第54話 対峙 "Before The Duel"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Dark Moor"の"Before The Duel"でお願いします!


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「いまから討伐させてもらうよ」


 僕が声をかけると、透明感のある青黒い殻のむこうで。

 何かが蠢いた。


 その暗い塊は、ピクリと身震いしただけだった。


 だが、たったそれだけの微かな動きだったにもかかわらず。

 神を前にした、矮小な人間の本能を刺激するには十分すぎた。


「な、なんだ……? ふ、震えがとまらない!?」


 突如として大地震にまきこまれたかのように僕の脚が震えだし、立つこともままならなくなる。


 滝のように噴き出る冷や汗。

 あまりの怖気に、おもわず膝をつきそうになる。

 膝をつきそうになるのを堪えるだけで精いっぱいだ。


 悪神とはいえ神。

 人間とは、次元が異なる存在なのだ。


 その神に、これから僕は挑む。

 存在感の違いを本能が感じ取ってしまい、気持ちが屈しそうだ。


 僕が勝つという保証なんてどこにもない。


 ここで僕が敗れ去れば、クロエと旅立つこともできないだろう。

 原作のスタート地点にすら立つことができずに、僕はその生涯を終えるのだ。


 僕は今更ながらに自分がしようとしていることの意味を理解した。

 この勝負に負ければ、僕は全てを失ってしまうのだ。

 自分の人生も……クロエの人生も。


 これは……人生と誇りを賭けた戦いなのだ。


 僕はこれから人生を対価として、運命というダイスを投げて勝利をつかみ取らなければならない……。


 僕の人生で最大の覚悟の決めどころだ。

 ビビッてなどいられるか!



 パァン!



 両頬を手で叩いたら、思ったよりも音が響いた。

 その音が耳に響いてくれたおかげで、少し冷静になってきた。

 熱を帯びた頬に冷気があたり、心地いい。


 原作の裏ダンジョンならば単独制覇が可能なぐらいにステータスは上がっている。

 やればできる。

 絶対できる。


 人間など、神にとっては塵芥にすぎない矮小な存在にすぎたい。

 そのなかでも最弱の【白魔導士】が努力の末にここまでたどり着いたのだ。


 ここまで努力してきた自分を信じよう。

 恐怖を克服できるのは、自信だけだ。


 明日を迎えるために、僕はこの恐怖に打ち勝たなければならない。

 そして、最悪の未来を粉々に打ち砕こう。

 

 僕は、かすかに聖句を唱える。

 このいつものルーチンで、不思議と落ち着くことができた。

 僕は自然と祈りを捧げていた。

 

 運命神よ!

 どうか、この世を去ることなく再び聖句を唱えることのできるよう、我を守護り給え!


 聖句を唱え終えて、神への祈りを捧げたときだった。

 


 ピシリ。



 卵の表面に亀裂が入るのが分かった。


 しばらく亀裂が広がり続け、ついには卵は割れた。

 そして、割れた青黒い卵殻の先には、一人の男が立っていた。



「こいつが……悪神デューラス……!」

 

 僕の呟きが聞こえたのだろう。

 その男は僕の方を向くと、口を開いたのだった。













■■あとがき■■

2021.09.11


『バンドを組みませんか』

 そんな件名のメールが筆者の下に届いた。


「なんで会社のメールアドレスに……? それに、他ラインのPさんからとは珍しいな……」

 彼と業務上の接点があったのはもう何年も前の話だ。最近は挨拶すらロクにしていない。

「まあいい。迷惑メールでもなさそうだし開こう」

 筆者はメールを開封した。


 すると……。

 

 メール文面には『バンド名は、頭頂スカスカパラダイスオーケストラでお願いします!』と書かれていた。


「ガッデム!」

 筆者は、怒りのあまりPCのディスプレイを叩き割りそうになってしまう。


「くそっ。みんなして馬鹿にしやがって……!」

 AGA治療を始めてからというもの……。

 初期脱毛のせいで、急激にスカりだしてしまっている。


 いまや、当部の最大関心事は筆者の頭部といっても過言ではない。

 いや、すでに他部署にも噂が広まっているのかもしれない。 


 先日など、ヅラ市長から『毛を落とさないでください』とのメールが届いたほどだから。

 だが……ヅラ市長よ。『気を落とさないでください』なら励ましのメールだが、筆者に送ってきた文面だとハゲ増しのメールなのだよ!

 

 苛立ちのあまりストレスがマッハになってしまった筆者は、更に抜毛アンインストールを加速させて頭皮に磨きをかけるのであった。

 まさか初期脱毛がここまで恐ろしいとは思わなかった……。



(つづく。シン・エヴァンゲリオン、今更ながらにアマゾンプライムで視聴しました。TV版と旧劇場版の結末を融合させつつ、ゲーム版や漫画版で明らかにしていた裏設定を混ぜた……まさに"集大成"だったと思います。新劇場版という素晴らしい作品に出合えた人生に感謝!)


 

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