第9話 師匠
僕の朝は早い。
まだ、鳥も起きていないような時間にベッドから出ると、朝のルーチンワークを始める。
「タンパク質をとらないと……」
そう呟くと、僕は筋肉魔法【マッスル・インベントリ】をつかい、"訓練所"から持ち出したプロテインと牛乳を取り出す。
SAWAS。
その愛すべきブランド名の下に「ホエイプロテイン100」と記された袋を開き、同封されていたスプーンで三杯掬うと、プロテインシェイカーのなかに落として牛乳と混ぜる。
プロテインシェイカーの中身を一気に飲み干すと、牛乳とほどよく混ざったチョコレートの味が口の中に広がり、肉体が目覚めてくる。
「これで……寝てる間に不足していたタンパク質の補給は完了っと」
僕が睡眠をとっている間に、全身の筋肉が必死になって修復のためにタンパク質を消費しているのだ。
そこを朝イチで満たしてあげるのが、肉体に無理をさせている僕の責任だ。
「次は……ストレッチだな」
師匠のトレーニングメニューを思い起こしながら、僕はストレッチを始める。
睡眠で疲れた身体をゆっくりと労わるような、優しいストレッチだ。
「そして……有酸素運動っと」
ストレッチでじんわりと汗をかいた後は、村のなかをひたすらジョギングで周回する。
まだ父さんや母さんが起きてもいない時間だが、僕はひたすら村の中を走っている。
走りこみを始めたばかりのころは、すぐにヘバって大変だったけど……だいぶ慣れてきて息があがることもなくなった。
「あっ、そろそろ帰らないと」
民家から朝餉の炊煙が上がりだすと、僕は帰宅する。
僕が帰宅すると、母さんが朝食を用意して待っていた。
そこには、昔の僕では到底食べきれない量の朝食が並んでいる。
僕は必死になって食べる。
これも、最初はとてもきつかった。
走った後の多めの朝食をとると、どうしても吐きそうになる。
それを、当時の僕が臭くて泣きそうになる牛乳で流し込んでいた。
ただ、食べて強くなるためだけに。
食後には、自室でベッドの上に横になりながら、白魔法の基本書を読み進める。
基本書もこの一年の間に何度も周回するほど読み込んだので、随分と傷んだ。
書籍により常日頃から理解をしておけば、白魔法の使いどころを間違えることも少なくなる。
ジョブレベルがあがって新たに使えるようになった白魔法は、ちゃんと理解をしておかないと戦闘時に判断を誤ることがあるから……。
昼過ぎぐらいになると、クロエがいつも遊びにさそってくる。
彼女との遊びは、もちろん最優先事項だ。
クロエの遊びは極限まで体力を使う。
彼女が振り回す木刀を受け止めたり、組手をしたりと、女子力とは縁のない内容ばっかりだけど。
時折、白魔法【ヒール】を使って回復しながら相手をする。
疲れをとる白魔法【リフレッシュ】や、ケガを治せる【ヒール】がなかったらと思うと、ゾッとしてしまう。
クロエとの遊びは、だいたい夕方に終わる。
すみやかに夕食をとった後は……
さぁ、トレーニングの時間だ。
僕は自室の扉に鍵をかけると、"訓練所"を使用してジムに行く。
そして、リモコンを押して、液晶ディスプレイを立ち上げる。
「お久しぶりです、師匠」
昨日ぶりに会った"センター山師匠"に上腕二頭筋で挨拶をすると、さっそく師匠の姿を参考にしながら、トレーニングを開始する。
「がんばれ!がんばれ!」
師匠の掛け声に励まされて、表48種目のワークアウトを成し遂げる。
この時点で滝のように汗は流れている。
少しだけ設けられた休憩時間の間に、【ヒール】と【リフレッシュ】をして、何とかプロテインを食し、次のトレーニングに入る。
「自分に負けるな!」
師匠の励ましのおかげで挫けることもなく、裏48種目のワークアウトを完遂する。
終わった後の僕は床に倒れこんでしまい、息すらまともにできない。
とうの昔にMPもからっけつ。
いつ死んでもおかしくない僕の耳に、師匠の声が届いた。
「おめでとう!」
……?
想定していなかった師匠の祝辞に、痛む身体を駆使して、液晶ディスプレイに顔を向ける。
「これで卒業だ! 本当におめでとう!」
師匠は満面の笑みを浮かべ、僕に向かって拍手を惜しまない。
……!
ひょっとして……!
「ス、ステータスオープン……」
僕がそう呟くと、ステータスが表示された。
そこには、たしかに
職業:【白魔導士】lv99、【筋肉】lv99
そう記されてあった。
■■あとがき■■
2021.03.29
プロテインで食べれるのは某メーカーのチョコレート味だけ。
それ以外の味やメーカーは、不味くて無理。
ソイプロテインも無理。
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