第48話 次の狩場


「さて、次はどこで狩りをするべきか……」


 ギルドから逃走した翌日、僕は庭先の地面に棒でワールドマップを書きながら、次の狩場について検討をしていた。


 あえて手を動かしながら検討をするのは……あれだ。

 手を動かしたりしていないと、王都ギルドが今頃どうなっているんだろうかとか、もう二度と王都には行かない方がいいんじゃないかとか、不要なことを考えてしまうからだ。

 僕は、かぶりを振って邪念を飛ばす。


 一期一会。

 たとえギルドに登録したといえど、あれは偽名にすぎない。

 二度と利用しないという選択肢もあってもいいのではないか。

 ドSの受付嬢がいたりして、なにかと危険だし。


 ……これ以上ギルドについて考えるのは止めよう……。


 気持ちを切り替えると、再び次に行くべき狩場の検討に戻る。


「オーク道場もいいが……」


 ゴブリンの支配地域からほどない距離のところに、オークの支配している森林地域がある。

 レベル帯も次のステップに程よいところではあるが……。


「なんかオークって見苦しいんだよな。見た目デブでキモイのもイヤだし、熱苦しいというかなんというか……。そこまで知能高くないから、今となっては人類に害を及ぼさなそうだし」


 オークは巨体を活かした物理攻撃力には定評がある。もはや攻城兵器とでも言いたくなるような突破力がある。

 だが、それだけだ。


 ゴブリンに比べて知恵が回らないので、装備品を身につけるようなこともないし補給を意識することもない。

 ゴブリンからの作戦指示や補給が受けられないであろう現状からすると、さほど脅威とは思えない。おそらくだが、支配地域から外に出てくることもできないんじゃないか?

 それで延々とうろつき回ってるうちに腹が減って、共喰いでもして勝手に数を減らしてることだろう。

 率先して部下を食いつくす、それがオークキング。

 日本的リーダーの鑑ではあるが、優先順位は低いな。



 改めてステータスを確認してみたら、僕のレベルも63にまでなっていた。

 いくら雑魚とはいえゴブリンを狩り倒したので、相当の経験値を稼げたようだ。


 レベルに比例するようにステータス値もかなり伸びている。

 それに職業の特性として、前衛ステのくせに回復特化でもあるので、多少の無茶もできそうだ。


 ……背伸びをしてもいいのかもしれない。


 うーん。

 どこの狩場を選ぶべきか……。

 

 迷いながらマップを見渡していると、あるエリアが目に留まった。


 そうだな、ここにするか。


 かつて大きな戦があったという古戦場跡地にできたダンジョン。

 僕の次の狩場は決まった。

 


 




■■あとがき■■

2021.08.07


「インドを出国して空輸中……?」

 個人輸入代行サイトの表示するステータスが、発送完了から進んでいた。

 あまりの衝撃に、昼休み終了間近にもかかわらず呟いてしまう。

 注文完了日がポチった日付と違ったり、発送完了日が変更されたりするなどのストレスに耐えた甲斐があったというものだ。


「だ、だれにも聞かれていないよな……?」 

 周囲を見回すが、特に反応した同僚はいなかった。

 近くの席の派遣BBA一号もノーリアクションだ。

 セーフ。

 

 あと2週間ほどで到着!

 その期待感たるや、いかほどであろうか。

 どのくらいかというと、ミノキボンバイエ! ミノキボンバイエ! と突如として職場で叫びたくなるレベルだ。

 

 ちょうど昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。


「いや、こんなことを考えている場合ではない。仕事仕事……」

 メールをプリントアウトしてホッチキス留めすると、2期下のS君に声をかける。

「すまない。十分ほどで良いんだけど、少しだけ時間をもらえる?」

「いいっすよ」

 

 S君の席はちょうど真後ろなので久しぶりに彼を真正面からみたが……、なんというか……。

 以前はそこそこ頭皮の見えるサリーちゃんのパパぐらいだったが、いまは頭皮が見えすぎて名状しがたいヘアースタイルになってしまっている。

 エキセントリックすぎて、もはや表現可能な域を超越したといっても過言ではない。


 S君。

 彼もまた、この会社の犠牲者にして、AGAという進行性の病を抱える企業戦士なのだ。



「すまない。この資料は印刷しただけの見せ球で、本当は口頭で別のことを話したかったんだ」

 個室に移動した後、筆者はS君に話し始めた。


 S君は管理職ではないが……、このラインのなかで仕事ができる数少ない人物だ。

 派遣社員を含めるとラインに20人近くいるのに……S君とLちゃんぐらいしか仕事ができる人がいないという事実に恐れ慄いてしまいそうになる。

 筆者が倒れた場合には、多大なる迷惑をかけてしまう恐れがある(主にS君が丸投げされる的な意味で)ため、業務状況だけでなくライン内の人間関係などもある程度は情報としていれておかなければならない、そう筆者は考えて時間をもらったのだった。


「はぁ~。そんなにメンタル病んだり、問題行動してる人が多いんっすね」

 筆者の説明を聴き、開口一番でS君はそう言った。

「すまない。S君の仕事も大変だと思うが、私も手一杯なんだ。なんとか状況を理解して、守備範囲は責任もってクローズしていってほしい。あとは、私が席を外しているときに何か異変があったら遠慮なく情報を入れてほしい」

「まあ、大丈夫っすよ」

「助かる」

「つらくなったら、この錠剤飲めば余裕っすから!」


 ?!


「そ、そのパッケージングされた白い錠剤は一体……?」

「テリードリームさんは超勤してないから知らないかもしれないっすけど……、俺すげー超勤してますから。だから夜八時すぎたあたりでこれを飲んでテンション上げないとやってられなくて!」


 ?!?!




 だめじゃん!



(つづく。本編よりもあとがきの方が文字数が多いかもしれない……)



 

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