第57話 劣勢 "Loser's Game"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Frozen Land"の"Loser's Game"でお願いします!


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 次の瞬間、ドューラスの放った強烈な右ボディアッパーが、僕の腹部に撃ち込まれた。

 僕の肝臓に狙いを定めた右拳が、唸りをあげて至近距離から襲い掛かってくる。


 直撃をくらったら、腹部を大きく貫通されて即死。

 死を体現したような一撃だ。

 このままでは殺られる!






 ガツッ!

 硬いものがぶつかりあったような音が響いた。


「ムッ……?!」

 想定していなかった手応えにデューラスは怪訝な表情を浮かべる。


 僕は、少しだけ左肘を下げることで、ボディアッパーを止めた。

 この動きは、やつにとっては想定外だったのだろう。


 なんとか僕のガードが間に合って良かった。

 おかげで、左肘の骨が完全に砕けたが致命傷を免れることができた。

 


 廻。

 防。



 しかし、手応えに違和感を覚えたがドューラスは動きを止めなかった。

 すぐに斜め後ろにバックステップをしながら、大振りな左フックを放ってきた。


 辛うじて反応して右腕でのブロックに成功する。

 僕の右腕がなかば千切れかけるが、なんとか堪える。

 あまりの威力に身体が後方に吹き飛ばされるも、両足で地面に踏ん張って体勢をキープする。


 強い。

 たとえ初撃を防いだとしても、即座に二の矢を放ってくる。

 なんと恐ろしい格闘センスの持ち主だろうか。

 

 正直、勝つイメージが全く持てない。

 どうすれば勝てるのかの検討がつかない。



 ドューラスは距離を保ちながら、僕の構えを確認する。

「なるほど。左肘を下げて右ボディを防いだか。それに、視界の外からの左フックにまで反応するとは。これはなかなかに楽しませてもらえそうだ」

 そんなことを言いながら、満面の笑みを浮かべる。


 戦うことを心底楽しんでいるバトルジャンキー。

 その笑顔に、僕は戦慄する。 

 この命がけの戦いすら、こいつにとっては余興にすぎないのだ。



「左腕を斬り落とせなかったことにお前の強さの秘密がありそうだな。随分と面白い生き物のようだ」

 笑う。

 笑い続けている。

 まるで僕の全てを見通そうとするかのように、笑い声が心に響く。


 その間に、僕は【ヒール】を連打して壊れた身体を回復する。


「数百年ぶりに楽しませてもらえそうだ」

 笑うことを止めた狂神は、拳を下げて、再び闘気をまとう。



 ガードだ。

 ガードを上げて急所を守るしかない。

 拳筋の見極めができていない段階では、スウェーやダッキングで躱すのは不可能だ。


 まだ攻めるには早い。

 不用意に攻めたらガラ空きになったところに、カウンターをもらうだけだ。

 辛い時間が続くが、耐えてチャンスを掴みにいくしかない!



 ステップを踏む。

 リズムを刻みながら、ドューラスの周囲を回るように円を描く。

 

 やはり……。穴が無い。


 しばし、僕がステップをするだけの時間が続いた。 

 隙を見つけることができず、踏み込めない。

 そんな時間がいたずらに流れた。


「そろそろ良いか」

 やつはそう言うと、ステップインしながらの左ジャブを突如として放った。


 僕の両腕のガードの隙間を、巧妙にくぐろうとする閃光のような拳だ。

 その伸びの速さに対応が遅れてしまう。

 隙間を抜ける瞬間に左手で払おうとしたが、軌道を逸らすことはできなかった。

 

 


 ドスッ。

 首を回転させて衝撃を弱めるが、間に合わなかった。

 額に強烈な一撃を喰らった。


 左手で少しだけでも払えたにもかかわらず、とてつもない威力だ。

 僕の額は大きくカットされて、流血がほとばしる。


 痛みに耐えながら、僕は左フックを放ってカウンターを入れようとするが、読まれていたのだろう。

 身体を流すようにして躱されると、今度はドューラスの放った左フックが僕の視界の外から右側頭部に襲い掛かってきた。


 なんとか左に身体を倒しながら、右手を挟んで防ぐ。



 バキッ。


 クッションとして間に挟んだ右腕が容赦なく折れた。

 




 こいつはヤバいやつだ。

 そのとき、僕はたしかにそう思ったのだった。











■■あとがき■■

2021.09.25


「届いた! さすがは日本国内生産。翌日に届くとは!」

 筆者がアマゾ●でポチったブツはすぐに届いた。


 インド上空を何週間も空輸されるようなことは無かったし、中国国内で「お近くの配送店へ到着しました」というレコードを1か月近く追加し続けるようなことも無かった。


 やはり物流に関しては日本がピカイチだな。


 そんなことを思いながら、アマゾ●のダンボール箱を開けると、中から出てきたのは黒を基調にしてパッケージングがされたサプリメントだった。

 その "Black Up Energy" と表示されたパッケージを開けると、茶色のカプセルが出てきた。


 そう。

 この茶色のカプセルこそが、筆者の秘策なのだ。



 初期脱毛で抜けるばっかりで一向に生えてこない理由とは何か。

 その疑問に対して、筆者は延々と考え続けた。


 答えに至る前にストレスで禿げてしまうかもしれない。

 そんな恐怖とも戦いながら、なんとか筆者はある答えにたどり着いた。



 それは、フィナステリドとミノキシジルだけでは限界があるということだった。


 いかに薬物で生やそうとしたところで、毛髪の養分が不足している状況においては発毛は望めない。 

 畑に養分が無いことには、いくら種をまいたところで生えるわけがないのだ。 


 盲点だった。

 この程度のことに気が付かないから、禿げ散らか師てしまったのだ……。


 これからは、先見の無さを深く自省し、サプリメントも摂取していくこととしよう。フハハー!


「じゃあ、さっそく飲んでみるか! ノコギリヤシだけでなく、ケラチンとか色々内包していて19種類も成分があるとか半端ないな!」


 そんなことを言いながら、筆者はまずは一錠飲んで悦に浸ったのだった。




 


 だが、このときの筆者は知らなかった……。


 フィナステリドは、ノコギリヤシの効能を研究して開発された薬物であるということを。

 そして、フィナステリドとノコギリヤシを併せて飲むことは禁忌タブーとされていることを。


 知らなかったのだ……。



(つづく。)

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