第16話 ヌル山

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 深夜にも関わらず、僕は慟哭した。



「ウルサイ! 何時だと思ってるの!」

「ごめんよー! 母さん!」



 僕の魂の慟哭は深夜帯には厳しいものがあり、母さんからお叱りをいただいた。


 しばらく静かにして母さんが寝静まったのを確認すると、再び僕は自室でゴソゴソと動き出した。

 


 まさか……!

 "聖油"を使ったがために、全身が黒くヌルヌルテカテカになるなんて!


 僕は姿見の前に移動し、鏡にうつる全身を俯瞰してみた。


「ヌルヌルしてる……。ヌルヌルしてるよ……!」

 母さんに怒られないように、今度は小声だ。


 なんてことだ……!

 もし、こんな姿を友達に見られたら、"オイリー"とか"ヌル山"みたいな不名誉なあだ名をつけられてしまう。


 そのヌルヌルっぷりを鏡で見ているうちに。

 僕はある考えを抱いてしまい、つい呟いてしまった。





「これ……結構いいんじゃないか?」


 よくよく姿見をみると、僕の肉体には以前よりもカットが出ているように思う。

 黒くなった結果、筋肉の印影が明確になっている。

 メリハリが出たおかげで、若干筋肉が大きく見るということだろうか。



 全身に迫力が出て、しかも"力"が上がるなんて一挙両得感すらある。


 

「やっぱり……。お得感があるな……」



 その日、僕はグッスリ就寝したのだった。



---------------------


 それから、ソウボ山での狩りに連日連夜通った。


 群れる血犬に苦しむことはなくなった。

 "聖油"の効果のおかげで、一撃で確殺できるようになったのが大きかった。

 

 パターンが分かってきてからは、わざと血犬に仲間を呼ばせて、仲間ごと一網打尽にすることもあった。

 なんせ、こちらが移動しなくても、敵の方から勝手にやってきてくれるのだ。

 コツを掴めば、これほど時間効率の良い話もない。

 

 そうして、僕はソウボ山の血犬を効率的に狩り尽くしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る