第35話 置き逃げ
「国際問題なんじゃないか……?」
エルフ。
その特徴的な尖った耳に、白磁のような肌、溢れんばかりの輝きを放つ金髪。
しかもスタイルや体形が整った者ばかりのハイスペック美形ぞろいの種族。
森林地帯に環境を害しないような生活様式でコミュニティを築いていて……、弓や魔法に秀でている。
そんな知識がつらつらと浮かんでは消えていく。
だが……彼らは極力人類とは関わろうとしない。
森林に住まうエルフと、森林を切り開く人類とは対極にあるから。
とはいえ、純粋に価値観が違い過ぎるので距離をとっているというだけと理解すればよいのかもしれない。
モンスターの脅威があるから積極的に森林を切り開くような余裕が人類にはないので。エルフと戦争をするほど憎みあうようなことも無いわけだ。
そして……たしか、原作のスタート時点にはエルフの国が滅んでいるんだよな。
……いまから約五年後か……。
そういえば、原作の仲間キャラに、NTRをかましてくる流浪の民と化したエルフの魔法弓士とかいたし!
あんなクソ雑魚キモ軟弱弓雑魚キャラにクロエが寝取られるなんて!
だめだ。
このまま思考に耽ると、エルフを根絶やしにしてしまいそうだ!
頭を冷やそう。
そう思い、僕は自分に【リフレッシュ】を唱えてクールになる。
いま、僕の目の前にエルフの女性がいるということは……。
ひょっとしたら、現時点で既に魔王軍の標的にされているのかもしれない。
僕の受けた印象では、思っていたよりもゴブリンは武闘派だ。
ゴブリンは意味不明なぐらいの繁殖力を活かして量で質を上回ってくる。
遠距離特化で打たれ弱くて頭数の少ないエルフには、相性が悪そうだ。
エルフの女性を苗床にしてエルフの特性を吸収していけば……、魔法や弓といった打ち手も効果が薄まってしまい……最終的に、ゴブリンに国を滅ぼされたということなのだろうか。
うーん。
まさか、エロゲーらしくゴブリンに苗床にされてエルフが滅んでいたなんて。
そんなエルフのうら若き女性の一人が……ゴブリンに犯され尽くして、僕の目の前にいる。
「一体、僕はどうすればいいんだ?」
憔悴する女エルフを横目で見ながら、僕は頭を悩ませる。
所詮、僕はいまだ十歳のガキンチョに過ぎない。
こんな大きな問題への対処の仕方など、分かるはずがない。
エルフと人類には国交などほとんど無いから、大使館のような施設も存在しないだろう。
ここで目立つような行動をすれば、僕が夜な夜な徘徊していることを、両親に知られてしまうかもしれない。
「まずい……!」
どんどんとダメな方向に考えがいってしまう。
最悪、その辺の村に丸投げするか……。
そんな悪魔的な思考にとらわれてしまいそうになったとき。
僕に天啓が舞い降りた。
「そうか! そうすればいいんだ!!」
……そうして、僕はとある施設に、女エルフを一人置き逃げしたのだった。
■■あとがき■■
2021.06.20
本話を書きながら、入社1年目の頃を思い出しました。
稟議書案を事前審査の担当に持ち込まなければならず……、何度足を運んでも不在だったから担当者の机上に書類を置き逃げしました。
そういえば、そのときの筆者には付箋でメモを入れるという知恵もなかったですね。お恥ずかしい。
しばらくすると、自分のPHSが鳴ったので通話ボタンを押したら……「置き逃げしたのはお前か! 俺は書類を置き逃げするやつが大嫌いなんだ!」と怒られてしまい……、「何回も足を運んだのに居なかったんだもん!」みたいな返事をしたような記憶があります。
若かりし日の筆者もどうかと思いますが、不在時の書類置場を用意していなかった担当者もどうかと思いますね。
懐かしいなぁ。
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