第7話 異変

 職業:【白魔導士】、【筋肉】






 ( ゚д゚)ポカーン





 ( ゚д゚)ハッ!






 あまりの衝撃に頭がどうにかなってしまいそうだった。


 "タナカ"の知識には存在しない職業を獲得してしまった……。

 しかも【筋肉】って一体どういことなんだ……?


 だが、驚いてばかりもいられない。


 "タナカ"の知識はあくまで"ゲーム"の知識にすぎず、この世界で起こる事象と必ずしも一致するわけではないということを、今回の事態が示している。


 "タナカ"の記憶していた攻略情報は、大きい方向性では信用しても良いのだろうが、過信しすぎると足元をすくわれるかもしれない。


 僕は確かに心に刻み込んだ。


 一つ目のチートアイテムでいきなり動転してしまったが、獲得してしまった職業を変えることはできない。

 だから、せめて前向きに受け止めようと思う。



 【白魔導士】かぶりでは無かった。

 これだけで十分だ。


 仮に、その恐怖の事態になってしまったら、首を吊ってリセマラすることも真剣に検討していた……。


 良かった……。

 本当に良かった……!



 僕は何とかポジティブになると、かつての偉人の言葉を独り言つことで、前向きに一歩を踏み出すことにした。



「此の道を行けば どうなるのかと 危ぶむなかれ

 危ぶめば 道はなし

 ふみ出せば その一足が 道となる

 その一足が 道である

 わからなくても 歩いて行け 行けば わかるよ」


 その言葉を紡ぐだけで、勇気が湧きおこってくる。


 なんたる名文ッ……!

 職業【筋肉】の衝撃に一瞬揺らいでしまった僕の心が、立ち直ってくる!


 そうだ!

 きっと、【戦士】とか【モンク】みたいな前衛職なんだ……!

 僕みたいな【白魔導士】の弱点を補完してくれるに違いない!!




 そんな風に自己暗示をかけながら、僕は、裏山に来た時と同様にこっそりと帰宅したのだった。




 まだ、そのときの僕は、職業【筋肉】を全くもって理解していなかった……。



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「寝れない……」


 帰宅して自室のベッドに潜り込み、僕はすぐに就寝しようとした。


 だが……なぜか……寝れなかった。


 いつも愛用しているパジャマ。


 その肌触りが大好きで、触れているだけで落ち着くはずなのに。


 それが……今日に限って、なぜか凄まじく着心地の悪いもののように感じる。


 そんなに暑い気候ではないが、少し汗ばむぐらいの気温だ。


 そっか……ちょっと暑いのかもしれない。


 思い切って、僕は服を脱いで下着だけになる。


 さっきまでに比べて随分と過ごしやすくなった。


 少し楽になったので、僕は再びベッドのなかに潜り込む。


 だが……。


「やはり寝れないッ……」


 いつもより盛りだくさんの一日だったから、普段の僕なら即寝するレベルなのに……。


 さっきから。


 さっきから、どうしても下着に対する違和感を覚えてしまう。


 僕は再びベッドから出ると、タンスの中から下着を取り出す。


 そして、月明かりの入ってくる窓の近くで、下着を並べてみる。


 並べられたのは、三種類の下着だ。


 いつも履いているトランクス。


 「これじゃない」そう僕のゴーストが囁く。


 滅多に履かないブリーフ。


 「惜しい」そう僕のゴーストが囁く。


 


 僕は、衝動に突き動かされるようにして、最後に残っていた下着を取り上げる。


 僕が着用することにした、それは……




 





 ブーメランパンツ。


 全身の筋肉が見えやすいように熟慮に熟慮を重ねてデザインされた、極限まで布を少なくしたその下着が、僕を包み込んだ。


 ああっ……!


 まるで、母の胎内にいた頃のように、心が安らいでしまう……。


 加えて、このフィット感。


 天にまで昇ってしまいそうだ……!



 「そうこれよ」そう僕のゴーストも囁いてくれる。







 僕は、その日からブーメランパンツ派になったのだった。







■■あとがき■■

2021.03.24

主人公が一歩前に踏み出すのと同様、筆者もヤバい名言に一歩踏み出してみました。

後日、修正してたらすみません。

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