第21話 対決 "The Fight"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Magic Kingdom"の"The Fight"でお願いします!


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 本当に挑戦すべきなのだろうか?

 そんな疑問が頭をよぎる。


 いまここで撤退すれば……。

 僕の命は助かるかもしれない。


 だが、きっとこいつの生み出した眷属が……この辺り一帯を荒らしつくすだろう。

 弱いモンスターしか生息していないこの地域に、中盤モンスターが量産されたら……街や村は蹂躙されるだけだ。


 ひょっとしたら、僕の住んでいる村もデスホーネットから襲撃されるかもしれない。

 それだけは避けないといけない。


 ……そうなると。

 取り巻きも全滅している今が、被害を出さずにクイーンを倒す最初にして最大のチャンスというわけか。



「やるしかないね」

 僕は覚悟をきめると、王台を崩しながら身を起こしているクイーンを見上げる。


 生きるか死ぬかの生存競争。

 極めてシンプルな理屈だ。


 僕は脚を大きく踏み込むと、腰だめから右拳を打ち込む。

「アームカールッ!」

 

 だが、僕の拳は効かなかった。 


 腹部の柔らかくて硬い肉に阻まれてしまう。

 ここまでレベル差が大きいと、打撃が通るはずもない。

 せめて突き刺すことができれば、ダメージを負わせられるかもしれないが……。



 僕が次の攻め手を考えていると、クイーンが再び腹部を動かして横薙ぎを放った。



 疾。



 その巨体にもかかわらず、視認できないスピードだ。


「はやっ……!」

 僕はなんとか両手をクロスにして前傾姿勢をとるが、再び吹き飛ばされて巣壁に叩きつけられる。


 肋骨複数本と両手の粉砕骨折ぐらいか。

 残っていたMPをほぼ全て使用して【ヒール】で回復して立ち上がる。


 もはや出し惜しみは無しだ。

 奥の手を使うしかない。


 僕は、筋肉魔法【マッスル・パンプアップ】を使用することにした。


 この魔法は、という尖ったものだ。

 この魔法を使用するしかない。

 リスクとリターンを天秤にかけての判断だ。


 実は、筋肉魔法には、特定のボディビルのポーズをとらなければ使用できないという"制約"がある。


 たとえモンスターといえど、ポージングを見られることはどこか気恥ずかしかった。

 だから、僕はいままで周囲にモンスターがいるときにすら筋肉魔法を使用してこなかった。人前で使用するなどもってのほかだ。


 だが、このクイーンについては、今日この場で息の根を止めるし問題ない。


 僕はサイドチェストのポーズをとり、【マッスル・パンプアップ】を使用する。

 僕の身体がいつも以上に黒光りし、カットを増す。

 全身に力がみなぎってくる。


「決めるよ」

 滾る熱量に身を任せて僕はダッシュし、両手をクイーンの腹部に突き刺す。

 ぴちゃっと返り血が僕の顔に跳んできた。


「ギィーーーーッ!!」

 クイーンは激痛にのたうち回りながら、僕に必死で腹部を曲げて毒針を刺そうとしてくる。


 その踊り狂うような腹部にランジで脚を突き刺して、僕は自分の身体を固定する。

 返り血を浴びながら両手で内臓を探る。

 途中、毒嚢を突き破ってしまい、毒液を大量に浴びてHPが減ったが"きんのネックレス"のおかげで状態異常に陥ることはなかった。


「見つけた!」

 両手で中腸をつかむと、僕はそれを引きずり出そうとする。

 

「チューブトレーニングッ!」

 "センター山まっする"師匠に教わった切り札。

 裏のワークアウトのうちの一つを、僕は使った。

 故障リスクなども考慮して使用を控えていたが、事ここに至っては決めきるしかない。


「ぐおおおおおーーーー!」

 広背筋に全力をこめて、僕は腸を引っ張る。 

 僕は全身を反りあがらせて、腸を引きずり出そうとする。


「ぎぎぎぎぎいいいいいいいぃいぃっうぅっぃぃxっぅいx!!」

 だが、クイーンは命がけの抵抗をはかる。

 腸がロックされてしまい、うまく引き出せない。


「こいつ……! 翅の筋肉まで使って内臓を固定しようとしているのかッ……!」

 僕もその程度の抵抗で手を緩めるわけにはいかない。

 すぐに、右肩に腸を絡ませてテンションを維持しながら、左手を空ける。


「くらえッ!」

 空いた左手で、僕はクイーンの腹部神経節に全力の手刀を突き刺した。


「っぎぎぎぎxぎxぎいぃいxちっぃいい!!!」

 あまりの激痛にひるむクイーン。

 翅の筋肉の力は露骨に弱くなった。

 その隙を逃す僕ではない。


「所詮、昆虫ってことだな」

 右肩を全力で引き下ろし腸を引き出すと、さらに左手を添えて全力で引き抜く。

 胃、食道が引きずり出されたのちに、あえなく千切れた。

 

 もはや抵抗すらできなくなったクイーンからは、実に数メートルにおよぶ内臓が引き出されていた。


「くひっ。くひっ」

 僕は、口をパクパクしながら崩れ落ちているクイーンの頭部を手刀で切り落とす。

 あまりにも呆気なく、頭部は切り離された。



 

 静。


 戦闘音が止み、再び静かな世界が戻ってきた。



 周囲を見渡したが、ボロボロに崩れた巣穴からは、なんの気配もないように思った。

 巣にいた全てのモンスターは死滅したのだろう。


 あまり時間が残されていない僕は十分に確認をすることもなく、即座に【マッスル・インベントリ】にモンスターの死骸や巣の残骸を収納し、【マッスル・ワープ】で村に帰還したのだった。


 そして、自宅の庭に辿りついた直後、【マッスル・パンプアップ】の使用開始から三分が過ぎてしまい、僕は地面に倒れこんでしまったのだった。










 このクイーンとの戦闘の様子を見ている人がいたことを僕が知ったのは、しばらく先のことだった。


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