第55話 超越


「こいつが……悪神デューラス……!」

 

 僕の呟きが聞こえたのだろう。

 その男は立ち上がると、僕の方を向いた。


 


 そいつは、どう見ても全裸だった。



 な、なんて変態なやつだ……ッ!


 僕は内心で驚愕する。

 まさか、裏ダンジョンの最奥で全裸の変質者に遭遇するとは思わなかった。

 


 僕が驚いていることなど無視して、その男はおもむろに口を開いた。



「な、なんて変態なやつだ……ッ! まさか、数百年ぶりに封印が解けたら仮装をした変質者に遭遇するとは思わなかったぞ!」



 なんだと!

 よりによって、この僕を変質者呼ばわりするなんて!


「お前にだけは言われたくないな」

 条件反射のように、僕は言い返した。


 まさか、全裸の男から変態呼ばわりされるとは思わなかった。

 怒りのあまり、はらわたが煮えくり返りそうだ。



「いや、しかしだな。タンクトップとショートパンツはまだ許せるにしても……。アフロヘアーに、その趣味の悪い金色のネックレスと、不気味な革靴という合わせ技はセンスが悪すぎる。さらなる極めつけは首輪だ。なぜ鎖がついていてジャラジャラと引きずっているのだ。もはや理解の範疇を超越してるぞ」

 悪神は鼻で笑いながら言った。


「馬鹿にするな! このセンスの良さが分からないだと! この異常者め!」


 王都でモニカさんにつけられてからそのままになっている首輪だが、実は僕はそこそこ気に入っている。

 このサイコーにお洒落な首輪にケチをつけるだけでなく、トータルコーディネートにも難癖をつけてくるなんて許せない!


「現代風の傾きかぶきといったところか? まぁ、傾きかぶきの語源は、思わず首を傾げることにあるのだがな。まさにお前は当代随一の傾奇者だな。ははは」

  

 くそが! 悪神だけあって、悪口も巧みだな!


「だまれ! 全裸の変質者にだけは言われたくないな!」

 思わず僕は怒鳴ってしまう。


 すると、その男はすぐに反応した。



 シュッ。 


 手を振ったかと思うと、瞬時にしてドューラスはハーフパンツを身にまとっていた。


 何らかの魔法を行使したのだろうか。

 一体、何をしたのかすら分からなかった。


「まぁいい。これで文句はないか?」

 僕を見下すようにして、そう問うてくる。


「いや、まだだ。僕の服装にケチをつけたことに詫びがないぞ!」

「詫びも何も……。どっからどう見ても変な恰好だろうが」




 ブチッ。


 もう許せん。

 堪忍袋の緒が切れた僕は、全力で右拳をはなった。


 



 静。




「そう怒るな。焦らなくてもすぐに殺してやるからな」

 僕の拳をなんなく指先で受け止めると、身体を交錯するようにしてドューラスは耳元でそう囁いてきたのだった。



 












(つづく。BGMとあとがきが欲しければ、いますぐ★と♥をよこすんだ!)

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