Killer Queen"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Queen"の"Killer Queen"でお願いします!


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 同じ場所で魔蜂を狩り続けると、ほとんど遭遇しなくなった。

 その地域の魔蜂をほぼ狩りつくしたと判断し、その地点から先に進み、また狩りつくす。


 そんなことを繰り返していると、レベルも上がっていった。

 危なげなく狩れる手応えを感じる。


 もはや、ソウボ山は単なる草刈り場だった。

 僕は歩を進めた。

 


 ソウボ山の山頂付近にまで進むと、数十本の樹木の根元を覆う巨大な魔蜂の巣が目に入った。


「とうとうたどり着いたな」

 巣を守る僅かばかりの衛兵を倒し、巣の奥に入っていく。


 巣のなかには、僕の歩く音だけが響く。


 なぜか敵と遭遇しない。

 そして、進めば進むほど、卵や幼虫の死骸が目に付くようになった。

 さらに進むと、戦うことのできない雄蜂の死骸も多数あった。



 それにしても、僕が攻め入るより前に……なぜ倒されているのだろうか?


「一体、この巣で何が起こっているんだ……?」

 魔蜂の巣で、その死骸が大量に転がっているなんて……。


 違和感を覚えた僕は、手元の雄蜂の死骸を手に取ってみた。


「これは噛み跡か……?巣のなかで守られているはずなのに、 何者かに喰われた……? 巣には争った形跡がないというのに?」


 周囲の巣を見回す。

 巣壁のハニカム構造に壊れた箇所は見当たらない。

 僕が歩いた足跡は、巣礎が崩れてしまってクッキリと残っているというのに。


 なぜか汗が止まらなくなる。


 僕は手で汗をぬぐった。

 汗はぬぐえたが、僕の感じている不気味さをぬぐうことはできなかった。


 急に巣のなかを進むことに対して、恐怖を感じてしまった。

 その得体の知れない気持ち悪さに心臓が高鳴ってしまう。



 だが、ここまで来て引き返すことはできなかった。


 周囲の音に耳を澄ませながら、一歩一歩を踏みしめながら先に進んだ。



 暗く静かな空間に、何かの音が聞こえた。


 

 遠く微かに。



 その音は、僕の日常生活でよく聞くような音だった。



 すぐに僕はその正体を理解した。



 咀嚼音。


 

 クチャッ……クチャッ。

 規則的に聞こえてくるその音に、僕は背筋が凍った。



 ジュジュルッ。

 ストローで液体を吸い上げるような音も……。




 極力物音をたてないようにし、天井から垂れ下がっている巣板の一つに身を隠しながら、僕は様子をうかがう。


 僕の視界の先には、巨大な巣室に横たわるようにして魔蜂の女王と思われるモンスターがいた。

 そして、そいつはただひたすら、自らが生み出した卵を食べて、蛹の内容物を吸い続けていた。



 一体……。

 何が起こっている?



 魔蜂の女王など、所詮は序盤の雑魚。

 魔蜂を多少強化してグラフィックが大きくなったぐらいのものだ。


 だが、僕の目の前には、明らかに雑魚ではない巨躯のモンスターがいた。


 全長五メートルぐらいだろうか。

 サイズ的にはドラゴンと遜色ないぐらいかもしれない。


 そして、魔蜂の特徴的なカラーである黒と黄色のストライプではなかった。

 鮮やかなオレンジと血のようにドス黒い赤のストライプ。


 もはや……魔蜂とは別種のモンスターであるデスホーネットにしか見えない。

 なぜ……魔蜂の巣に、中盤のモンスターがいるのだ……?



 瞬間、僕の頭のなかに、ある知識がよぎった。

  


 【共食い】。

 それは、原作では、とある昆虫系モンスターが危機に陥った際に使用するスキルだった。


 横に並んでいる雑魚が消滅する代わりに、HPの回復……戦闘中のレベルアップ……、など様々な効果をもたらすスキルだ。


 仮に、昆虫系モンスターが【共食い】で進化するとしたら……?


 

 まさか……。

 こいつは……。


 僕がソウボ山の攻略を進めたことを、危機と捉えて。

 巣のなかの同胞を食いつくして、レベルアップを繰り返し……進化までしてしまったというのか?

 

 僕はステータスを確認する。



レベル: 16

H P : 16(+320)

M P :160(+ 16)

 力 : 16(+320) ★

知 力:160(+ 16)

操 作:128(+160)

 運 : 80(+ 16)



 デスホーネットクイーンの場合、勇者パーティーのメンバーをそろえての適正レベルが35ぐらいだ。


『ソロだと勝てないかもしれない』

 そんな思考が頭をよぎる。

 

 絶望的な心境のなかで。

 ふと、巣板の向こうに目をやると。



 デスホーネットクイーンが、巣板の向こうから僕を見つめていた。



 目が合って、貫くような殺意を感じた瞬間。


 僕の身体は吹き飛ばされていた。




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 払。




 クイーンはその巨大な腹部で、僕が隠れていた巣板ごと僕を薙いだ。


 咄嗟に受け身をとる。

 巣壁を幾度も背中で突き破った結果、やっと動きが止まった。


「グハっ」


 僕は【ヒール】を重ね掛けしながら身を起こすが、今度は狙いすましたかのようにクイーンの長い腹部が打ち下ろされた。



 叩。



 クイーンの全体重がのった打撃が僕を襲った。

 僕は何とか両腕を前に出し、その圧を受け止める。

 重圧が、前に出した僕の右脚にかかり、地面にめり込んでいく。

 【ヒール】を連打しながら、僕は抗う。



「ショルダープレスッ……!」

 腕を全力であげて圧力を相殺し、肩の筋肉に力を込めて持ち上げる。


「ナロープッシュアップッ!」

 続いて、僕は両手を大きく突き出して、クイーンの腹部を弾き飛ばす。


 体勢を崩したクイーンに対して、僕は追い打ちをかける。

 

「フロントレッグランジッ!」 

 僕の前蹴りをうけてバランスを完全に崩したクイーンは、巣をまきこみながら倒れこんだ。


 クイーンが倒れているわずかな時間に。

 僕は考える。

 

 本当に挑戦すべきなのだろうか?

 

 この短時間のうちに、既に僕のMPは半分ほど失われている。


 自然回復をするためにフロントリラックスで構えながら。

 僕は決断を迫られていた。


 




■■あとがき■■

2021.05.04

 やっとゴールデンウィークですね。

 常に熱っぽさがあり咳も出てたけど、連休パワーで復調してきました。

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