第56話 死の気配 "My Last Odyssey"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Darktribe"の"My Last Odyssey"でお願いします!


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「そう怒るな。焦らなくてもすぐに殺してやるからな」

 僕の拳をなんなく指先で受け止めると、身体を交錯するようにしてドューラスは耳元で囁いてきた。


「くそっ」

 僕はバックステップをして距離をキープすると、ガードを高めに絞ってスタンスをとる。

 そして、腹筋に力を入れて、腕を立てて引き絞ることで鉄壁のディフェンスを作り出す。


 ガードを高くしてブロッキングをしながら様子見をすべきだ。

 まさか、指先で、僕の拳を止めてくるとは……。

 力量差がどれだけあるのか想像もつかない。



「予定よりも早く眠りから覚めてしまったが……。起きてしまったものはしょうがない。まだ本調子ではないし、貴様が今までに溜めた経験値を糧にして、完全復活させてもらうか」

 そう言うと、ドューラスは両手を下げたまま僕に向いてくる。


 ノーガード。

 

 僕に相対しているにも関わらず構えようとしない。

 構える必要すらないと思っているのだろう。

 この挑発に安易に乗るのは危険だ。


「どんなパンチか受けてあげるよ」

 僕は高めのガードの隙間から、相手の様子を窺う。


 パンチを視て敵を知ることで、こちらの打つ手も変わってくる。

 まずは、どっしりと構えていれば、瞬時に突き崩されような事態にはならないだろう。

 ステータスという数値の上では、互角ぐらいには戦えるはずなのだから。



 そんなことを考えながら守りを固めている僕を真正面に見据えながら、ドューラスは歩みよる。

 手をぶらさげたままの姿勢だ。

 見た感じだと隙だらけの素人だが、不用意に手は出せない。

 不用意な飛び込みに、どのようなカウンターをしてくるか想像もつかない。

 


 あと数歩で射程に入る。


 固めた両腕の隙間から見ながら、そう思った瞬間だった。







 斬。


  


 ステップを踏みこんでから放たれた、長く伸びる右ジャブが僕の左腕に当たった。

 数歩分の跳躍をして一気に距離を詰めたのだろうが、僕は何が眼前で起こったのかも理解できなかった。


 腕で受け止めた衝撃とともに、激痛が走った。

 そして、おびただしい量の鮮血が噴き上がる。



「ば、馬鹿な!」


 ロングレンジから放たれた右の長いジャブ。

 僕の左腕で止めたはずなのに、その左腕は切り落とされているのだ。

 

 理解が追い付かないなか、噴水のように噴出す血液を脇を締めて押さえ、【ヒール】を連打して腕を再生させる。


 この右拳をまともに被弾するのは危険だ!

 下手に喰らってしまえば、即死だ!


 僕は、右脚を前に出して身体の側面を見せる。

 体側面を前に出すことで、パンチを受ける面積を狭くし、少しでも回避できるようにフットワークを組み立てる。

 そして、右腕でL字を作って、左腕で添えるようにして顔面をガードで固める。


「ほぅ……。腕を斬ったら、生えてくるのか。最近の人間は随分と進化したものだな」

 そうドューラスが呟くと同時に、その左手が動くのが見えた。

 

 僕は左手の軌道を読んで、L字の右肩に力を篭めて顔面を覆う。

 絶対に頭部にだけは被弾できない。

 

 だが、ガードをしている両腕には衝撃は来なかった。

 なぜだ?!!!

 左ストレートが顔面にくるはずでは?!!!





 ボキボキィッ!


 ヤツが放った左拳が軌道を変えて左フックとなり、僕の肋骨を複数本砕いた。


「ぐはっ」

 あまりの痛みに、思わず前かがみになる。

 それでも、なんとか頭部のガードだけは下げないで耐える。

 ここで顔面のガードが剥がれるということは死を意味するのだから。



 しかし、隙を見逃すのような手合いではない。

 たとえ頭部をガードしていたとしても、くの字に折れ曲がった僕の身体は格好の標的だ!



 ヒュゴッ。


 足元から、とてつもない勢いの拳圧が吹き上がってくるのが分かった。 

 

 そして、次の瞬間には、ドューラスの放った強烈な右ボディアッパーが前かがみになっている僕の腹部に撃ち込まれていたのだった。

 



 

 









■■あとがき■■

2021.09.20


「やはり、あとがきが無いと本文の推敲が捗りますね……」

 前回サボることを学んだ筆者が、今後のサボり方を検討していたときだった。


 はらり。


 またも長めの頭髪が一本抜け落ちた。

 初期脱毛の勢いが凄すぎて、最近は手櫛をするのにも躊躇してしまうほどだ。

 手櫛をしただけで1~2本おまけが付いてくるのだから、本当に困ったものだ。


「この髪の毛が全部なくなったら、筆者は死んでしまうのでしょうか……」

 心の声が漏れてしまう。


 洗面台で鏡を見たときなど、以前だったらテンションが下がるだけだった。

 だが、今や、死にたくなるレベルだ。


 はやく異世界から勇者に助けに来てほしい。

 あ、聖女でもいいです。場合によってはスキンケアクリニックの医師でも可。


 初期脱毛が始まってからというもの、頭頂部のミステリーサークルは広がり続けている。

 いまのペースならば、そのうち順調に後退している生え際との結合を果たしてくれそうだ。


 ……横山ノッ●に猛烈な勢いで変身していく恐怖といえば、読者諸氏にもわかるかもしれない……。


「なんとか打開しないと!」

 恐怖にかられた筆者は、苦肉の策として、とある商品をアマゾ●でポチったのだった……。


(つづく。)

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