脳筋白魔導士は勇者パーティーの夢を見るか【リメイク】(第一部完結)

テリードリーム

第1話 プロローグ

 その日、僕は、いつものように"勇者ごっこ"に誘われた。

 いつも同じぐらいの時間に、彼女は僕の家に来る。


「おーい、はやくこーい!」

 隣家に住む、同い年の幼馴染のクロエからいつものように誘われた。

「今すぐ行く!!」

 すでに準備を整えていた僕は、その呼びかけに直ぐに返事をすると、壁に立てかけてあった木刀を掴んで家を飛び出した。


 玄関のすぐそばで待っていた彼女は、僕に笑いかけると顎でついてくるように促す。


 いつものように彼女の天真爛漫な笑顔は、僕の頬を赤くさせてくる。

 僕は、彼女に見られないように俯きながら、彼女の後をついていく。


 いつものクロエ。

 いつもの遊び。

 いつもの風景。


 僕は、毎日変わりなく続いていくこの生活が大好きだ。


 何もない田舎の村だけど、僕を幸せな気持ちにさせてくれる全てが存在してくれているように感じる。


 この幸せを噛みしめながら、僕を突き放そうとして走り出した彼女を必死で追う。




 僕の家から歩いて五分ほどのところにある広場についた。


 たったそれだけの距離だけど、【白魔導士】として生まれた僕の息を急き切るには十分だった。

 肩を躍らせながら呼吸をする僕を、彼女は楽しそうに眺めている。

 

 こんな僕でも、彼女を楽しませることができていることに少し嬉しくなってしまう。

 

 僕の呼吸が落ち着いたのを見ると、クロエは木刀を構えた。

 それに合わせるように、僕も木刀を構える。


 とはいえ、【勇者】である彼女と違って、僕の構えはヘッポコだ。

 なんせ僕には才能がない。

 木刀ですらしっかり掴むことができないのが【白魔導士】なのだ。



 少し話がそれるが、こんな田舎村になると娯楽などほとんど無い。

 僕たちのような子供ができる遊びといえば、"冒険ごっこ"か"勇者ごっこ"ぐらいだ。

 身体を動かすのが苦手な僕だけれど、クロエが楽しむためならば労を厭わず、それらの遊びを共にする。


 そういうわけで、ここ数年、僕は本物の【勇者】様の"勇者ごっこ"の相手を務めているのだった。


「じゃぁ、いくぞー!」

 

 彼女はそう言うと、僕に向かって木刀を振り下ろしてきた。

 彼女は、立て続けに木刀を繰り出してくる。


 僕はそれを何とか受ける。

 握りもおぼつかず、両手に全力を込めるだけの稚拙な受け。


 だけど、全身のバネと転生のセンスに基づく剣撃は、そんな弱者を許してはくれない。

 貧弱な僕の腕力では耐えられるわけがないのだ。


 数合目にして、早くも追い込まれてしまっていた。


 いつものクロエなら、この状況ならば手加減してくれた。


 だが、今日に限っては、何かの気まぐれを起こしてしまった。


「これが【勇者】の新技だ!」


 全身の力を込めて、木刀を最上段から打ち下ろした。

「ちょっ……。それはまずい……!!」




 斬。




 たとえ八歳といえど。

 剣技【スマッシュ】を【勇者】が繰り出したのだ。


 一方、僕は一介の【白魔導士】にすぎず、しかも何年も使っている木刀で受けたのだから……。



 ボキッ。


「あっ……!」

 クロエがその真っ黒な瞳を大きく開いたのが分かった。


 僕の握っていた木刀が、嫌な音を立てて、あっけなく折れた。


 その直後、目の前に強烈な火花が散った。


 僕は、脳天に彼女の斬撃を受け止めて意識を失ったのだった。





■■あとがき■■

2021.03.21

リメイクしました!

たぶん長いお話になると思いますが、お付き合いいただけますと幸いです。


しかし、自分の作品でありながら4か月ぶりに読み直すと新鮮ですね。

ワクワクしながら書いてます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る