第34話 優しさ "Kindness"
■■まえがき■■
今回のBGMは"Secret Sphere"の"Kindness"でお願いします!
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「ソウカ……。ヤムヲエナイ。序列ガ上ノ者カラノ命トナレバ……従ワザルヲエナイ。何事モ順番ダカラナ」
そう言って、ゴブリンジェネラルは肩を落としながら去っていった。
よほど嫌な命令だったのだろう。
僕も、"人類の敵であるゴブリンに命じる"という免罪符があるから良心が痛まなかったが……。
もし自分が命じられたなら、自死を選ぶほどの屈辱的な内容だ。
これから、ジェネラルがどう動いていくのか楽しみでしょうがない。
ははっ。ざまあみろ!
ジェネラルが去った後、再び室内は静まり返った……。
なんとか僕とジェネラルとの戦闘は終わった。
無事、和解も成立した。
その安堵からか、僕は肩の力を抜いて座り込む。
「つ、強かった……」
口から弱音がこぼれてしまう。
ステータスを確認すると、レベルが38まで上がっていた。
雑魚ゴブリン達だけでなくジェネラルまで倒したのだ。
レベルが順調に上がるのも分かるのだが……。
「それにしては、敵が強いような気がする」
二つの職業を持つことで常識外れのステータスを積んでいるはずなのに。
僕は、現在のステータスを確認する。
H P : 38(+760)
M P :380(+ 38)
力 : 38(+760) ★
知 力:380(+ 38)
操 作:304(+380)
運 :190(+ 38)
もはや、原作では終盤手前のパーティーメンバーのステータス値だ。
職業【筋肉】の伸びには本当に驚かされる。
事実、ゴブリンジェネラルを圧倒的にステータスで上回っている。
しかも、職業【白魔導士】のおかげで回復もできるのだ。
ゴブリンジェネラル単体ごときに負けるはずがない。
そう思っていた。
だが、戦闘の立ち上がりでは思わぬ苦戦に陥った。
なんせ、ジェネラルの格闘技術に歯が立たなかった。
悔しいけれども、格闘技術ではゴブリンに一日の長があるということだろうか。
途中から、フォームやスタンスを盗んだから事なきをえたが……。
ステータス値を覆すだけの戦術を持つ相手が、今後も出てくるかもしれない。
引き続き油断することなく、鍛錬を続ける必要がある。
そんなことを考えていたら。
「う、うぅ……」
広間の奥に倒れこんでいる女性が呻いた。
僕は思索を中断すると、視線を奥にうつす。
僕との戦闘前に、ジェネラルが犯そうとしていた女性が倒れこんでいた。
すっかり忘れていた。
僕は駆け寄って、彼女の容態を確認する。
「これは……ひどい」
思わず僕の口から洩れてしまう。
全身には暴行の跡があり、痣や化膿しかけた外傷が数多見られた。
爛れた皮膚には、幾度となく繰り返された性的虐待の跡があった。
生きているだけでも奇跡かもしれない。
そう思いながら、僕は白魔法を彼女に対して唱える。
自然の理を逸脱した超常の光が彼女を包み込み、そして癒した。
僕のカンストした【白魔導士】の力は、瞬時にして彼女を傷一つない身体へと復元する。
もはや凌辱の痕跡が無くなった彼女に、僕はインベントリから取り出した白いローブをかける。
安らかな寝息が聞こえるようになった。
これで安心だ。
白いローブは、タンクトップを着るようになる前の僕が着ていたものだが……、女性の華奢な身体に被せるには十分だった。
彼女が落ち着いたのを確認すると、僕は広間の奥に見えた扉に向かった。
僕が扉を開けると、武器や防具といった装備品が所狭しと収められていた。
原作でもボスを倒した後にはリザルトがあったので、そういうことなんだろう。
今までの雑魚の持っていた錆びた装備品とは一線を画する。
そんな印象を抱いた。
数打ちとはいえ、研ぎ澄まされた鉄剣。
鉄の鏃が付いた曲がってない矢。
丁寧に編まれた鎖帷子。
どれも、それなりの値段で売り払えそうな装備品だ。
……そのうち、これらの装備品を使って人里を襲撃するつもりだったのだろう。
未然に防げただけでなく、かなりの量の装備品を収奪できたのは幸いだ。
これをどこぞに売り払えば、人類の反攻の一助になることだろう。
僕は、倉庫にあった装備品を全て【マッスル・インベントリ】に収納した。
「戻るか」
今日もかなりの女性を救出した。
さて、近隣の村々に事後対応をどうやって丸投げしてやろうか。
段取りを頭の中で組み立てながら広間に戻ると……。
寝入ったと思っていた女性が身を起こしていた。
「起きていたのか」
僕は声をかけながら近づく。
「良かった」
彼女の不安を和らげるために、僕は穏やかに話しかける。
だが、うつろな目をしながら彼女は座ったままだ。
よほど深く心に傷を負ってしまったのかもしれない。
だが、所詮は僕が受けた心の傷ではない。
彼女の心の傷だ。
彼女が人生をかけて向き合っていくしかないものだ。
さすがに、そこまでは白魔法でも治せない。
「意識を取り戻したようだね。ゴブリン達は僕が駆除したよ。もう安全安心だ」
僕が無責任にそう口走った瞬間だった。
「ふざけるんじゃないわよ! どこが安全安心なのよ!」
女性は突如として感情を露わにした。
「私がどれだけ、あの汚らしいモンスターどもに犯されたか分かっているの?! どれだけ孕まされて産まされたことか! ……もういやぁ」
感情を爆発させて僕に言葉を叩きつけるうちに……冷静になってきたのだろうか。
急に自己嫌悪に襲われて、彼女は悲嘆にくれる。
「……もう殺して……」
「嫌だ」
「なんでよ。殺してよ」
自暴自棄となった彼女に対して、僕は言い放った。
「死にたいなら勝手に死ね」
死にたいのならば、
僕に手を汚させようとするなんて……。
甘えるのもいい加減にしてほしい。
僕の手は、嘱託殺人をするためにあるのではない。
なんで、こんな当たり前のことも分からないのだろうか。
怒りすら覚えながら、僕は女性をまじまじと見てしまう。
見ているうちに、どこか今までの女性たちとどこか違う雰囲気をまとっているように思えてきた。
透き通るような肌や、流れる金糸のような髪。
作りこまれた人形のように整っており、どこか人間離れした印象を受ける。
なぜ、こんな印象を受けるのだろうか?
そんな疑問を抱きながらしばし眺めた結果、僕はその違和感の正体に気が付いた。
「ま、まさか……」
髪の間から伸びる、先端が尖った耳輪。
どう見てもエルフだった。
この集落のゴブリンがなぜ強かったのかが分かった。
このエルフとジェネラルを掛け合わせることで、種の強化を図っていたのだろう。
だが……これは……。
「国際問題なんじゃないか……?」
僕のつぶやきが、建物のなかに響いた。
■■あとがき■■
2021.06.17
本作のPVが2,600を超えました!
ご愛顧ありがとうございます!
もはや筆者のSNSみたいになっておりますが、引き続き本作をよろしくお願いします。
今話のまとめとしては……「俺って優しい」とかって言ってる奴は大抵ドSということです。
社会に出てから身をもって学びました。
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