第47話 昇進(2回目)
首輪につながったチェーンの先を握っていたのは……修羅の闘気を発するモニカさんだった。
放たれる殺気は、ゴブリンキングや魔王なんて比じゃない。
そのあまりの気迫に、自然と僕の両膝が産まれたての小鹿のように震えてしまう。
「なんで、僕がここにいることが分かったんですか?!」
「分かるに決まっているだろうが! その目立つ服装に、特徴的なまでのガタイの良さ!」
怒号を飛ばすモニカさんがチェーンを強く引っ張るので、僕はそれに引きずられるようにして歩かせられる。
「お前には言いたいことが山ほどある! ギルドでこってり絞ってやる!」
そう怒られながら、僕はギルドに連行されたのだった。
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「はぁーん? それでっ? なぜに大量のエルフをギルドに押し付けたんだ?」
「いや……なんか面白いかなって……。あと、エルフのお世話も面倒くさそうだったし……」
「なるほどー。それで、押し付けられた側がどれだけ困るかとか考えなかったのかぁ?」
「たしかに困るかもしれませんけど、僕が困るわけじゃないから良いかなって……思ってしまったんです。あっ、勿論、いまの僕はそんなこと思っていませんよ。過去の僕です」
「はぁー? お前、それ正気で言ってるのかぁ?」
「ええ。僕は、いつだって正気です(真顔)」
「お前は本当に何も反省してないんだなぁ?」
そういうと、モニカさんは正座をしている僕の太もものうえに、二十キロのウェイトを追加した。
「んぎぃ……き、きつい!」
思わず弱音を吐きそうになるが、ある種の筋トレだと思えば大丈夫だ。
どこを鍛えているのかは分からないけど。
「事前に連絡もせずにあんなことをされたら、誰だって困るのになぁ。しかも、事後になっても一向に詫びも無かったしなぁ」
「その点は、まことに申し訳ございませんでした」
「あっ? 悪いと思ったら、言われる前に頭を下げるだろ? 今まで何やってたんだ?」
そういうと、モニカさんはウェイトの上に腰かけて、更なる圧をかけてくる。
この程度なら……、まだ大丈夫だ。むしろ無料のプレイとして、我々の業界にとってはご褒美ですらある。
「でっ、なんであんなことをしたんだ? ギルドに数百人も身元不詳のエルフを押し付けて何がしたかったんだ?」
「それは……自分が世話するとしたら大変そうだったのと……、ギルドが困ったら面白そうだったからです……」
既にこのやり取りをループのように繰り返している気がする。
始まってからもう何時間過ぎたのかも分からない……。
そんな無限ループも、ある男の言葉によって終止符が打たれた。
「なぁ……。さすがに業務中に何時間もそういうプレイは控えてもらえないか。プレイがやりたいのなら、続きはそういうお店でやってくれ」
「ガサットさん!」
「パ、パパ止めないで! 私たちがどれだけ苦労したと思っているの? こんなのじゃあ全然気が晴れないわ!」
ガサットさんは頬をかきながら続ける。
「あいかわらずタナカはどうしようもないし、モニカの気持ちも分からんでもないが……」
「私が仕事をサボってカクヨ●を読むことができなくなったのよ?! どれだけ辛い時間を過ごすことになったことか!」
「いや、普段から仕事はサボるなよ……。モニカは、今後は業務時間中の端末使用禁止な」
「そんな!」
顔面を蒼白にしたモニカさんを指さして笑っていると、次は僕へのお小言タイムに入った。
「タナカも活躍してくれるのはありがたいんだが。ちょっとなぁ……。今回は、ギルドへの貢献が大きかったから、特別にこの程度にしておくが次はないからな。あ、あと、一応この俺の指導は懲戒処分の訓告扱いだからな。以後気をつけるように」
「この程度に済ませてくれてありがとうございます!」
僕が御礼をいうと、なぜかガサットさんは頭痛を感じたかのように頭を抱える。
「パパ! 訓告よりももっと厳しい処分をしないと! 数百人規模のエルフの受け入れ対応を行った職員が納得できないわ!」
「まあ、俺も含めて職員一同が迷惑をかけられたが……。今後は事前に頭出しだけでもしておいてくれると助かるがな。俺が受勲することになったのには感謝しているし、この程度でいいんじゃないか」
「そんな……。私たちの苦労は一体……」
どうやらガサットさんが勲章をもらえたから、この程度の処分で済んだらしい。
権力者に利益をもたらすだけで、色々とお目こぼしをもらえるなんて……。
世の中そんなものなのかもしれないけれど。
そんなことを考えながら、二人のやり取りを眺めていると、突然ガサットさんが僕に向き直った。
「それと……タナカには一つ渡すものがあったな」
そういうと、ガサットさんは手前の棚から金で出来たカードを取り出すと、僕に歩み寄る。
