第46話 確保(2回目)
商談を終えて"靴王"を手に入れた僕は、店を出た。
満面の笑みを浮かべた店員さんに見送られながら。
履いている"靴王"からは靴底のクッション越しに、一歩一歩の感触を豊かに感じることができて驚くばかりだ。
どこか弾むような感触といえばいいのだろうか。
歩くたびに、良い靴を履くということはこういうことなのだ、と教えられているように感じてしまう。
歩くだけで、ワクワクしてきて楽しくなってくるなんて。
男性は足元から自信を築くというのは良く言ったものだと思う。
これだけの装備を手に入れることができたのだ。
僕が履行義務を負うことになった条項には目をつぶろうと思う……。
せめて……今日だけは考えないようにしよう。
そんなことを考えていると
――反省はしろ! 後悔はするな!――
耳障りで熱気にあふれる声が聞こえてきた。
うるさい。マジでうるさい。
なんでこんなことになってしまったのだろう。
ただ、僕は万が一の場合に備えて【ガッツ】を使えるようになりたかっただけなのに……。
原作では、こんなデメリットがあるなんて触れられていなかった。
こんな声をずっと聞いていたら、そのうち僕は正気を失ってしまうかもしれない。
――悩みん坊、万歳!――
くそっ! なんてうるさいんだ!
もうこの声は気にしないことにしよう!
無視だ! 無視!
僕は、"靴王"から聞こえてくる声を脳内でノイズキャンセリングすることにした。
店を出てから周囲を見渡すと、灯りを落としている店が増えたような気がする。
随分と夜も更けてきたのだから当然かもしれないが。
ふと、僕は、さっきまで"靴王"の収まっていたショーウィンドウを眺めやる。
店に入る前とは違って、靴王が置かれていたスペースには何も置かれていない。
そして、値札があった場所には、たしかに"SOLD OUT"という札が置かれている。
こういう光景を目にすると、"靴王"を手に入れたという実感が湧いてくる。
ちょうど空になっているスペースを見ていると、周囲の街灯が発する光の加減からかショーウィンドウが鏡のように僕の姿を映した。
僕は、映されたその姿に見入る。
たゆまぬトレーニングの結果、身長は二〇三センチにして体重は一〇四キロまでに至った。
その恵まれた身体のなかでも、まず目をひきつけるのはアフロヘアーだ。
レッドドラゴンとの戦闘により生じた悲しい事故。そのせいで、こんな髪型になってしまった。当初はこの上なくショック極まりなかったが、いまとなっては別の意味でキマっているような気がしてきたから不思議なものだ。うん。かっこいい。
次が、白いタンクトップ越しに盛り上がった胸筋に挟まれたようになっている"きんのネックレス"だろう。あいかわらず……一見するとセンスの悪いポージングと下品な金きらのペンダントトップだが……一周回ってとてもイケているように思えてくるから不思議なものだ。
そして、ぴちぴちのジーンズ風のショートパンツ。
最後が、足元でが王の
改めて見ると……正直キマリすぎていてガンギマリと言ってもいいぐらいだ。
まさか、僕がこんなイッてる男になれるなんて。
そんなことを考えながら悦に浸っていると
カチャン。
僕の首に、金属のスパイクが施された革製の黒い首輪がかけられた。
おやっ?
「そうそう、こういうM奴隷御用達の首輪が欲しくて……」
改めて、首輪をつけている僕の姿をショーウィンドウで見てみる。
なるほど。
ここまでくると、もはや立派なオラオラ系だ!
まだまだ完成までには程遠いが、だいぶ良い線きてるのではないだろうか。
「いや~今日は良い一日だった! 最後には首輪もゲットできたし……ぐはっごほっ」
僕がそんな風に喜んでいると急に首輪が引っ張られて、むせってしまった。
どうやら、この首輪には後ろ側にチェーンがつけられているようだった。
僕は振り返って、チェーンの先をたどるようにして視線をさまよわせる。
すると、そのチェーンの先を握っていたのは……
修羅の闘気を発するモニカさんだった。
■■あとがき■■
2021.07.29
カクヨムコン7に向けて新作準備中(ストック作成中)なので、更新頻度落ちます。
ご理解のほどよろしくお願いいたします。
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