第17話 チート③(きんのネックレス) "Follow Me Home"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Skeletoon"の"Follow Me Home"でお願いします!


------------------------


 血犬を狩りつくした僕は、ソウボ山の中腹に足を向ける。

 ここソウボ山の中腹以降は、魔蜂と呼ばれるモンスターの生息地だ。


 魔蜂は群れを成して襲ってくるタイプのモンスターだ。

 巣の近くになるほど出現率が増えて、一歩進むごとに戦闘になる。

 レベリングに向いているモンスターと言えるだろう。


 だが、恐ろしいのは"麻痺"を引き起こす針を備えていることだ。

 魔蜂の麻痺毒入りの針に刺されると、"運"が低いと"麻痺"というステータス異常に陥ってしまう。


 一度でもステータス異常に陥ってしまうものなら……男は肉団子にされ、女は苗床にされる……。


 "タナカ"の記憶していたCGギャラリーの中にそんな話があった。

 

 一体、どれだけ多くの人が被害にあったことだろうか。

 許せない。

 こいつらは根絶やしにしないといけない。


 だが、いまの装備では、僕も返り討ちにあって肉団子にされかれない。

 ソロ狩りをしていて"麻痺"に陥ったら、それを回復してくれるパーティーメンバーなどいないのだ。



 だから、僕はソウボ山の山道を脇にそれて、第三のチートアイテムを入手するために動いている。

 そのチートアイテムこそ、全状態異常を無効にする"きんのネックレス"だ。



 "イクスパンション・パック"の適用を受けた場合には、ソウボ山の中腹手前ぐらいに縦穴が存在している。

 その穴に潜り込んで奥に進めば、例によってチートアイテムが隠されているというわけだ。


 原作では、縦穴を降りて進んだ先に骸骨が転がっている。

 その骸骨を調べると、突如として雑魚モンスターであるスケルトンとの戦闘に入り、スケルトンを倒すと全状態異常を無効化する"きんのネックレス"がドロップされるという流れだ。



 まずは縦穴を見つけないことにはどうにもならないが……。


 なかなか人が足を踏み入れない山中だけある。

 背丈の高い草に地面が覆われていることに加え、樹木で視界が開けないので非常に探しづらい。


 ひたすら地面を足で叩きながら進んでいると、空振りをする場所があった。

 草むらのなかで、そこだけ足場が無くなるのだ。

 僕に原作の知識がなければ、穴にそのまま落ちて大ケガを負っていたかもしれない。


「あった。ここだな」

 やっと見つけた縦穴の入口は、草で隠されるようにして存在していた。

  


「ジャンプスクワット」

 僕は両腕を上にあげて勢いをつけてジャンプをすると、縦穴の中に飛び込んだのだった。



---------------------


「いたた……」

 穴の壁面に身体を盛大に擦った上に、着地でミスをして足を痛めてしまった。

 なぜ、僕は飛び込んでしまったのだろうか……。

 雰囲気で行動してしまった理由がよく分からない。



『穴があったら入れてみたいということだな』

 謎の邪念が湧きおこるが、僕はシカトをして縦穴を探す。

 最近、こういった邪悪な思考を抱いてしまうのだが……疲れているのだろうか……?

 この邪念のせいでいつか判断を誤って、とんでもないことをしてしまわないか心配だ。



 両頬を掌で叩いて気持ちを切り替えて【ヒール】で回復すると、僕は奥に進むことにしたのだった。



 奥に進むと、ほどなくして開けた空間に出た。


「原作だと、この辺に骸骨があったはずだが……」

 僕が先に進むと、そこには骸骨ではなく、死後一か月も経過していない死体があった。


「くっ……」

 原作よりも五年以上先に行動している弊害だろうか。

 まさか、死体からアイテムを漁ることになるなんて!


 腐臭に吐きそうになりながら死体の懐を漁ると、"きんのネックレス"があった。

 僕はそれを懐に入れると、死体を俯瞰する。


 中年ぐらいの男性だろうか。

 おそらく縦穴に気づかずに落ちてしまって、脚を骨折したのだろう。両足が不自然に折れ曲がっている。

 死体の周囲を念のために見回すと、紙と万年筆が落ちていたのを見つけた。なんとか遺書を残して息絶えてしまったのだろう。

 こんな暗い穴の底で死を迎えるなんて……どれだけ悔しかったことだろうか。僕は名も知らぬ男に同情してしまった。


「しょうがない。遺族の下に届けるしかないな」

 僕は麻袋を【マッスル・インベントリ】で取り出すと、死体と周囲に散らばっている物を入れる。


 男性を包んだ麻袋を【マッスル・インベントリ】で収納すると、僕はつぶやいた。

「最後は……供養をしないと……」

 死体を収納しても、魂が残留してアンデッド化する可能性がある。

 死体を持ち帰って遺族のもとに届けてあげたとしても、魂が掬われなければ意味がない。


 見ず知らずの人だったが、それではあまりに救いがない。

 せめて死後の世界では穏やかに過ごせるようにしてあげたい。


「安らかな眠りにつかれますように」

 彼が死出の旅に迷うことのないよう、白魔法【サンクチュアリ】で周囲を聖別する。

 一瞬にして、周囲の邪気が払われて聖気が満ち溢れた。


「これで大丈夫だろう」

 最後に"きんのネックレス"を数珠のように手に絡ませると、名も知らぬ個人に合掌をする。

 僕は、無音の世界で無心になって祈りを捧げたのだった。

 


 第三のチートアイテム"きんのネックレス"。

 このアイテムには、原作では語られることのなかった背景があったのかもしれない。

 そんな考えが、僕の頭をよぎった。







■■あとがき■■

2021.04.21

 すまん。すまん……。

 戦闘シーンでもないのにBGMを入れてしまった……。

 エピソードにタイトルが合っていたから、つい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る