金色のカードをウェイトの上に置くと、僕に向かって言った。
「タナカもとうとう金等級冒険者だ。王都ギルドでも異例のスピード出世だな。一層の活躍に期待しているぞ」
「ガサットさん……」
そっぽを向いたように不貞腐れていたモニカさんも、横から加わってくる。
「不本意だけど、評価すべきことは評価しないといけないから。それだけよ」
「モニカさん……」
僕は震えるようにしながら、声をひねり出した。
「いい加減、ウェイトどけてください……」
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「今日納品したい?」
僕の申し出に、ガサットさんは難色を示す。
「いや、タナカは……いきなり桁違いの量を納品してくるからなぁ。しょうがない、これから対応できそうな職員に連絡するか……」
そう言いながらも、ガサットさんは時間外出勤させる方向の判断を下してくれた。
そのまま奥の部屋に歩いていくから、これから連絡をとってくれるのかもしれない。
「相当な量を溜め込んでいるんだろう? いつもの解体部屋だとスペースが不安だから、地下の訓練場に出してもらおうか」
そういうと、モニカさんは僕を地下に案内する。
案内されるがままに階段を下る。
ついた先のフロアは、照明はちゃんと設置されているが、地下だからか少し薄暗かった。
しかし、とてつもない広さの一室だ。
「こ、ここは……?」
「一階分が丸々訓練場になっている。すごいだろう?」
「まさか、これほどとは思いませんでした。ここなら多分大丈夫だと思います。いまから出しますから、少し席を外してもらえますか」
「分かった」
モニカさんが一階に戻ったことを確認すると、僕は【マッスル・インベントリ】で、ゴブリンたちを襲撃した成果全てを吐き出すよう設定する。
ドドドドドドドドド。
「お、おおぉ?!」
滝のようにインベントリから放出される、数万匹のゴブリンの死骸。
そして、数百に及ぶゴブリン集落から収奪した物資。
止まらない!
一度出したら止まらないんだ!
怒涛の勢いで目の前に広がっていく、納品物に僕は背筋が寒くなる。
きっと、無茶苦茶怒られるだろうから。
その勢いが止まったころには、訓練場にはゴブリンの死骸や、錆びた装備品、食料品などが無秩序に積み重なっていた。
広大な訓練場がほぼ全て埋まってしまったかもしれない……。
「やべっ……!」
逃げよう!
そう考えた僕は【マッスル・ワープ】をして、王都ギルドから逃げ去ったのだった。
■■あとがき■■
2021.08.01
「このサイトでいいんだよな……」
筆者は、とある個人輸入代行サイトを何度も何度も開いて確認する。
そのサイトに似せた詐欺サイトが、世の中には多数存在するらしい。
詐欺られないかという不安がどうしても残ってしまう。
だが、ここで決断をしないと手遅れになるかもしれない。
「フィナステリ●とミノキシジ●っと」
インターネットで調べた薬品のジェネリック銘柄っぽいやつをクリックし、ページを先に進む。
「この薬が……、この薬が俺を救ってくれるはずだ」
AGA専門のスキンケアクリニックへの通院について調べまくっていた筆者だったが、その医療費の高額っぷりに心を折られてしまい、著作権などの権利関係の保護が弱いインドからの個人輸入代行に舵を切ったのだった。
耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ。
もはや生え際の後退を防ぎ、前線を押し上げるにはこの手段しかないのだ。
「最後の決済方式はクレジットと……いままでに一度もつかったことのないクレジット決済の会社だな……。念のため、ネガティブチェックだけしておくか」
どうやら国際取引では一般的な会社のようだ。会社のホームページも日本語対応していて掲載している内容も特に問題なさそうなので、たぶん大丈夫、筆者はそう結論づけた。
「ここでポチれば……お支払い完了っと!」
五分後。
「確認メールこないな……。あっクレジット決済の会社から来た確認メールが、迷惑メールボックスに入ってるわ。普通こういう確認メールは迷惑メールボックスに入らないだろ……さすが個人輸入代行は違うなぁ。しかし、本当に不安だわ……。情報だけ抜かれて、ブツが届かないパターンだけは避けたい……」
それから毎日、発送状況を確認する日々が続くのだった。
この判断が、今後筆者にどう影響するのか……。
まだ現時点では、筆者を含めて誰も知らない。
(つづく。本作ですが、楽しみながら書かせていただいております。頻度は落ちるかもしれませんが、引き続き更新してまいります)
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