第50話 ワンデリング "Gravewalker"
■■まえがき■■
今回のBGMは"Orion's Reign"の"Gravewalker"でお願いします!
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職業【筋肉】のおかげで、日ごろから僕は暑苦しいぐらいに生気に溢れている。
無駄にポージングをしたくなるぐらいの暑苦しさと言えば、想像しやすいかもしれない。
それぐらい溢れている僕の生気は、この瘴気に充ちた地に棲くう
まるで、誘蛾灯に群がる昆虫たちを彷彿とさせる。
一体、この古戦場でどれほどの命が失われたのだろうか……。
引き寄せられる雑魚アンデッドを【ホーリーライト】を活用して、作業のように倒していると更なる闇の呼び声が聞こえてきた。
「「「「「オ、オオ、オオオ……」」」」」
遠くから、複数のうめき声が聞こえてきた。
それと、足が草を踏み分けるような音もかすかに聞こえる。
今度は団体客のお出ましのようだ。
かつて兵隊だった人間の……なれの果て。
死んだあとも団体で行動するとか……前世は日本人なのかな?
【ホーリーライト】を頭上に灯しながら、立ち止まって聞き耳を立てる。
風に揺れる草木の騒めき。
そのなかで自己主張をするかのように、少しずつうめき声や足音が大きくなってくる。
確実に僕に向かって近づいてきている。
死してなお、生者に対する深い憎悪を宿して……彷徨い続けた結果、やっと僕にたどり着いたのだ。
救いのない話だと思う。
僕が、その呪いを打ち砕いてあげるよ。
「ゾンビワンデリングか……」
無意識のうちに円を描くように同一地点を歩くことを、
隊が丸ごと全滅してアンデッドになった場合には……そのまま隊としての規律を維持してひたすらに
アンデッドによるワンデリングは、原作では経験値をまとめてゲットできるチャンスでしかなかったが……。
実際に目にして、冒涜された魂の無念を思うと胸が痛んでしまう。
彼らを自由にしてあげて、いつか
【ホーリーライト】の照らす縁に、ゾンビの腐肉をまとった脛骨が踏み入ってきた。
聖なる光に照らされる脛骨からは、どこまでも暗い影が地に伸びている。
そして、その影が伸びる先は……死に彩られた夜闇の黒。
その黒い虚無のなかから現れてくるゾンビの群れ。
錆びた剣を引きずるようにして、朽ちた革鎧を身にまとい、骨からは異臭を放つ肉が腐り落ちるかのようにところどころで垂れ下がっている。
かつて王国兵士として存命だったころには、まとった戦装で自らの武威を知らしめていたはずだ。
現在のこの姿は……さぞかし無念なことだろう。
僕は彼らが成仏できるように、聖句を唱えながら隊列の中心ぐらいに範囲回復を打ち込む。
「【エリアヒール】」
「「「「「アッ、アアッ……」」」」」
回復魔法でゾンビにダメージを与えることが可能。
その知識に基づいて、ゾンビに容赦なく回復魔法を打ち込む。
三回ほど【エリアヒール】をすれば、数十体のゾンビが消滅していた。
骨や装備品からは不浄が取り除かれた結果、塵となって散った。
僕は腰をかがめると、地面に落ちているドロップアイテムの"古銭"を拾った。
古い時代の貨幣ということで、骨とう品的な価値がある。
貴金属の含有率も現在に比べて高いから、鋳潰しても良いらしい。
念のため、一つ一つ浄化しながら革袋につっこんでいく。
「さて……行くか」
ほどなくして拾い終えると、僕は前を向いて次のアンデッドを探して歩き出すのだった。
■■あとがき■■
2021.08.17
「随分とお困りのようだね」
「あ、あんたは……ヅラ市長!」
かつて……どこかの部署の誰かが『ああいうヅラかぶった人が市長選とかに出馬してそう』と言った。
そして、いつしか皆からヅラ市長と呼ばれるようになった……社内の有力者のうちの一人。それが目の前の御仁だ。
「お久しぶりです。どうしたんですか、突然?」
筆者がそういうとヅラ市長は口を開いた。
「先日の会議資料を拝見したよ。随分とお困りのようだからね……。少し口添えできないかと思っているので、時間をお借りしていいかい?」
筆者とヅラ市長はミーティングルームに移動した。
少人数向けのミーティングルームに、ヅラ市長と二人っきり……。
生え際に目をやらないように、必死に筆者の目線は下を向く。
さすが、"生え際の魔術師"の二つ名を持つだけある。
なんで若い女性社員じゃないんだろう。
そんなことを筆者は思ってしまうのだった。
「テリードリーム君の業務だが……随分と危機的状況にあるようだね。新規受け入れに対して処理が追い付かず、未処理案件が相当数滞留しているとのことのようだが……」
「おっしゃるとおりです。力が及ばず、まことに申し訳ございません。もはや万策尽きたというのが率直なところです」
毛ほども悪いと思っていないが、形だけ詫びてみる。
体制整備は会社が責任を持つ話であり一社員が頭を悩ませる話ではない、そんなことを思いながら。
「事ここに至っては……私に打開策が一つあるのだがね」
「打開策ですか……?」
ヅラ市長からの思いもよらぬ提案に、内心浮足立ってしまいそうになる。
とうとう要員配置か!
たしかにヅラ市長の配下からなら数人は容易く捻出できそうだ!
喜色を交えて問い返した筆者に対して、少し困惑しながらヅラ市長は続けた。
「ああ……。そちらのラインに要員を配置しようにも、高スキルの人間は人事部が融通してくれないと思うよ。私の配下組織もいろいろと炎上している。短期間といえど高スキル社員に兼務を発令するのは厳しい状況だ」
「えっ」
「バイネームで他部署と交渉したとしても、指名されるぐらいの力のある人材を貸し出してくれるような奇特な部長は……現状、社内では居ないことだろう。そこで……苦肉の策ではあるのだが」
「は、はい」
筆者は思わず息を飲んで、ヅラ市長の次の言葉に耳を傾ける。
ヅラと頭皮との境界線を見極めるように、筆者は前を向く。
「その業務を、社外に委託するのはどうだろうか」
「な、なんですって……!」
そ、その発想は無かった!
たしかに、社外に丸投げすればお金もかかるし品質管理が面倒になるが……どうにかなるかもしれない!
人件費で負担することができないのならば、人件費以外でやればよいということか……!
いままでは、あくまで"社内でどうにかすべき高スキル社員向け業務"と考えていたために、その発想には至らなかった。
まさに盲点だ。
しかし、工程をどうすれば現行とは大きく変わるはずだ……予算は? 稟議は? そもそも委託先はどこにすべきか?
筆者は新たな問題に頭を悩ませ始めるのだった。
(つづく。本作も50話を迎え、PVも5000を越えました。いつもありがとうございます)
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