第8話 チート②(訓練所)
ブーメランパンツ派になった翌日。
日中はいつものようにクロエと遊んで……
夜になって家人が寝静まると、家を抜け出した。
二日連続の深夜の外出となるが、いたしかたないことだと思う。
なんせ、始まりの村であるワンジョーの近くには、チートアイテムが二つ隠されているのだから。
一つが、昨日僕が使用した"職授けの書"。
もう一つが、これから僕が入手しようとしている"訓練所"だ。
"訓練所"を使用すると、ジョブ経験値を高めることができる。
通常ならば、戦場に出陣しないとジョブ経験値を獲得することはできない。
だが、その理を崩すのが"訓練所"だ。
使用すればゲーム内時間が経過するというデメリットがあるが……、このアイテムがあれば戦場に出ずともジョブ経験値を獲得し、ジョブレベルを上げることができる。
ジョブレベルが上がれば、序盤からジョブ固有のスキルや魔法が使用可能になり、戦術の幅がかなり広がる。
例えば【黒魔導士】であったら、開幕早々に広範囲高火力魔法をぶっ放すことで、敵を一掃できるようになるわけだ。
喉から手が出るほどに欲しい、チート。
正直、課金するだけの価値はあると思う。
まだゲーム開始まで七年も残している僕には、"訓練所"の唯一のデメリットも大したことはないし。
だから……。
僕は、そのチートアイテムの隠された地に向かっている。
最序盤の戦闘マップ。
始まりの村ワンジョー近くのワンジョー平原。
そこに到着した僕は、息をひそめて、足音を殺すようにつま先で歩く。
なぜ、そこまで警戒するのか?
簡単な話だ。
ワンジョー平原には、モンスターが出現するのだ。
もちろん、序盤に相応しい雑魚だ。
だが……レベル1の【白魔導士】のステータスでは、力はたったの1。
序盤の雑魚モンスとはいえ、ソロで遭遇することは死を意味する。
身を隠すようにして、僕は、平原の片隅に位置する立ち枯れた大樹に向かう。
……エンカウント……しませんように……。
細心の注意を払った結果、一度もエンカウントすることなく、僕は目的地にたどり着くことができた。
大樹の根本に開いた洞。
僕は、身体を潜り込ませるようにして中にはいった。
すると、樹洞のなかは、大人でも運動できるぐらいの広めの空洞になっていた。
その空洞の真ん中には、宝箱が鎮座している。
やはり……。
"タナカ"の知識は、概ね間違っていないのだ。
僕が宝箱を開けると、"玩具のような扉"が入っていた。
これが……"訓練所"なのか……。
手の上に乗せられた第二のチートアイテムを、しげしげと眺めてしまう。
どこからどう見ても、玩具にしかみえない。
ひとまず……自室に戻って、使用しよう。
そう思った僕は、モンスターに襲われないか不安になりながら、なんとか帰宅したのだった。
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自室でブーメランパンツ一丁になった僕は、ベッドの上に腰かけて、様々な角度から"訓練所"を検分する。
どうみても、玩具にしか見えないが……。
たしか、原作では"訓練所"を使用すると、時間が経過するだけで細かい描写はされていないんだよね。
そして、ジョブ特性に合わせた訓練を行うことで、ジョブ経験値が増えるという設定があるぐらいか……。
うーん。
これを使用する……。
僕は、玩具の扉を手で動かしながら、自問する。
使用する……?
この扉を開けてみたら何かあるのかな?
この閉ざされた扉を開けるぐらいしか、使い道ってないよね?
本当に、なんなんだろうか……?
僕は疑問を覚えながら、"訓練所"の扉を開けた。
「なっ……!!!!」
目の前には、一面のトレーニングマシン。
チンニングスタンド、ベンチ、ラック、ケーブル、トレッドミル、エアロバイク……。フリーウェイト用のプレートや、ダンベルも壁際に所狭しと並べられている。
ワイドやナローなどすべての体格に対応できるように、ありとあらゆる規格が置かれている。
そして、部屋の最奥に掲げられた"筋トレは愛情"と書かれた看板。
「ここは……まるで、コールドジムみたいだ!!!」
ボディビルの本場であるアメリカ合衆国を牽引する、絶対的存在。
"タナカ"の知識にある、氷で作られたかのように固い筋肉を作り上げるジムが僕の前に現れたのだ。
「す、すごすぎる……。ここで鍛えたら、たしかに僕は強くなれるかもしれない!」
"訓練所"とは、その玩具のような扉を開くことで、異空間で理想のトレーニングを可能とするチートアイテムなのか!
道理で、ジョブ経験値が上がるわけだ……。
それにしても……、さっきから、なぜか身体の奥底からトレーニング欲求を感じてしまう。
この場が、"訓練所"が僕のために用意した空間であることに関係しているのかもしれない。
器具に手を伸ばそうとして、ふと冷静になってしまう。
「どうやって器具を使えばいいんだろう?」
僕は、いままでにトレーニングマシンを使ったことなど無い。
ゲーマーの"タナカ"も同様だ。
周囲を見回すと、目についたのは液晶ディスプレイだった。
しかも、すぐ傍にリモコンが添えられている。
それ以外には、マニュアルとかも見当たらない。
「これで、使用方法を見て学ぶのかな……?」
僕はそう呟いて、リモコンの電源ボタンを押した。
すると、液晶ディスプレイの画面上に、肥大した鎧のような筋肉をまとった黒髪短髪の男が現れた。
タンクトップとショートの短パン姿。
そんな彼が、他人をひきつける朗らかな笑顔で、楽しそうにトレーニングするムービーが一分ほど続く。
ムービーが終了した後の画面に大きく文字が表示されたので、思わず僕はそれを読み上げる。
「 "センター山まっする君" の "まっするチャンネル" ……? これは一体??」
それから
一年の月日が流れた……。
■■あとがき■■
2021.03.27
とうとう、主人公がトレーニングを始めました。
主人公だけがトレーニングをするなどありえない!
筆者もトレーニングをしないと!
……という考えから、トレーニングをちょっと前からしていますが、痩せるどころか体重が増えてきました。
奥さんからは「この一年ぐらいダイエットとか言って運動してるけど、むしろ筋肉で体重増えてるじゃない。タンクトップ着てるのとか、本当に嫌だ」と言われる始末です。
筆者がかわいそうだと思った方は、コメ付レビューや応援メッセージをお願いします★
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